第109話 【骸骨部隊】vsタイラム家

草原を流れる小川の傍に野営地はあった。


大量のテントと煙の線が見える。


既に空は紫色に染まっていて、


松明の明かりが一つまた一つと増えていく。


「月が真上に来たら作戦開始だ。準備を怠るな」


ダカユキーの檄に他の三人は頷く。


「我々はオスカー様直々にご考案の精鋭部隊。


失敗は許されない」


「当たり前だ。こんなところで躓くわけにはいかない。


一刻も早くクロエの所に行かなければ!!!」


アルトゥールの声にキャディッシュは鼻息荒く答える。


「急げばいいってもんでもない。期を待つのも重要さ」


ルレはのんびりしているようで目つきは鋭い。


【骸骨部隊】は草原を望める山間部にいた。


四人の隊長たちは右目だけを青く光らせ、


敵野営地に放った機械蜂3匹の映像をくまなくチェックしていた。


「そういえばダルハン軍団長もうドーソン家を潰したな」


「ああ、さすがだ。夕方には終わってたな」


ダカユキーとアルトゥールは話しながら、


視界のマップに暗殺対象者がマークされていく様子を見ていた。


「ベミーとミーズリーも今始まったぞ。ああ、心配だ!


今すぐ駆け付けたい!」


「君はさ、どうしたいの? 体は一個しかないのに」


騒ぐキャディッシュにルレは苦笑した。


「僕はか弱い女の子を放っておけないんだよ」


「男の鏡だね」と言いながらルレはお茶を飲んだ。


「でもさ、二人とも君より強いから心配しなくてもいんじゃない?」


そうだそうだとダカユキーとアルトゥールも加わった。


キャディッシュは、そうなんだよなぁと遠い目をした。



キャディッシュ隊の背中からアルトゥール隊が、


敵野営地の裏手に静かに降りた。


「じゃあね、シボ。気を付けるんだよ」


「あ、ありがとうございます……」


ルレ隊からは副隊長のシボが出向していた。


アルトゥール隊はタイラム家の将軍、


ゴッサリア・タイラムの暗殺が任務なので、


いざという時、腕の立つ剣士は一人でも多い方がいいという判断からだ。


敷地内に入ったアルトゥール隊は見回りの兵を二名、後ろから音を立てずに始末し、


テントが並ぶ通りに進んだ。


アルトゥールは機械蜂が指定するテントに、


連弩兵含む6名ずつの小隊を振り分けて潜入させ、


重装甲兵士団、通称〝銀騎士〟と呼ばれる精鋭兵を次々と暗殺させた。


アルトゥールと部下2名、そしてシボは一番豪華なテントの裏手に立った。


「行くぞ。目標のゴッサリア・タイラムはひげを生やした50代の男だ」


「分かった」と頷いたシボは名剣ブロッキスをすらりと抜いた。


天幕を切り裂き、テントの内部に突入するとすでに寝台に姿はなかった。


「賊め!!」


既に危険を察知し起きていたゴッサリアは上半身裸で切りかかってきた。


7名ほどの副官や護衛達も剣を振りかざし向かってくる。


味方の連弩兵は一人を撃ったところで首を飛ばされた。


襲い掛かってきた三人をシボが流れるような剣技で切り伏せ、


もう一人の兵士、ヴァンダム・トーランも二刀流のタガーナイフで4人を倒した。


アルトゥールはゴッサリアの剣捌きに多少てこずったものの、


起きたばかりの体の温まり切っていない相手に負けるはずもなく、


最終的には派手に首を飛ばし、奇襲を成功させた。


「ヴァンダム、首を持ち帰れ」


『暗殺成功。ゴッサリア・タイラムを打ち取った』





同じ頃、ルレ隊の白毛竜に二人乗りする形で、


敵野営地の左側に移動したダカユキー隊は、


機械蜂にマークさせていた部隊長テントに部下を次々と送り込んでいた。


忍び足で数人ずつが暗闇に紛れて指定されたテントに潜入していく。


耳をすませばカシュ、カシュと連弩の音が至る所から耳に届く。


「お前たちは正面だ。お前たちは右の奥、行け。


お前らはあそこの二つだ」


ダカユキーの指示に黒ずくめの男たちが散っていく。


『暗殺成功。ゴッサリア・タイラムを打ち取った』


アルトゥールから報告があった。


『ルレ隊、こちらももうすぐ終わる。準備しておけよ』


『了解でーす』




『ルレ隊、こちらももうすぐ終わる。準備しておけよ』


ルレ隊はダカユキー隊を降ろした後、


離れた場所に白毛竜を待機させ、


野営地左の馬車や投石器などが置いてあるエリアに潜入した。


ルレ隊の任務は食糧庫と馬車、投石器などの破壊だ。


「隊長、ウチだけ簡単すぎやしませんか?」


1班班長のレグロが声を抑えながら毒づいた。


「いいじゃん、楽で。暴れたいなら最後ちょっとだけ……やる?」


「え? いいんすか?」


「何事も予想通りにはいかないもんだしね。


多分、どこかでバレるんじゃないかな」


「……相変わらず呑気ですね。だからあのシボさんとうまくやれてるのかも」


「うまくやれてる? ように見えるならいいか。


実際は尻に敷かれてるような気もするけど」


「夫婦みたいですね」


「やめてよー」


遠くで叫び声が聞こえた。剣の音もする。


「あ、ほらね。バレた。みんな配置についたのかな?


ついた? あ、そう。んじゃ火付けちゃって」






「むむ。バレたな。全員降下!


火矢の用意をしろ!」


上空で待機していたキャディッシュ隊は急降下すると、


テントに向かって火矢を放った。


みるみるうちに火は大きくなり、


野営地の至る所で火事が発生、敵襲の知らせはかき消された。


『全隊撤収! キャディッシュ頼むぞ!』


『言われなくても!』


ダカユキーの声にキャディッシュは力強く応えた。


有翼人部隊は空から矢を放ったり、


猛禽類が狩りをするかの如く、


急降下して3,4人ほど斬ってまた上がる。


「ん? ルレは何やってるんだ……」


野営地の左側では逃げるはずのルレ隊がタイラム兵を襲っていた。


更にその北側では白毛竜が群れで敵兵を蹂躙している。


『おい、ルレ。早く撤退しろ』


『あ、バレた。はいはい、今するよ。みんなー帰るよ!』


「なんて緊張感のない奴だ……あ、シボは大丈夫かな。


シボちゃーん!!」


電光石火の勢いでタイラム家の兵力を半減させた【骸骨部隊】は


完全に闇夜に気配を消し、明け方まで姿を現すことはなかった。



夜が明け、至る所から黒煙を出す野営地を、


4人の【骸骨部隊】隊長たちが、近くの山の中腹から見ていた。


「うまくいったな。


しかし、この〝チップ〟とやらがなければこんなに簡単にはいかなかった」


ダカユキーはこめかみを擦った。


「ユウリナ神さまさまだな」


アルトゥールはシボのブロッキスを眺めながら相槌を打つ。


「次、俺にも見せてくださーい」


副隊長のルゼルもブロッキスに興味津々のようだった。


『オスカーだ。みんなご苦労だった。


こっちはもうすぐ着く。合流の準備をしとけよ』


全員がびくっとなり、4人は慌てて「はっ!」と返事をした。


あっちぃ! とルレはお茶をこぼした。


前方を見るとボロボロの敵野営地を、


先行してきたカカラルが火を噴いて襲っていた。


【骸骨部隊】が山を下りる頃には、


オスカー率いるバルバレス軍がタイラム家の野営地を飲み込んでいた。

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