第7話 国内事情

ラムレスさんが説明してくれた内容をまとめてみた。


まず地理的に、このキトゥルセン王国は北限のロース半島に位置している。


半島は縦に出っ張っている訳ではなく、東西に長く広がっている形だ。


ロース半島の中央、七つの国に囲まれた完全な内陸国。


国内は中心に王都ノーストリリア、そして王都を囲うように森が広がり、


その外側は四方の国境まで広大な平原が続いている。


平原の中に全部で十の村が王都を囲うように点在していて、


それぞれがここから一日から二日あれば到着する距離だ。


俺の故郷、コマザ村は比較的遠い場所だった。


十ある村の名前は正直すぐには覚えられない。


今までは両隣の村の名前さえ知っていれば問題無かったのだ。


なので地図に時計を合わせ、真上にある村を12時村、右の村を3時村といった具合で覚えることにした。


俺のいたコマザ村は6時村という事になる。


ちなみに4時と10時は空き番だ。その方角に村はない。


各村には500人ほどが住んでおり、王都には2000人。


総人口は7000人。その内、軍人は1000人。



産業は北の鉱山から採れる鉄、宝石、石炭、銅、その他、林業、羊毛、毛皮などがある。


一時期は地下資源で潤っていたが、今は採れなくなり鉱山は閉鎖、他も細々としており、


ここ数年は財政赤字が続いている。


国民の大半は農民で、ほとんど自給自足の生活。一部の商人が貿易で儲けているが、


それ以外は貴族でさえも裕福ではないそうだ。


最近は流行り病で死ぬ者が急増。働き手も足りず、元々小さな経済がより小さくなり、


犯罪に走る者も多く、負のループに陥っているとのこと。


城に仕える者も30人程だし、これでは国というより辺境を任された貧乏貴族レベルだ。


おまけに畑を荒らす害獣や、家畜を狙う猛獣や魔獣も増えているらしい。


問題山積みの死に体の王国……どうやら相当にめんどくさい事態だ。


とりあえず一つ解決しておくか。


「大体解りました。ありがとうございます、ラムレスさん。ちょっと書くモノを頂けますか?」


「は。ではこれを。……オスカー様、私に敬語は必要ありません。あなたはこの国で一番偉いのですから」


「あーはい……そうですか、分かりました」


「いえ、分かっておられません、オスカー様」


「あ……分かった。以後そうする」


ラムレスは嬉しそうに頷いた。


うーむ、慣れん。


渡されたのはごわごわの羊皮紙と鳥の羽で出来たインクペンだ。


「ここが現在閉鎖されている坑道として、ちょっと待って……


一番奥の行き止まりを後200m掘るように。あと13番坑道の右30m、


あ、7番坑道の左300m、これは凄い……ああ、これは凄いぞ。


渓谷の反対側の岩山、山道に入ってから100mの大きな一枚岩の下、ここを掘れ。


後は、村と鉱山の間にある丘を全て……こんなもんか」


俺は簡単な地図を描いて掘削するべき場所を記した。【千里眼】、なんて便利な能力なんだ。


「オスカー様、これは……」


「鉄、石炭、銅、銀、ダイヤ、水晶、その他もろもろだ。


作業員と職を探している者を集め、掘削を再開させろ」


「いやしかし……」


ラムレスは3人の顔を順に見た。誰も何も言わない。


あれ、やっぱり?


「この情報をなぜ知っているのですか? いえ、オスカー様を信じてない訳ではありませんが、


発掘作業を再開させるとなるとそれなりに出費がかかるもので……」


ラムレスは不安そうな顔、ギル・リエモンは険しい顔で目を押さえている。


当然っちゃ当然の反応だろう。でも【千里眼】の事は言いたくない。


「あれだ、そのー……知り合いに鉱山で働いてた者がいてな。


本当はまだ掘れるはずなんだが、責任者と意思の疎通がうまくいかなかったらしく、


それに加えて、人も道具も足りないもんで諦めた場所がたくさんある、


という話を聞いてたんだ。一般人には有名な話さ」


どうだ、信じろ! もう一押しか?


「現場の情報の信憑性は、現場が一番高いぞ? 間に人が入れば入るほど事実は曲がっていくものだ。


城の中にいればあらゆる情報は入ってこようが、それは詳細の削られた二級品の情報でしかない」


これでどうだ!


「なるほど……承知致しました。まずは二か所だけでもよいですか?」


「ああ、構わない」


うん、これで少しは潤うだろう。


しかし、ラムレス、すぐさま妥協案を出してくるとは。見かけによらず頭の切れるヤツだ。


「ラムレス殿、少しいいか?」


急にバルバレスが立ち上がったので驚いた。


なになに? めっちゃ怖いんですけど。

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