第165話 タシャウス王国編 ドラグルを乗せて

ダリナは語る。




「私……私の家系は……何代も前から早死にする運命なんです。




母は私を産んで1年経たずに死にました。19歳でした。




うちの家系はみんな20歳前後で死んでしまうんです。




……きっとご先祖様が何かの呪いにかけられたんだろうって」




予想外の言葉にソーンは面食らった。




「……今、ダリナは何歳になった?」




「……15歳です」




呪いではない……病気だ。ソーンには分かった。




世界中の医術を見てきた感想だ。




「医術師には?」




「見てもらいましたが、異常はないと……」




なんと残酷な運命か……。




「帰ったらわしからオスカー様に聞いてみよう。




あのお方は不思議な力を持っておる。




きっと何か解決策を見つけて下さるはず」




ダリナは視線を下に落とした。




「ありがとうございます。




でも……いいんです。私もう受け止めてますから。




ルガクト様もネネル様も、私の家系の事知っていて……




だから、私だけ早送りの人生を許されているんです。




12歳で軍にも入れましたし……




今回も、広い世界を見てきなさいってネネル様が言って下さったんです。




だから……みんなより少し短い人生だけど、




私は……幸せです」




ソーンは目を瞑った。




何とかできぬものか……。




その時、食堂に甲冑を着けた兵士が入ってきた。




6人ほどいる。レジュ自治区の兵だ。




「我々は青砂街道で起きた殺人事件を追っている。




有翼人の女と剣士を見たものはおらんか!」




「部屋へ戻るぞ」




二人はさりげなく食堂を後にし、階段を上がる。




部屋に入ると魔人の少年は既に目を覚ましていて、




窓の外をおびえた様子で覗いていた。




「あ、起きた」




「あ……あなたはあの時の……」




ソーンは口に手をやり、静かにと囁いた。




「た、助けてくれてありがとう。ここはどこ?




あの兵士達は? 俺もう行かなくちゃ……」




少年は不安そうだった。




「まあ、落ち着け。ここはレジュ、




あの兵士はおぬしとわしらを探している。




そう言えば、おぬし名前は?」




「俺は……ドラグル」




「そうか。わしはソーン。こっちはダリナじゃ」




「よろしくね、ドラグル」




ドラグルはダリナに少し緊張している。




「よく聞くんじゃ二人共。




じきに下の兵たちがここまで来る。




ダリナ、お前はドラグルを乗せて屋上から空へ逃げるんじゃ。




合流場所はタシャウス北門前のブエナ遺跡、わかったな?」




「は、はい。けどソーンさんは?」




「わしの事は心配するな」








ソーンたちは二手に分かれた。




厨房の裏口から外に出たソーンは細い路地へと入っていった。




町の至る所から兵士の気配がする。




「おい、そこの男、止まれ」




後ろから兵士の声が響く。角を曲がった際に素早く人数を確認。




8人以上……。ちと厳しいか。




ソーンは外套の金具を取り外し掌に載せた。




金具は形を変え、機械蜂になる。




「あの塀がよさそうじゃな……」




速足で進んでいると、このあたりに住んでいる若い夫婦が、




ソーンを見て「ひい」と言い路地に引っ込んだ。




「すまんの。早くここから離れるんじゃ」




狭い路地の崩れ掛けた塀を通り過ぎた所で、




機械蜂をその場に待機させる。




ソーンが次の角を曲がった時、




爆発音が上がった。




角から顔を出して確認すると塀が崩れ道が塞がっていた。




「ふむ、上出来じゃ」




ソーンは素早く身を翻し、路地に消えた。










「すっげー! 有翼人はいいなー。いつもこんな景色見てるんだろ?」




ダリナの背中に乗っているドラグルは眼下の青砂街道を見て、




興奮した様子だった。




「ドラグルはどこで生まれたの?」




「俺? 俺はカサスのはずれの農村生まれだ」




「カサス生まれなの? じゃあキトゥルセン連邦の人間じゃない」




「……いやでも生まれてすぐにタシャウスの貴族に引き取られたんだ。




だから親の顔も知らない……生きてるのか死んでるのかも」




少しテンションが下がった。




「そう……タシャウス人なんだ……。私たちもそこに行くのよ」




「ほんとに? 何しに行くんだ?」




「ガシャの根が祭られてる寺院に行くの」




「ああ、バシューダン寺院ね。観光かー。




皆あそこ行くんだよな」




小さな村が3つ過ぎ去る。




「……ねえ、ドラグルはなんであそこにいて、誰から逃げてたの?」




少しの沈黙のあと、幾分小さくなった声でドラグルは口を開いた。




「俺……魔人なんだ。体を石化出来る……石人間だ」




「うん、見てた」




「子供だからさ、ああいう輩によく狙われるんだよ。




どっかに高く売れるんだろ、どうせ」




ドラグルは自嘲気味に吐き捨てた。




「能力使うとすぐ強烈な睡魔が襲ってくるんだ。




寝てる間に捕まったら知らない間に売られちゃうからさ、




あんまり能力使いたくないんだよな」




「……そう」




ダリナは思い返していた。




あの夜盗を相手した時、ドラグルは何の迷いもなく全員を殺した。




ああいった場面に慣れているとかの問題じゃない。




兵士の心を持っていないとできない芸当だ。




しかし、そんなことは直接言えない。




「ねえダリナ、重くない? 休憩しようよ。




あそこの川のほとりとかでさ」




「え、いいよ。もう少し飛べるし……」




「だめだめ。さっきより高度が落ちてるし、




俺、ダリナの事好きになっちゃったからもっと話したいんだ」




頭が真っ白になった。今何を……。




「ななななにを言ってるのののよ! 




もう、私の方がお姉さんなんだからからかわないでよ!」




ダリナは顔を真っ赤にしながら平静を装った。




「ん? なんかすごい身体熱いけど大丈夫?」




「え! だ、大丈夫よ! か、顔が近い!」

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