第135話 六魔将シキの実力

「なんで私が軍に同行しなきゃならんのだ……」




「我慢して下さい、これも外交です」




マルヴァジア軍の中にギャイン一行はいた。




馬に揺られながら4000の兵の先頭付近を走っている。




「ギャイン殿! 妹の件、感謝致します! 




やはりあなた方を信用してよかった!」




隣の馬を駆るマルヴァジアの王、




レオプリオは壮麗な武具を光らせ晴れやかな表情だ。




「ははは……こちらも同じですぞ」




ギャインは弱々しく返した。




「おい、もういいだろ。早く離脱しよう」




「無理ですよ、もうザサウスニア国内ですもん」




側近はにべもなく答えた。




「え、そうなのか!? くそ、地理が分からん。




そもそもここはどのあたりなんだ?」




「あ、ほら敵軍です。




我らがキトゥルセン軍、それにミーズリー将軍もあそこにいるはずです」




「なに! は、早く後方へ回ろう、ほら行くぞ」




ギャイン一行は慌てて軍の後方へ移動した。




「さあ、もうザサウスニアのご機嫌伺いは終わりだ!!




みな存分に暴れろ!!」




レオプリオの声に兵たちは拳を上げた。




「オオーーーーッ!!!」
















「珍しいですな、リリーナ様が他国のために動くなど……」




カサス軍将軍、エイヴ・ラバムズはリリーナの横に馬をつけ、




小言を言った。




「【千夜の騎士団】の名を聞けば動かざるを得ん。




まったく……シーロとやらも話がうまい」




リリーナは苦笑した。




「しかし、フラレウムの使い手にも興味があるのでは?」




リリーナの独裁の中で遠慮のない話が出来るのはこの大柄な男だけだ。




「まあな。期待以下なら殺してやるさ」




「おお、怖い。……おや、見えましたな。




部隊長各位!! 戦闘用意!!」




緑色の甲冑に身を包んだ兵たちは、一斉に抜刀した。












「もう! いいところなのに邪魔ねぇ!




後方部隊は方向転換、マルヴァジアとカサスの相手してあげなさい。




負けたら死んでね」




シキは下位将軍にそう言い、




自身は本軍を率いて正面のキトゥルセン軍に突撃した。




「さあ、お遊びは終わりよ!!」










反転してきたザサウスニアの歩兵部隊とマルヴァジアの前衛部隊が激突した。




勢いは同じだが、前線の乱れが収まり始めると、




優勢になったのはマルヴァジア軍だった。




マルヴァジア兵は鎧が豪華で分厚いが、




ザサウスニアは奴隷兵で鎧が薄い。




ゆえに槍の当たりが違うのだ。




マルヴァジアは裕福なので、




一般兵が他国の重装甲兵並みの甲冑を着けている。




「はっはっはっ! 見たかザサウスニア!




長年の恨み、とくと味わえ!!」




レオプリオ王は一際大きな白馬に跨り、




高らかに笑い声を上げた。










カサス軍にはメサーロ犬という、




メサーロ地方固有の大型の闘犬部隊が襲い掛かった。




闘犬達は甲冑を着け、刃が通りにくい。




多くの敵を制圧してきたシキ軍の闘犬部隊だったが、




今回は相手が悪かった。




機械のような正確さで統制がなされるカサス兵は、




前方と頭上に棘付きの盾を隙間なく並べ、




乗り越えてきた闘犬や歩兵を、




後続の三叉槍兵たちが冷静に突いてゆく。




鉄壁のカサス軍は掛け声と共に一歩また一歩と圧していった。






前線中央で指揮を執るリリーナにも闘犬が五匹飛び掛かる。




「バカ犬め……私に逆らうなど……身の程を知れ!」




リリーナは薄ら笑いを浮かべながら、




魔剣メロウウォッチを抜き、




飛び掛かる闘犬達を空中で止めた。




すかさず近衛兵が三叉槍で処理する。




眼帯の女王は魔剣の力を開放し、




対峙するザサウスニア軍の中央に堂々と入っていった。










「まったく、あなたのような素敵な女性が敵軍だなんて!!




運命はなんて残酷なんだ!」




ギィィィィンンっと激しい剣の衝突音が鳴り響く。




六魔将シキと【骸骨部隊】隊長キャディッシュが衝突した。




「あら、あなたもいい男……ウフフ、私の部下に欲しいわ」




「え!?」




「え? じゃねえよキャディッシュ!!




まじめにやれ!」




近くでシキの近衛兵と戦ってるアルトゥールが大声を上げた。




剣を弾いて何度か打ち合う。




「ぬう……さすがは六魔将! 一筋縄ではいかないな」




激しい剣劇を繰り広げる二人の実力はほぼ互角に見えた。




周囲では激しい混戦が繰り広げられ、




バタバタと両軍の兵が倒れていく。




「キャディッシュとやら。




有翼人のくせに空から攻撃してこないとは紳士ね。




ますますいい男……」




剣を振るたびにシキのたわわな胸がぶるんぶるん揺れる。




「ううう、集中できない!! それも武器か!!」




「??? 何を言っている?」




シキは一瞬の隙を突いてキャディッシュの翼を突いた。




「ぐあっ!!」




よろけたキャディッシュをシキは蹴り倒す。




「あなた本当にこっちに来ない? 




私、顔のいい男大好きなの」




妖艶に笑うシキはキャディッシュの喉に剣を突きつけた。




「う、嬉しいお誘いだが……キトゥルセンは裏切れない。




君にやられるなら本望……ぐええっ!!」




その時、何者かがキャディッシュの翼を踏み、




シキの剣をはじいた。




「い、痛いじゃないか」




キャディッシュはその者を見上げた。




シキは数歩下がり、ため息をつく。




「……取り込み中よ? 失礼な人ね。




で、今度は誰なのかしら?」




その者、長身の女剣士は剣先をシキに向け応えた。




「ミーズリー・グランツだ」




「あーら軍団長さん。




どうする? 女同士、お菓子片手にお喋りでもする?」




「バカかお前は」




ミーズリーは剣を構え、シキに襲い掛かった。




金属の狂暴な衝突音。




涼しい顔でそれを受けるシキ。




「冗談の通じない女はモテないわよ」




シキは邪悪な笑いを見せた。

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