第221話 【千夜の騎士団】、集結

キトゥルセンの放った大型戦闘機械レグザスが、




軍の基地や城の一部を次々と破壊している。




『団長、判明したぞ。




ルガリアン城とガルガンチュア、




そして教国にも一体、計三体だ』




ウルバッハの脳内にレオンギルトからの通信が入る。




『ご苦労。ここは俺がやる。




教国にはパムを連れて行ってくれ。




お前はガルガンチュアの奴を殺れ』




『了解。これは使うのか?




それとも完全に壊していいのか?』




『破壊していい』












聖ジオン教国 




広大な平原はまるで緑の海のようだ。




その中に聖ジオン教国はあった。




国と言っても城ほどもある大聖堂とその周りの町、




円形の高い壁の中だけの小さな領土だ。




人口は一万に満たない。




国民全員が聖ジオン教の関係者だ。




テアトラの領土にポツンとある小さな城……




しかしその影響力は大陸の南部全てに及ぶ。




大聖堂から見える範囲にテアトラの都市が五つある。




いつもなら聖ジオン教国に繋がる街道には、




たくさんの行商と信者が往来していた。




だが今は突然空から降ってきた巨大な人型機械のせいで、




街道には誰もいない。




レグザスは塀の門番塔にレールガンを撃ち込み破壊、




駐屯しているテアトラ軍に火炎弾をばら撒いた。




すぐに周囲の都市からも軍が集結する。




投石器や火などでレグザスの足を止め、




狂戦士化できる獣人族の将兵が襲い掛かった。




物量攻撃の甲斐あって手足を一本ずつ破壊出来たが、




同時に獣人族たちも一人残らず倒れた。




兵たちが絶望する中、急にレグザスが地面に吸い込まれた。




地面が波打ち、ズルズルとレグザスを地中に引きずり込んでいく。




兵士たちは歓喜した。




「パム様っ!!」




「パム様が来てくれた!」




崩れた正門前に土の龍が複数現れる。




一匹の龍の頭にパムはいた。




「もう! 氷の魔女で魔素ほとんど使っちゃったのに……」




童顔ツインテール、




ミニスカート姿の上に黒装束を羽織った姿のパムは、




「でも、こいつ倒せば……




団長、私に振り向いてくれるかしら。うふふふふ」




と独り言を言いながらムフフと微笑む。




その時、レグザスのジェットエンジンが稼働、




徐々に地表へと這い上がってくる。




「しぶといわね……」




パムは龍を向かわせた。




しかし、レグザスは残った一本の腕から、




高振動ブレードを出し、




土の龍を全て斬り崩した。




「土に振動はちょっと相性悪いか―。




こうなったら一気にいくわよ!」




パムは両手を前に出し、




魔素を全開にした。




レグザスが半分埋まってる流砂の周りの地面が、




次々と隆起、円形に波打つ土がまるで波のように、




中心へと向かって迫る。




周囲360度から迫る、逃げ場のない土の津波は、




圧倒的な質量でレグザスを飲み込んだ。




パムは既に肩で息をしていた。




「……これで、最後よ!」




手のひらをぎゅっと握ると、




土の中のレグザスは圧殺された。




「はぁはぁ……お仕事、完了……」




パムは魔素を使い切りその場に倒れた。
















ガルガンチュア




レオンギルトは暴れるレグザスの背後に瞬間移動し、




上空1000メートルに連れて行った。




「さすがにこれで壊れるだろ……」




レオンギルトはしばらく落下しながらレグザスを見下ろした後、




ガルガンチュア郊外の平原に移動した。




少し待つと上空から落下してくるレグザスが見えた。




「あっ……くそ、だめか」




レグザスの背中のジェットエンジンが点火し、




減速しながら静かに着地する。




同時にレオンギルトに向けてレーザーを撃ってきた。




瞬時に消えたレオンギルトは再度背後に回り、




レグザスの足に触れた。




その瞬間、強力な電撃を受け、




レオンギルトは派手に吹っ飛んだ。




「がっ……畜生……効くなぁ……」




自分の力では太刀打ちできないと判断したレオンギルトは、




一旦その場から消えた。




数十秒後に現れた時には傍らに同じ【千夜の騎士団】、




ギルギットがいた。




「おお、これが古代の大型機械人か。




やりがいがあるぜ!」




途端、レグザスのレーザーがギルギットを直撃した。




しかし、ギルギットの身体には傷一つ付いていない。




その後もミサイルや火炎放射、ブレードで斬りつけられても、




血一滴流れない。




「……はぁ、期待した俺が馬鹿だった。




ベミー・リガリオン以来、




俺を吹っ飛ばす奴を待ってたんだが……」




ため息をついたギルギットは、




レグザスの足を蹴り一発で破壊した。




倒れた拍子に腹部を掴んで、




一気に引きちぎり、




首の後ろから数本のケーブルを引きずり出して、




息の根を止めた。




「あ、壊しちまったけど、団長コレ使うんじゃねえの?」




「いいんだってよ」




「あっそ」












ルガリアン城






「ユウリナも相変わらず甘い。




町の方には見向きもせず、




攻撃対象はあくまで軍の基地と城か……」




ウルバッハは空中に浮きながら、




城の一角に徹甲弾を連射しているレグザスを眺めている。




瞬間、レグザスがはじけ飛んだ。




空間を操作する魔剣ムーンジャックを抜いたウルバッハは、




空中をスーっと移動する。




起き上がろうとするレグザスの傍に行くと、




手足を魔剣の力で破壊した。




「……ユウリナ、見ているんだろ」




「……久シぶりねウルバッハ」




レグザスの頭部がギギっとウルバッハを向いた。




「これは腐王の復讐か?」




「それダけじゃない。




私とあナたの対立ハ……




今に始まっタことではないじゃない」




「拾い物のポンコツ機械じゃどうにもならんぞ」




「そんなことはないワ」




レグザスの口が僅かに開く。




危険を察知したウルバッハが対応する前に、




ユウリナはレールガンを放った。




間一髪ウルバッハは魔剣で弾を弾いた。




「今更そんな攻撃で……ん?」




放たれた弾は魔剣ムーンジャックに埋め込まれている石に当たった。




亀裂からまばゆい光が溢れキィィィンンと共鳴音が鳴り響く。




「何をした?」




魔剣ムーンジャックは完全に魔力を失った。




「リアムの魔素から精製した魔弾よ。




ポンコツでも中々やルでしょ」




ウルバッハの視界に『爆発物感知 退避推奨』




と表示される。




「ちっ……」




ユウリナはレグザスを自爆させた。














瓦礫に腰掛けるウルバッハの前には、




【千夜の騎士団】の全メンバーが揃っていた。




八人の黒装束がバサバサと風になびいている。




「団長、なんで怒ってるの?」




事情を知らないユレトは隣のクガに小声で聞いた。




「多分、魔剣を一つ失ったんだろうね」




ウルバッハの傍らに突き立てられた剣からは、




魔素を全く感じなかった。




「一旦、ゼニア大陸の方は引き上げる。




お遊びは終わりだ。やるぞ」




そう言うと、




ウルバッハはムーンジャックから取り出した魔石を片手で砕く。




「つーことは、各自前線に移動か?」




ギルギットは嬉しそうだ。




「ああ、好きに暴れろ」




「でも北も中々の戦力だよ」




釘を刺したのはクガだ。




「フラレウムと魔獣カカラルを消したけど、




まだ雷魔ネネル、氷の魔女クロエ、カサスの女王リリーナ、




機械人ユウリナ、豹人族の将軍ベミー、




ミュンヘルの女王ルナーオ……




危険度最上級が6人もいる。




そしておそらくザヤネも使ってくるでしょ」




「張り合いあるじゃん」




余裕そうなパムに「さっきまでダウンしてたくせに」




とレオンギルトが失笑を漏らす。




「うるさいな。すり潰してやろうか」




「確かに侮れないわ。リアムがやられ、




最大攻撃力を誇るザヤネまでも無力化されている。




舐めていると我々も……」




冷静な顔でユレトは呟いた。




ロングの黒髪が風に泳ぐ。




「まあ、なるようになるじゃろ。




お嬢さんは育ちが良いから頭で考えすぎる。




もっと命の駆け引きを楽しみなされ」




カフカスの助言にユレトは




「深いのか浅いのか分からないわ」




と一蹴した。




カフカスは「あたー」と言いながらも楽しそうだ。




「“ゴーレム〟を起動し、各戦線に送れ」




全員が一瞬止まった。




「……守りに使うはずじゃ?」




クガは眉根を寄せる。




「俺が一人残れば十分だ」




「一人捕えられたが、




まあ、こちらにはテアトラ三将軍がまだ二人いるしな」




レオンギルトは肩をすくめた。




「俺がけしかけてこよう」




そう言った直後、




ウルバッハの顔が、髪の薄い五十代の男の顔になる。




テアトラ合衆国大統領、ザリアムの顔だ。




「ジオー、傷の具合はどうだ?」




「問題ない」




すっかり意気消沈しているジオーは小さく呟いた。




「では執務室まで頼む」




レオンギルドが移動し、




ウルバッハとジオーの肩に手を置いた。




「さあ、仕事の時間だ」


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