第193話 リンギオ・ダリルヴァルの魔剣

ノーストリリア四番街、リリアンフード中央通り店から、




一般市民の格好に身を隠したアーキャリーとモリアが出てきた。




「はぁー、美味しかったー」




「アーキャリー、食べすぎ。だからお腹に肉つくのよ」




「ちょっとモリアさん! 大きい声で言わないで下さい!」




遅れて二人の護衛である【王の左手】リンギオが出てくる。




アーキャリーとモリアはオスカーの子を宿している。




王家の血筋という最上の護衛対象となった二人には、




リンギオの他に【護国十二隊】の五番隊が護衛についていた。




五番隊の隊長は今は亡きボサップ軍団長の副官だったノワ・リスタック。




ベテランで、胸板も忠誠心も厚いゴツ男だ。




元ボサップ兵だった50名の隊員たちは通りに点在し、




広範囲に目を光らせていた。




ちなみにリンギオもノワ達も一般人の服装で素性を隠している。




甲冑や白マントなんか着ていたら、




襲って下さいと言っているようなものだ。




ちなみにリリアンフードは王家直属の商会が運営している、




フードチェーン店で、ここ中央通り店の店主は、




城の料理番であるマイヤーの妹、セラが務めている。




「セラさん、マイヤーさんにそっくりでしたね」




「姉と違って礼儀正しいのが救いね」




「リンギオさんもそう思うでしょ?」




「……ん? 何か言ったか、巻角姫」




「もー、その呼び方止めて下さいって……」




リンギオは急に険しい顔をし、




ぷく顔のアーキャリーを手で制した。




「ノワ、ここにいろ。賊だ」




「どこだ?」




「俺一人で行く。大人数だと気付かれる」








店から四軒離れた建物の裏手に二人の男がいた。




一見旅の行商人のように思えるが、




見る人が見れば体の動かし方や雰囲気が兵士のそれだ。




遠くから監視していたリンギオは背後から近づいた。




二人は直前で気付くが、ほぼ同時にリンギオの剣が胸に刺さる。




素早く二人を仕留めたリンギオはすぐにその場を離れ、




今度は向かいの通りの食堂裏に移動した。




ここにもさっきの仲間が三人いた。




さりげなく近づき素早く二人を切り伏せると、




最後の一人は慌てて逃げだした。




リンギオは背中に仕込んでいた短弓を出して構え、




落ち着いて矢を放った。




矢は足に刺さった。




脳内通信でノワを呼び、リンギオは短弓をしまう。




ふと、腰に差した短剣に手が触れた。




ザサウスニア領土内にて、




古代遺跡からルガクトが持ち帰ったという〝魔剣キュリオス〟。




ユウリナが修理し、リンギオに手渡されたものだ。




ユウリナからは魔剣を持っていることは、




誰にも言うなと言われた。




オスカーにも黙っていて、とも。




魔剣の柄の中に魔素を隠す装置が仕込まれているので、




誰にも魔剣使いと気付かれることはないらしい。




なぜ俺が? 理由は?




そう尋ねると




「これは密命ヨ。あなたは切り札にナり得る」




とだけ言われた。




初めは戸惑ったが、今ではその意味が分かる。












魔素を隠す装置の動力が切れそうだったので、




リンギオはその日の午後、ユウリレリア大神殿に向かった。




ユウリナは現在ベミーの手術で南に行っている。




だがユウリナの部屋に行けば神官がいるはずだ。




その後、脳内通信で交換用動力の場所を聞けばいい。






ユウリレリア大聖堂の上階にユウリナの執務室がある。




四方の壁がぎっしりと本で埋まっている、図書室のような部屋だ。




その一角に古代文明の装置が置かれ、




3体の神官が装置に繋がれて、制止していた。




何やらチカチカと色んな所が光っている。




ふと、机の影で何かが動いた。




「誰だ?」




近寄っていくと10歳くらいの女の子がしゃがんで隠れていた。




目が合うと少女は奥の本棚に駆けていった。




十神教の関係者の子供か?




後を追ったリンギオはズレた本棚の裏に隠し階段があるのを発見した。




少女の姿はない。階段を下りて行ったのか。




リンギオも、隠し階段を下った。




かなり長い階段だった。




天井が淡い黄色に光り、白い石の壁に反射している。




神殿の最上階からとっくに地上についているだろう距離を進んでも、




まだ階段は下に続いている。




そこからさらに4階から5階分降りて、ようやく広い空間に出た。




そこは緑あふれる地下庭園だった。




外のように明るく、多種多様な植物が石畳を飾る様に植えられている。




小川や泉まである。




あっけにとられながら進んでいると、




前方に機械の残骸が山になっているのを発見した。




その近くには屋根のついたテラスがあり、




ベッドや机などがある。




少女はそこにいた。




「お前は?」




リンギオは聞いた。




「あなたはリンギオね。ダルクの兵士。弓の名手。




オスカー王子の護衛。ママに教わったわ」




「ママ? ここに住んでるのか? 




お前はユウリナの……」




よくよく見れば人間になった時のユウリナに似ている……




急に、ぐらりと視界が揺らぐ。




何だ? 




そう思った時には床が目の前にあった。




意識が朦朧として、気を失う寸前、




機械の足が目の前に来た。神官だ。




「アらら、見らㇾちゃったか。〇〇、




外に出ちゃダメって言ったジャない」




「ごめんなさい。でもママ、記憶消せるんでしょ……」














目を覚ましたリンギオは神殿の客室にいた。




軽い頭痛がしてきつく目を閉じる。




俺は何でここにいるんだ?




窓の外には巡礼の列が見えた。




よく分からないまま部屋を出る。




廊下は加工石の上に赤い敷物が伸びており、




その先は階段へと続いていた。




ここは神殿の……どこだ?




そんなことを考えながら歩いていると、




正面の階段から知った顔が現れた。




「ネネル。久しぶりだな」




「リンギオ。一人?」




ネネルは懐かしそうな笑みを浮かべ足を止めた。




「ああ。そっちは?」




「いるよ、神殿の外で待っててもらってる」




「交渉だっけか?」




「そう。大陸中央の有翼人の国から招待がきたの。




それでユウリナ神が神官を一人連れてっていいって。




あとダリナの捜索も……ソーンはどう?」




ネネルは神妙な面持ちになった。




「順調そうだったな。もう孫娘相手に模擬戦闘している。




……行きにくいだろうが顔出してやれ」




「わかった。帰ったら会いに行くわ。




……ねえ、なんかここ魔素? 




なんだろう……いや、気のせいだわ」




ネネルは首を傾げた。




「どうした?」




「いや、なんでもない。じゃあね」




ネネルと別れ、リンギオは懐の魔剣をちらりと見た。




危なかった。




そうだ、魔素の装置を貰いに来たんだった。




その時、タイミングよくユウリナから脳内通信が入った。




『リンギオ、柄の交換ね? 




神殿ノ関係者入り口の門兵に渡しテあるかラ受け取って』




『……ああ、わかった』




まるでこちらを見ていたかのようなタイミングだな。




リンギオは思わず苦笑したが、




なにせ相手は神だからそれもありうると、




上がった口角を元に戻した。

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