第67話 ケモズ共和国攻略編 豹人族の少女

壁の向こう側で保守機械と獣人が戦っている。


豹人族の女の子だった。身のこなしが早く、一見しただけでも強い。


そして中々……好みです。


千里眼で見ているので向こうはこちらには気付いてないだろう。


保守機械は5mほどの細い巨人といった感じの機械だ。それが6体。


床には4体が破壊され転がっていた。


部屋は広く、天井もかなり高い。


立っている獣人は一人。5人が倒れている。いずれも生命反応はなかった。


「イタ。アレハ獣人ネ。恐ラク〝十牙〟デショウ」


ユウリナとはつい先ほど合流した。


通路の天井からぼこっと出てきたので、四人ともビクッとなった。


「加勢しよう」


扉を開け、すぐにクロエが一体の保守機械の足を凍らせた。


「ナイスデス」


ユウリナはレールガンを至近距離で撃ち込み、保守機械の頭部を破壊した。


「コレハ……第5世代レグザス……?」


「なんだ、ユウリナ?」


「イエ、ナンデモナイワ」


保守機械は中々硬かった。


ユウリナとクロエは一対一でも勝てたが、


どうも炎の耐性が強いらしく、俺の攻撃はあまり効果的ではなかった。


それでも苦労して一体を倒した。


リンギオとキャディッシュに至っては、二人がかりでようやく腕一本を切り落としたくらいだ。


その時、獣人が離れた所でうずくまり、身体から湯気を出し始めた。


「おいおい、なんだありゃ」


「うぅぐぐううううがぁぁぁぁッッ!!!」


獣人の身体が変化する。


口が裂け、牙が伸び、眼球も金色に変化した。顔が原種の豹に近くなった。


豹人族の少女は立ち上がり、


上から振り下ろされた保守機械の手を、目にも止まらぬ速さで破壊した。


どう攻撃したのか分からない。気が付けば彼女はもう姿を消していた。


保守機械が次々と鉄くずに姿を変えてゆく。


「お前らぁぁぁッ!! 調子に乗るなぁぁぁッッ!!!」


怖い。すごい形相だ。さっきまでの可愛いお顔は幻だったのかな。


「アレハ獣人ノ〝狂戦士化〟ヨ。出来ル人ハ限ラレテイルワ。アノ子若イノニカナリヤルワネ」


保守機械の残骸が降って来た。


「ああああああッ! どけェェェェッ!!!」


「危ねえ! この区画ごと壊す気か。一旦通路に出よう」


壁や天井まで破壊され、まるで大震災のような有様だった。


「噂には聞いてたけど……とんでもないな、覚醒した獣人ってのは」


キャディッシュは乱れた髪を直しながら苦い顔をした。


すると突然、通路の壁を破って〝狂戦士化〟した豹人が現れた。


鋭い爪が壁にめり込んで、金色に光る瞳はこちらを真っ直ぐ見ていた。


全身からは陽炎が出ている。


牙を剥き、明らかに敵意を向けられている。


「まさかこっち来ないよね?」


クロエは無意識に腰を落とした。気持ちは分からんでもない。


グルルルルと威嚇された。


「いやこれ……大丈夫か?」


「自制ガ効イテナイノカモ……」


「俺たちはキトゥルセンの者だ! 


ウテル王から依頼されてここに来た! 聞こえるか? おい……」


目の前の豹人が消えた。


やっぱり敵として見られてたか、そう思った時にはクロエが吹っ飛ばされていた。


「クロエ!!!」


壁に激突したクロエはピクリとも動かなかった。


リンギオ、キャディッシュがすかさず剣を振り下ろしたが、


気が付けば二人共通路の壁に叩きつけられていた。


隙をついてユウリナがカーボンネットを発射したが、すぐに引き千切られた。


すかさず至近距離で電撃を放つも倒れず、


ボディに拳を喰らってユウリナも後方に吹っ飛ばされた。


砕け散った破片が、頭や腕に当たり、俺は思わず膝を折った。


一瞬。


まじか。


背筋に嫌な汗が滲み、一気に恐怖が競り上がってきた。


やばいやばいやばい。


「オオオオオオッッ!!」


俺は連続で火球を放った。


何発か当たった手ごたえはあった。


「これだけ撃ち込めば……」


息が上がってきたので俺はフラレウムを収めた。


頭から血が流れてきた。さっきの破片で切ったのだろう。


千里眼で見てみると豹人の女は俺の攻撃なんてなかったかのように佇んでいた。


ただ、先ほどとは違い、肩で息をしていた。


金色の瞳が光る。


「待て! 話を聞いてくれ!」


非常にまずい状況だ。


まったく……どうしてこうなった?


「私のォォォ邪魔をォォ……するなァァァッッ!!!」


豹人族の女はとんでもない速さで向かってきた。


「くそっ!」


フラレウムを水平に構え、俺は豹人に向け炎蛇を発動した。


炎の中から豹人が迫る。狂気に満ちた顔。


やられると思った瞬間、人影が割り込んできた。


ギィィィン!と凶暴な音を立て、剣で豹人の爪を止めたのはルレだった。


「オスカー様、お下がり下さい!!」

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