第207話 ノーストリリア城 地下牢

ノーストリリア城地下








独房に椅子が二つ。




縛られているのはネネル軍所属の少女兵ダリナ、




そして身体を石に変化できる魔人、ドラグルだ。




ダリナはタシャウス王国にて、




【王の左手】ソーン・ジルチアゼムを刺し、




ドラグルを連れて逃亡していた。




ドラグルは魔素を押さえ込む機械を首にはめられ、




捕獲の際に暴れたのだろう、痛めつけられていた。




ダリナの方は憔悴しきっていた。




「待たせたな。この後会議がある。手短にすまそう」




俺は牢の前にいた〝ラウラスの影〟長官、ユーキンと、




【王の左手】ソーン、二人を捕獲したネネル軍の小隊長、




ミミナ・スタークスにそう言って二人の前に立った。




ミミナは長身の女有翼人兵で、




先の大戦で頭角を表した若手有望株だ。




ロングヘアーに口元にほくろ、、、うん、セクシー。




でもくそ真面目な性格らしく、




俺が来てからガチガチに緊張してやんの。




既にミミナの隊に配給されていた機械蜂からの映像を見ていたので、




捕獲の一部始終に何があったのか知っていた。




死者こそ出なかったものの、




三十名の隊員の実に半数に手傷を負わせ、




現地のレジュ自治区の兵士も二十名以上を病院送りにした。




もしかすると、ドラグルはダリナの処遇を考えて、




手加減したのかもしれない。




死者を出してしまうと罪が重くなり、死罪は免れない。




「オ、オスカー様……申し訳ありません……




私は……私は、祖国を裏切る行為を……」




ダリナの弱々しい言葉を、手で制した。




この子は余命少ない人生だそうだ。




ソーンから全ての話を聞き、ユウリナに確認したが、




どうも遺伝子異常で代々短命らしいとのことだ。




この世界では比較的よくある症例だが、




「テロメアを弄れば何とデもなるワ」とあっけらかんと言っていた。




まあそれならよかった。




にしても、なんて情を誘う人生なんだよ。




かわいそすぎるだろ。




命が散る前に人生最後の恋に落ちて盲目的になった……




まあ、分からんでもない。




「簡潔に話そう。君がした行為は死刑に値する。




ドラグルは魔人という事を考慮して……まあ保留だな。




本人次第だ。だが俺は君たちを死刑にしたくない。




ソーンも俺と同じ気持ちだ」




先ほど3人でたっぷり話したようだ。




ダリナとドラグルはソーンをチラッと見た。






ソーンは別段恨みなど抱いていないと言っていた。




「兵士と言ってもまだ子供。




一時的な感情の高ぶりに左右される危険性は承知しておりましたが、




まぁまさか刺されるとは思っておりませんでしたな。




はっはっはっ」




死にかけたくせに……まるで達観した賢者だ。










「しかし、ネネルやネネル軍の兵士たちは君を許さないだろう。




ウルエストの兵士達は誇り高い。




一族から裏切り者が出たことは到底許されないと考えるだろう。




例えまだ君が子供でも、軍に在籍しているのなら容赦はしない。




ソーンはイースの元将軍だ。一般人に今回の事は口外しないが、




軍の中では既に有名な話になっている。




するとだ、イース出身のミーズリー軍とネネル軍に不和が起きる可能性がある。




ウチの英雄に何してくれてんだと。




戦争の気配が近づいてきてるこの時期に、




それは非常に望ましくない。




前線で軍同士の連携が取れないことは致命的だ。




ダリナ、実戦を経験してる君なら分かるだろう」




ダリナは青い顔で何度もうなずく。




「ネネルも君を死罪にしないと部下に示しがつかない。




したくなくてもだ。




【王の左手】はどこの部署にも属さない王家直属の機関。




そこに刃を突きつけたとなれば王を傷つけたことと同罪になる。




ネネルはそこら辺をとても気にしていた。




もはや個人間の話ではない。




これはキトゥルセン家とウルエスト家の問題だ。




……だから君たちはこの国にいることは出来ない」




二人共顔を上げ不安そうな顔だ。




ここまで丁寧に説明すれば事の大きさが実感できるだろう。




そして俺のプランで進みやすくなる。




「誰にも追われず二人で生きていくことがお前たちの幸せだ。違うか?」」




「……はい……」




「では今からお前たちは〝ラウラスの影〟の工作員になれ。




そしてテアトラに潜入しろ。




そうすればお前たちの望みは叶う。




祖国を裏切った後悔があるなら償いをするんだ。




お前たちは公式には処刑されたことにする。




これからは影として生きろ。それでチャラだ」




二人共、頭が追い付いてないような表情で、




口を半開きにしている。




「どうなんだ? この提案に同意するか? 今すぐ選べ」




「あ、え……はい!」




「よし、決まりだな」




俺は立ち上がり、牢を出た。




「ダリナ、君の身体は呪いじゃない。治る病だ。




ユウリナに話は通しておいた。手術してもらえ」




二人はお互いに顔を見合わせた。




去り際、「オスカー様!!」とドラグルが叫んだ。




「ありがとう……ございます!」




勘違いするな、利害関係が一致しただけだ。




そう言いかけたが、止めておいた。




ただ一言「励め」とだけ言って、俺はその場を後にした。

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