第13話 魔獣は鹿が好きらしい

王の間の円卓にてラムレスと事務作業をしていたら、机が揺れた。


「地震ですな」


そんな大きくないので、無視して書類にサインしまくっていたら、


バルバレスの部下が慌てて入ってきた。


「失礼致します、オスカー様、ラムレス様! 


牢に入れておいた魔獣が目を覚まし、あ、暴れ始めました!


現在将軍が抑えておりますが、牢が壊れる寸前でして……」


また小さな地震が来た。


ん? もしかして、これ地震じゃなくてその魔獣のせい?


よし、この書類地獄から抜け出せる。


「わかった、俺が行こう」



地下に向かうまでの道で、兵士は簡単に説明してくれた。


墜落した時点では虫の息だったので、嘴に鉄の輪を嵌め、足に鎖を付けて


牢に入れたらしい。どうやらその魔獣は炎を操れるようで、羽を動かすだけで


熱風が起きるという事だ。


地下には兵が大勢集まっていた。


「オスカー様!」


「おい、王子様がお通りになられる! 道を開けよ!」


牢の前にはバルバレスと十名の兵士が、鉄格子の隙間から長槍を入れ、牽制していた。


鉄格子が歪んでいるので、体当たりして逃げようとしたのだろう。


既に足の鎖は千切れていた。


「オスカー様! 危ないのでお下がり下さい!」


バルバレスが俺に気付いて叫んだ。


魔獣は深紅の巨鳥で、フォルムは完全にタカやワシなどの猛禽類だ。


ただ頭から首までたてがみがあり、尾がかなり長かった。


そして鋭いくちばしが魔石で出来ている。角度によって赤や紫に光り、まるで宝石だ。


高さは2mを超えている。羽を広げたら幅は8mはあるだろう。


しかし牢が狭いので完全に羽は広げられないでいる。


落ちた際の怪我は見受けられない。化け物か。


「バルバレス、下がれ。俺に任せろ」


何か言いたそうな顔をしたが、バルバレスは部下と共に引いた。


俺はフラレウムを手に魔獣の前に移動した。


魔獣は目を大きく見開き、ふーふーと荒い呼吸で、興奮している。


めっちゃこわい。


でもみんな見てる。がんばれ、俺。


手に汗握りながら檻の中に入る。


一つ発見したことがあった。魔剣を持っている時は炎に当たっても身体に害がないのだ。


火傷もしないし、熱くもない。部屋の暖炉に当たっている時に気が付いたのだが、


試しに魔剣を部屋の外に置いて、暖炉に手を突っ込んでみたらめっちゃ熱かった。


部屋で一人で馬鹿みたいだった。


検証済みなので自信がある。この魔獣は俺に対して無害だ。……そう願いたい。


「おい、落ち着け。俺はオスカー・キトゥルセン。この国の王子だ。


お前を傷つけはしない。俺の言葉が分かるか?」


魔獣は人間の言葉を理解すると聞いた。


こちらを見て動きを止める。通じたか?


けどグルグルと喉を鳴らしている。完全に威嚇だ。


「先日の火柱でお前は落ちたな? あの火柱は俺が出したものだ」


フラレウムを超弱火で発動させた。刀身全体を炎が覆う。


兵士たちから歓声が上がった。て、照れる。


魔獣はクゥと鳴いて羽を閉じた。怯えた表情だ。


よし、やっぱりこの魔剣の方が強いみたいだ。ここは強気で攻めろ、俺。


「まあそう怖がるな、獲って食おうって訳じゃないんだ。


自由にしてやるよ。ただし、今から二つの運命を選べ。


一つ目。今まで通り好きに生きていい。ただ、俺の国の国民や家畜を襲うのであれば、


容赦なく焼き殺す。逃げても無駄だ。どこまでも俺の炎がお前を追っていくぞ。


二つ目。今後、人も家畜も襲わないと誓え。そして俺とこの国のために働け。


もちろんタダとは言わない。メシも寝床もこちらが用意しよう。


それと許可した森でなら狩りをしてもよい。どうだ、悪くないだろう?


……お前は今、人生の岐路に立っている。選択肢を間違えると死ぬぞ。よく考えろよ」


俺は魔獣のくちばしの鉄輪に手をかけた。


「ああ、オスカー様気を付けて」


ラムレスの絶望した声。


あれ、手が震えてるぞ。確かにこの人生で一番の恐怖だもんな。


大丈夫、大丈夫、だってこいつの方が怯えてたもん。


ガチャと重い音を立て、鉄輪が外れた。


クゥカカっと小さく鳴いて、魔獣は俺に首を垂れた。


「俺と共に生きるか?」


クゥ!


「よし、じゃあ今から友達な。何が食いたい? 牛か? 豚か? 鹿か?」


魔獣は鹿の時に目を輝かせた。鹿は今増えすぎて困っている。丁度いい。


「みんな聞け! 今からこいつはキトゥルセン王国の一員だ! 仲良くしてやれ!


お前はこいつらを喰うなよ? 分かったか? ……よし! バルバレス前へ!」


「はっ!」


「こちらはバルバレス将軍だ。お前は暴れて手間をかけさせたんだ、将軍に謝れ」


クゥ!と鳴いて魔獣はバルバレスの身体に首をこすりつけた。


猫か。意外と可愛い。


バルバレスも戸惑っている。意外と可愛い。


「よし! バルバレス、お前も槍で攻撃したな。こいつに謝れ」


「はっ!」


片膝を付いて「すまなかった」と頭を下げる。


魔獣は小さく鳴いて、もう一度首をバルバレスにこすりつけた。


「よし、終わり! 外に出るぞ! 鹿を用意しろ!」


兵士たちが笑顔で返事をし、鉄格子を外しにかかった。


「お、お見事です、オスカー様!」


檻の向こうでラムレスが号泣している。


「助かりました。まさか味方にしてしまうとは」


苦笑しながらバルバレスは魔獣の首を撫でた。


魔獣もクッククーと嬉しそうに鳴いた。


そうだろう、そうだろう。俺の株、爆上げだろう。


何と言ってもこの国の指導者だからな、恥ずかしいとこは見せれないもんな。



あれ、また地震? ……違った、自分の膝が震えてるだけだった。


あれ、脇に水掛けたっけ? ……違った、ただの脇汗だった。


あれ…………いやいや、うん、股間は大丈夫。濡れてないよ。







ほんとだよ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る