第24話 ダルク民国攻略編  対【腐王】戦

「こいつはどうしますか?」


駐屯基地の隊長、アルトゥールが敵兵を捕まえていた。


兜の下はまだ十歳ほどの少年だった。怯えて泣いている。


「だめ。殺さないで。まだ子供よ……」


俺の肩に寄りかかっているネネルは小さく呟いた。


「……だそうだ。名前は?」


「……ワグ」


「よし。俺たちと一緒にいろ、ワグ。守ってやる。いい子にしてろよ?」


ワグは頷いた。


「【腐王】はどこにいる!」


「街の真ん中付近にいると思われます」


ウデナガに矢を放ってからマーハントは答えた。


確かに土煙が舞い、上空にハネヌイが集まっている。


「行くぞ! 何とかして倒すんだ」



再び俺たちは進軍を開始した。


【千里眼】を駆使して、迷路のような路地を進んでいく。


途中、母子がキバウに襲われていたので助けた。


俺たちを見てびっくりしていたが、城門に向かえ、と言うと素直に従った。


その後も、ダルクの軍人、一般人に関わらず、目に入った者は救うようにした。


もう、こうなってしまった以上、お互いが敵対する道理はないはずだ。


上空ではカカラルが獅子奮迅の大暴れ。上から燃えた魔物が雨のように降ってくる。


俺も負けじと屋根や壁から出てくる魔物を燃やして進んだ。


後ろのマーハント軍は襲われているダルク兵を助け、チグイの倒し方を教えている。


「ワグ。あの塔の上にあるのはなんだ? 矢か?」


「大型の弩です。鉄の矢を放ちます。でも大昔のものなので、使えるかどうか……」


近くの共闘しているダルク兵にあれを動かしてほしいと言い、数名を行かせた。


地響き、粉塵、悲鳴、魔物の鳴き声。【腐王】は近い。


マーハントの剣がイトアシの足をぶった切り、アルトゥールの矢がウデナガの頭に命中し、


熟練の兵士たちはチグイの突進を盾でいなし、殻の隙間に槍を差し込む。


みんな瞳孔が開いていた。アドレナリンがどこかから漏れそうなほど滾っている。


「楽しいかー!」


マーハントが叫ぶ。


「オオーッ!」と兵士が応えた。


楽しいってさ。こりゃもう戦闘狂の集まりだ。頼もしいけど。


ネネルは隊列の中心で兵士に背負われ、しっかり守られている。


突如、左側の建物が崩れた。粉塵の中から姿を見せたのは……【腐王】だ。


「弓兵!」


すぐに百本以上の矢が飛んでいく。


だが【腐王】の表皮に刺さるも、すぐに矢ごと剥がれ落ち、まったく効いていない。


塔の上を見る。3人のダルク兵が重そうに照準を合わせていた。


「発射しろっ!」


叫んだ直後、ガシュッという音と共に鉄の矢が勢いよく飛んだ。


放たれた矢は3mほどあった。それが【腐王】の腹に深々と刺さる。


「グウウウオオオオオオオオッ!!!!」


「効きましたぞ!」


「よし、下がれ!」


俺はすかさずフラレウムの炎を【腐王】に浴びせた。


もちろん強火だ。ここで仕留める。


全力の業火が火柱となって【腐王】を襲い続ける。


二十秒ほどで限界がきた。全身から力が抜ける。


燃えている【腐王】はしかし、表皮をバラバラと落とし元の姿に戻る。


新陳代謝がティーンエイジャーらしい。すぐ下に新しい外皮があるのだろうか。


まったく、どういう理屈なんだ。


だが腹に刺さった鉄の矢は熱せられ赤くなっていた。


ジュウウウウっと煙が上がっている。腹の中を鉄の矢が焼いているのだ。


狙い通り。身体の内側なら燃えるだろう。


「グウウウウウウウウウウウオオオオオオオオオオオッッッ!!!!!!!」


【腐王】は一際大きく叫び、自ら鉄の矢を抜いた。


派手な音を立てて鉄の矢が転がる。


「マアアアケンンンツウウウウウカアアアイイイイイ!!!!!」


めっちゃこわい。怒り心頭でこちらを睨んできた。


【腐王】は腹から体液を滴らせながら、巨大な手を振り下ろした。


兵士が数名叩き潰される。


「くそっ! オスカー様、下がります!」


俺はマーハント達に抱えられ、移動させられた。足に力が入らない。


眩暈と吐き気もする。魔剣の力を使いすぎたか。


暴れる【腐王】にダルク兵たちも吹き飛ばされる。


【腐王】の触手に何人もかすめ取られ、巨大な口に放り込まれた。


俺たちの頭上に血飛沫が飛び散る。


【腐王】が目の前に来た。絶体絶命だ。


魔剣の力を過信しすぎた俺が甘かった。……ここまでなのか?


俺は最後の力を振り絞り、フラレウムを向けた。


その時、目の隅が光った。


「ネネル殿!」


俺の横を緑色の服と白い羽が通った。


ネネルは手を青白く帯電させながら羽を羽ばたかせ、


強烈なスピードで【腐王】に突っ込んだ。


「ネネル!!」


さすがの【腐王】もネネルのスピードに反応できない。


触手を潜り抜けたネネルは腹の穴に腕を突っ込んだ。


次の瞬間、【腐王】の脳天からネネルのレーザーが飛び出る。


腕を引き抜いたネネルは後ろに数歩下がってから倒れた。


すぐにアルトゥールら数人が回収しに行ってくれた。


【腐王】の方はしばらくふらふら頭を揺らしていたが、


やがてゆっくりと横に倒れた。菌糸の触手はうねうねとまだ動いている。


「……ワレハヒトツニアラズ……スベテガヒトツ、ヒトツガスベテ、


ヤガテスベテハワレニナル……ジカンノモンダイダ……


ワレハマタオマエノマエニアラワレルダロウ……」


地響きのような呼吸音が徐々に小さくなっていき、やがて止まった。


触手もぱたっと地面に落ちる。


死んだ。ようやく【腐王】は息絶えたのだ。


そして周囲の魔物の動きが一瞬止まる。一時の後、一斉に【腐樹の森】へ帰っていった。


終わった。何とか倒せた。全部ネネルのおかげだ。


「オ、オスカー様」


アルトゥールが青い顔だ。


「どうした?」


「ネネル殿が息をしていません」


瞬間、ギュンと胸が痛くなった。俺はすぐに駆け寄った。


「ネネル! おいっ! ネネル!!」


頬をぺちぺちと軽く叩くが、反応はない。


ネネルは呼吸を止めたまま、白い顔をしていた。

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