第22話 ダルク民国攻略編  城壁 

ダルク民国の城門に着いたのは翌日の昼過ぎだった。


カカラルが攫われ、救出するため進路を変更、朝に俺が回復したところで


また炎の道を作り、ここまで進軍した。


木製の門は閉まっており門番はいない。


【千里眼】で見てみると内側には槍を構えたダルク兵が待ち構えている。


「門を破るぞ。戦闘用意」


「戦闘用意!」


マーハントの掛け声に全員が抜刀した。


まだ全回復していないネネルは後ろに下がらせた。


俺はフラレウムの炎を門へ向けて放射した。


数分で門が焼け落ち、進軍しようと一歩を踏み出した時、


壁の内側から一人の男が出てきた。


豪華な鎧と派手なマント。一目で一般兵じゃないことが分かる。


「キトゥルセン王国の王子とお見受けする。


吾輩はダルクの統治者、デモン・グレ・ダルクニア十三世である」


兜を上げた顔は白く塗られ、呪術のような文様が描かれていた。


「いかにも。私はオスカー・キトゥルセン。


あなたがここにいるという事は、戦闘の意思はないものとして


受け取るが?」


「その通りだ。我々は話し合わなければならない。


我が神殿へ案内しよう」


門をくぐって中へ入れ。デモンはそう言っている。


「入るの? オスカー?」


ネネルは不安そうだ。


「入ったら一網打尽にされますぞ」


珍しくマーハントも弱気だった。


「しかし、中に入らなきゃカカラルや村の人たちを助けられない。


それにここに長居すれば魔物に襲われ続ける。


……大丈夫だ。もしもの時は俺が町中燃やし尽くす」


向こうもそれくらいは分かっているだろう。もう交渉は始まっている。


俺たちは門を潜り、町へ入った。ダルク兵が道の脇や路地に待機している。


敵対心まる出し。何かきっかけがあればすぐにでも飛び掛かってきそうだ。


「デモンとやら。部下をしっかり宥めておけ。事が始まったら、


俺はこの町を炭にするぞ」


「ふふふ。そう気張るなお若いの。ノーストリリアの火柱、あれはお前だろう?


伝え聞いておるわ。吾輩もバカではない。


双方が納得できる着地点を見つけようではないか」


町中を通って一番大きな建物に入った。神殿だ。


至る所に魔物が描かれている。一際大きいのは【腐王】だろうか。


「ダルクは魔物を崇拝している民族です。


一番強いものに付き従うという習わしがあるそうです」


マーハントが小さな声で教えてくれた。


円形の大きな広間には供え物、打楽器、松明が並び、


その間に攫われた村人たちがいた。


木で組まれた檻に入れられている。


隙間からこちらに手を出している子供の姿が目に入って胸が痛んだ。


神殿の広間はコロッセウム状になっていて、


上からぐるりと広間を囲うようにダルクの弓兵が配置されていた。


広さは体育館2つ分といったところだ。


「さて、話し合おうか。お若いの」


祭壇のイスにどっかり腰を下ろしたデモンは、口元に笑みを浮かべている。


横には縄でくちばしまでグルグルにされたカカラルが檻に入れられていた。


俺を見て弱々しく鳴いた。


やはり罠か? しかし、俺の魔剣を警戒しているのも事実。


「こちらの要求は……一つ、攫われた村人と魔獣の解放。


二つ、我々全員が森を抜けるまで一切手を出さぬこと。


三つ、今後我が国の国民を攫わないこと。以上だ」


「……吾輩は、そこにいる有翼人の娘が欲しい」


何を言っているんだ、こいつは。


ネネルはデモンのねめつける様な視線に身構えた。


「差し出せば、お前と兵たちは見逃そう」


「ふざけてるのか?」


「大真面目だ、若いの。村人も魔獣も返すことは出来ない。生贄だからな。


その娘は吾輩のコレクションに加える。


だがそれだけでお前たちはここから生きて帰れるのだぞ?


こちらも苦渋の決断だ、分かってくれ」


ああ、コイツは……。


会話が出来ない、のではなく、最初から交渉する気はないのだ。


あの頭にくる薄ら笑いが証拠。


俺の魔剣の威力を知っていて、この余裕というのは何か引っかかる。


こちらが攻撃できないと思っているのか、


それとも俺の魔剣を封じる手があるのか。


「若いの若いのうるせえな。


若い人間にコンプレックス抱くっていうのは、


自分が若い時にうまくいかなかった証拠だぞ。


あんた、自分は苦労したんだからお前も苦労しろって部下に言うタイプだな。


もっとどっしり構えろよ。器の小せえ男だな。


お前の言うことは全部却下だ。みんな救って、俺たちは帰る」


俺はフラレウムを抜いた。キトゥルセン軍も抜刀する。


デモンの顔が歪んだ。図星か?


上階の敵兵が一斉に矢を引いた。


ネネルに目配せ。頷く。彼女の手が小さく放電し始める。


来い。矢が届く前に全部一瞬で燃やし尽くしてやる。


一触即発の中、急に地面が揺れた。地震か。いや違う。


同時にデモンに嫌な笑みが戻る。


「おいでなされた。我らが【腐王】のおでましだ」


そういうことか。【千里眼】で確認してなかったが、


北の山にいた【腐王】はこちらに移動していたらしい。


神殿の奥の巨大な扉がゆっくりと開く。


奥は【腐樹の森】と繋がっていた。


どうやらこの神殿は壁際にあったらしい。


大量の魔物を引き連れた【腐王】の姿がそこにあった。

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