第142話 機械蜂

一カ月前。




ノーストリリアにある十神教の神殿から10匹の機械蜂が放たれた。




通常よりも大きく、特別な機械蜂だ。




全ての個体が自らの身体の半分ほどもある筒を持っている。




そのうちの一匹は、




コマザ村のはずれの森の中、小川の傍の崖に筒を設置した。




崖の岩に置かれた筒はプシュッと小さな音を立て、




蓋を開けた。




中から極小の虫型自動増殖機械が大量に出てきた。




虫型自動機械は筒を中心に巣の構築を始める。






女王機械蜂は素材を採集しに森の中を飛んだ。




川原の岩の中に目的の岩石を見つけると、採掘を開始する。




他にも水や樹脂なども集めて回る。








やがて岩の隙間に小さな丸い巣が完成した。




内部は複製装置製造工場になっている。




小さな工場からは一日に3匹の機械蜂が製造される。




数が増えれば増えるほど採集範囲は広がり、




集められる素材は膨大になった。




それに伴い巣は日々拡張される。




数匹が合体、変形し、掘削機械になって岩場を削る。




機械蜂達は採集、警戒、監視、通信などに役割分担し、




24時間休みなく働いた。




巣の外装はソーラーシステム、内部には溶鉱炉、製薬装置、




金属加工工場等が詰め込まれている。




キトゥルセン連邦王国内にこのような機械蜂の巣が10作られ、




ユウリナのネットワークは着実に拡大していった。




更に上空には衛星の役割を担う機械蜂が常時飛んでいる。








たった今巣から飛び立った機械蜂を仮にリタと名付けよう。




彼女は4日前に生まれた。




ボディの稼働チェックをしたらすぐに採集へ向かい、




仲間と共に金や銅を運んだ。




その日の午前中に特別な指令が下された。




リタは仲間の元を離れ、南に向かう。




生まれた巣の活動領域を出るとリタは上空へ高度を上げた。




数秒に一回、電気信号が体を通る。




他の機械蜂から流れて来たネットワーク通信だ。




どの方向に何体の仲間がいるのか常に把握し、




風速や遠くの雲、湿度などの外的環境も観測する。




自分に害をなすモノについてもある程度事前に確認できる。




例えば今右側から向かってくる小型の猛禽類のように。




鋭い鉤爪に襲われそうになった時、瞬間的にスライド飛行で回避、




近くで電撃を見舞った。




死ぬほどの威力ではない。




驚いた猛禽類は慌ててその場から去っていった。




その後もリタは風を計算しながら順調に進んだ。




やがて目的地に着く。




そこはザサウスニア国内の戦場だった。




敵味方入り乱れる混戦の上空でリタは待機する。




他の機械蜂もたくさんいた。




リタの視界はユウリナに繋がっている。




しばらくすると管理者がユウリナからオスカーに変わった。




そして命令が下される。




リタは急降下、目標の腐王目指して滑空した。




小さなピーという警告音は、誰の耳にも届かない。




衝突と同時にリタは自らの身体を爆発させた。

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