第157話 ザサウスニア帝国、陥落&新たなる脅威

姿を消したハイガー旅団以外はすべての敵を倒した。




俺たちは全員で謁見の間の奥まで進み、




玉座に座る皇帝の前に立った。




「……お前が皇帝、レニウス・ザサウスニアだな?」




フラレウムに火をつける。威嚇だ。




肥えた身体の皇帝は慌てるでもなく怯えるでもなく、




ただ、暗くどろんとした目をこちらに向けた。




「……ここまで来るとはな、お見事だオスカー・キトゥルセン」




玉座の後ろには慌てふためく文官が十名ほど。




「……国は頂く。お前が始めた戦争だ、責任を取るんだな」




「好きにしろ。国の事などどうでもいい……ただひとつ……」




「……ただ一つ?」




「オスカー・キトゥルセン。お前に見せたい場所がある」




大勢の兵に囲まれる中、皇帝は恐れる素振りも見せずに立ち上がる。




「何を悠長に……この状況を分かっているのか!」




リリーナが吠える。




「待てリリーナ。それは……ここの地下のことか?」




皇帝は眉を上げた。




「なぜ知っている……?」




「俺も気になっていた。……いいだろう、行こうか。




皆はここで待機、【王の左手】と……スノウ、5人ばかり連れて来てくれ。




それと、城は落ちたとみんなに知らせろ」










玉座の両脇に王族用の豪華な椅子、




その後ろにバカでかい赤いカーテンがある。




地下に降りる秘密の階段はそこにあった。




俺たちは狭く暗い階段を下りて行った。




この城の約四分の一を占める古代遺跡は、




おそらく昔の宇宙船か何かだろう。




縦に埋まっている周りに城が作られている。




外壁は千里眼を通さない素材だったので、




中に入ってすぐに確認をした。




後から作られた木製の階段は延々と下まで続いていた。




滑らかなパネル壁やパイプむき出しな箇所、




ケーブルの束が滝になっているところなどが、




所々に設置されたランプの弱々しい光で照らし出されていた。




やがて最下層に着く。




地面は土だ。




墜落した時に船が折れたイメージが浮かんだ。




広さは家が四軒ほど入るくらいか。




階段横にベッドや家具が置かれていた。




誰かがここで暮らしているのか?




壁からは樹の根が垂れ下がっている。




その中に一つ、透明に光る根があった。




「……これだよ」




皇帝は長い階段で息を切らしていたが、




先ほどとは違って目がイキイキしていた。




透明に光る根の前で皇帝は膝をつき、




自らの子供を愛でるようにそれを撫でた。




「……〝ガシャの根〟」




呟いたソーンに視線が集まる。




「誰も触れるな。気が狂うと聞く」




ソーンが言うにはとても珍しいもので、




大陸でも数えるくらいしか発見されていないらしい。




「ふん、それはただの噂だ」




皇帝は鼻で笑う。




近くで見るとそれはダイヤモンドのような石で出来ていた。




と言うか透明に石化した樹の根……




いや、宝石になった樹の根という表現が一番分かりやすいか。




「夢を見ている……旧世界の、とある男の視点だ……。




この〝ガシャの根〟に触れてから毎晩だ」




恍惚に満ちた表情で皇帝は語り出した。




「天に届く建造物、鉄の乗り物が街中を走り、空も飛び、




星の外へも行ける……。




高度な社会、便利な道具、大規模な戦争、




見たこともない兵器、街を一つ消せるほどの……。




温かい湯が簡単に出たり、指で触るだけで火を操れたり……




巨大な都市は夜も明るい……。




夢中になった。毎晩眠りに就くのが楽しみでしょうがなかった。




だがある時気が付いた。これは夢ではないと」




皇帝と目が合う。




「夢じゃないならなんだ?」




「私は調べた。人を使い、古い文献を集め……




こちらの世界の事はどうでもよくなった。




国の事も、女も、子供も、興味が失せた。




この部屋で寝泊まりするほど熱中した。




……やがて一つの答えにたどり着いた。




あれは記憶だ。当時生きていた男のな」




「人の記憶が、この中にあるというのか?」




いきなり皇帝は俺に近づいてきた。




「おい、離れろ」




リンギオとスノウが皇帝を抑える。




「あの夢の世界は……ゴッサリアがいた世界……




アイツはあの世界から来たんだ。




アイツは、お前もそうなのではないかと言っていた……。




あの世界の出身だと。




違うか? そうじゃないのか!?」




興奮した皇帝は、笑みを浮かべながら詰め寄る。




目が怖い。狂人のそれだ。




「暴れるな! ……くそ、狂ってやがる」




「合点がいった。




あの世界の知識があれば、




キトゥルセンの急激な繁栄も不思議ではない。




……牢獄でもなんでも入れるがいい。




私はもう、この世に未練はない……どうでもいいのだ。




今はただあの世界に……




教えてくれ……あの世界の事を……」




今度は目に涙を浮かべ、その場に膝をつく。




「……心をやられていますな」




ソーンが憐みの視線を向けながらため息をついた。




嘘をついているわけではないだろう。




確かに〝ガシャの根〟とやらは存在するし。




ただ、過去の人の記憶が本当に見れるのか、




それとも幻覚を見せる作用があるだけなのか、




判断がつかない。




いやしかし、ゴッサリアは神戸出身と言っていたし、




〝ガシャの根〟と関係がないわけじゃなさそうだ。




なんで俺が前世の記憶を持っているかとも繋がる……。




うーむ……今考えても埒が明かないか。




「戻ろう。ここは後日改めて調査に……」




背筋に鳥肌。なんだ?




「オ、オスカー様? どう……しました?」




アーシュの声はよく聞こえなかった。




強力な魔素が近づいてきている。




壁の向こうか?




すぐに千里眼を発動させる。




〝ガシャの根〟がオーロラのようなものを放っている。




魔素とは違うようだな……なんだよこれ。




ていうかオーロラがまぶしくてよく見えない。




壁を透視して土の中を見渡す。




坑道がいくつかあるようだが……。




その時地響きで床が揺れ始めた。




と同時に見つけた。




坑道をもの凄い速さで向かってくる……あれは巨大な……ねずみ?




「来るぞ、そこだ!」




ドンっと壁が崩れ、大量の土が襲って来た。




「ぐおおおっ!」




土の雪崩に飲まれ視界が黒くなる。




誰かが上に乗っている。リンギオか?




ん? なんだ、頭の中に声が……目の奥が光って……。




「くっ……大丈夫か王子」




「ああ……痛てて……うわっマジか、




これ〝ガシャの根〟の破片じゃないか?」




俺の腹の上には小さな光る石が乗っていた。




なんてこった。触っちまった!




いや、今はそれどころじゃない。




リンギオに引っ張られ何とか立ち上がった俺は、




すぐに千里眼で辺りを見た。




穴からは毛と目の無い巨大なモグラ、魔獣だ。




辺りには〝ガシャの根〟が砕けて散らばっている。




そしてその後ろから出てきたのは……根人……ジョハ王。




さらに奥から……あれは〝六魔将〟のナルガセか?




どういうことだ? ナルガセはネネルが……




いや、視界にはしっかりとナルガセと出ている。




ユウリナの持つテクノロジーが間違える可能性は低い。




「んん? キトゥルセンの王子か。何でここにいる?」




ジョハ王は魔獣の横に立ち、剣を抜いた。




根人兵もぞろぞろと出てくる。




「待て、目的は皇帝だけだ。




頭上にはキトゥルセン軍がごまんといる。交戦はまずい」




ナルガセは倒れている皇帝を回収させた。




「お前ら……止まれ……」




フラレウムを構えたがうまく発動しない。




頭の中で爆発が起きてるみたいで、くらくらする。




誰かの声もするし、目もチカチカと眩しい。




確実に〝ガシャの根〟の影響だ。




「どうした王子、平気か?」




ランプも消え、双方視界が悪く交戦出来ない状態で、




次第に体調が悪くなる俺はその場に膝をついた。




「ど、どうしたんですか?」




「アーシュ。王子が〝ガシャの根〟に触れた。




……他の者は?」




「多分大丈夫です。て、敵、ですよね……。




暗くて、ど、どこにいるのか……」




頭が割れるように痛い。




「とにかくここを動くな。王子を守るんだ」




一瞬だけ何とか発動した千里眼で見た光景は、




皇帝を攫って穴に戻るジョハ王とナルガセの背中だった。

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