第15話 円卓会議、商会発足

「この国の問題点は大体わかった」


円卓会議の席にはラムレス、バルバレス、ギル、モルトが座り、


山積みの議題について話し合っていた。


「とにかくイース公国への支払いは予定通り行う。なので王都の道路補修は延期だ。


それと魔物討伐の遠征部隊は村の空き家に宿泊出来るようにすればいい。


食料はこちらが持っていくが、寝床だけ用意してくれと手紙を送っておいて」


「確かにそれなら経費削減ですな。馬車が減る」


バルバレスが唸るとギルもすぐにぶつぶつと計算を始めた。


「しかし、このままだとやはり税収を上げる他ないのではないでしょうか?」


ため息交じりにラムレスは決算書を撫でた。


「だめだ。最悪の手段だよ、それは。俺はゆっくりと税率を下げたいんだから」


「現状の数字を見るととてもそんなことは……」


「税に頼り切っているから駄目なんだ。金がないなら自分たちで作ればいい」


ギル以外は理解していない表情で固まってしまった。


「なるほど、オスカー様の考えている事が分かりました。王家直属の商会を作るのですね」


さすがギルだ。金の事になると頭の回転と目の輝きが一段階上がる。


「そうだ。この前言った通りの場所で銀が大量に出ただろ? 


その売り上げを立ち上げ資金にする。


まずは何より食料問題。南の国境付近にて農地の拡大を行う。


小麦とトウモロコシ、それに芋、油菜の生産量を上げよう」


ラムレスは慌ててペンを走らせた。


「次に畜産だが……森の近くや山間部の農家は害獣に悩まされていると聞いた。


白鹿と牙猪だな? バルバレス、軍の中でこれらの捕獲隊を組織しろ」


「はっ! ……駆除ではなく捕獲ですか?」


「捕獲して飼育する。鶏と兎もだ。食用と、革製品の加工場も作る」


「牙猪はまだしも、白鹿は肉が硬くてあまり流通しないのではないのですか?」


モルトは食にうるさいと評判だ。


「いや、鹿肉は低温調理で柔らかく料理出来るんだ。調理方法を広めれば、


味は悪くないし、良質な肉が大量に確保できる。一度時間を見つけて俺が調理しよう。


でだ、これらの飼育場を、ノーストリリア外縁の森に作ろうと思うが……


あの森はなぜ残してあるんだ? 何か歴史や宗教上の理由があれば考え直すが」


「古くは敵から街と城を守る目的で保護されていたようですが……全て引っこ抜くのでなければ


特に問題ないかと」


ラムレスの説明にみんな頷いた。


「しかし、計画は分かりましたが、人は集まれど、それだけの人件費を用意できませんぞ」


それな。ちゃんと考えてあるんだ、ラムレス君。


「始めは300人いる囚人を使おうと思う。檻に入れてるだけじゃ罰にはならないだろ?


木を切って、建物を建てて、道を作って、無償労働で罪を償ってもらう。


利益が出てきたら、各村から人員を募集しよう」


「……なるほど。それならば可能ですな。流石です、早速準備致しましょう」


ラムレスは下あごをぷるんと揺らし、ギルは楽しそうに計算し始めた。


それから俺は事前に作っておいた鉱脈地図をラムレスに渡した。


暇な時に【千里眼】で地下を探っておいたのだ。


キトゥルセン王国全土、約百ヵ所の掘削ポイント。


「この丸がついてる場所を優先的に掘ってくれ。珪石と石灰石が大量に眠ってる。


これでガラスをじゃんじゃん生産する」


「おお、ガラスは高く売れますぞ!」


ギルのテンションが高い。びっくりする。


「この地図も……いや、もう何も聞きません。


オスカー様は不思議なお方ですな。


まるでこの国を救うために生まれてきたかのように思います。


ここは北の辺境なので今は見向きもされてませんが、


大陸ではいくつもの国が覇権争いをしております。


遅かれ早かれここまで戦火は伸びて来ることでしょう……


しかし、オスカー様がいてくれれば百人力!


民も安心しましょうぞ」


ラムレスの言葉に「その通りです」とバルバレスは頷いた。


「そう言ってくれてうれしいよ。みんなでこの国を良くしていこう」


ギルもモルトも希望に満ちた目だった。


なんだなんだ、いい感じだ。やっと一つにまとまり始めたぞ。


「オスカー様、商会を作るのであれば、名前を考えなければいけませんぞ」


ギルは前のめりで聞いてきた。ちょっと引く。


「ああ、もう決めてある。名前は……ジェリー商会だ」


「ああ! オスカー様! 何という慈悲深く、愛に溢れる方なんでしょうか!


亡きお父上の名前を付けられるとは……もうこれは絶対繁盛致しますぞ!」


ラムレスは号泣した。バルバレスもうるっときている。


モルトは優しい笑みを浮かべ、ギルは目を瞑り頷いていた。




ごめんな、みんな。


この命名は完全に計算さ(テヘペロ



……でも泣くほどとは思わなかったな。


ちょっと胸が痛い。

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