第47話 ウルエスト王国攻略編 開戦

襲撃の二日後にバルバレス達は北にいたミルコップ軍と、


ウルエストに一番近いセタガ村で合流。


バルバレス軍50名、ミルコップ軍250名の計300名で白毛竜に乗り、進軍。


騎竜部隊にはユウリナをつけた。


道なき雪山で一番安全、そして効率のいい道を探し出してくれるのはありがたい。


それに野生の大雪蛇や大狼もいる。ユウリナなら楽に追い払えるだろう。


【千里眼】と埋め込まれたチップの情報では、既に進軍を始めていた。


俺とクロエは王都からカカラルで直接向かう。


タイミングを合わせてウルエスト城で合流する手筈だ。




医務室は負傷した兵でいっぱいだった。


俺は部屋の奥にあるモルトの医術師長室にて、


モリアに包帯を巻きなおしてもらっていた。


モルトは横で薬草をすり潰して薬を精製している。


「モルト……色々と頼んだぞ」


「オスカー様、まるで死にに行くような言葉ですな」


ゴリゴリと道具を動かしながら、モルトは微笑んだ。


「今回は正直、どうなるか分からない。


いや、今までもそうだったけど……ただ運が良かっただけなんだ。


……相手はネネルだ。正直戦う覚悟が出来てない」


モルトは手を止め、物静かな男には似合わない熱い目で見返してきた。


「私たちはオスカー様と出会ってから、いくつも奇跡を見てきました。


食べ物や政策、新しい概念はもちろんの事、腐王やクロエ殿の事も。


全てうまく解決してきたじゃないですか」


「それは俺の力じゃない。周りにいた優秀な人間が動いてくれたからだ」


「それもオスカー様の力です。そもそも王は自ら動かないもの。


支配者は周りの人間をうまく使うのが仕事です。


使えるものは全部使った方が方がいいのです。


人徳や魅力といったものも、オスカー様の立派な力です。自信を持って下さい」


うーむ、さすが40代。心に染みる。


モルトは呼ばれて席を立った。


扉を開けた時に「モルト……ありがとう」と言うと軽く頭を下げて出ていった。


「出来ました、オスカー様」


モリアが立ち上がり、正面に移動した。


「傷口はほとんど塞がっています。帰ってくる頃にもう一度替えましょう」


「分かった。ありがとう」


「帰って……帰ってきますよね?」


「ああ、もちろんそのつもりだ」


「絶対帰ってきて下さい。出来ればネネルも。


身分違いですが……ずっと想っています。オ、オスカー様が戻ってきたら……」


モリアは涙を流しながらも懸命に言葉を紡ぐ。


「戻ってきたら、何だ?」


「……何でもないです」


えへへと目を擦りながら笑った。


「帰ったら聞こう」


モリアは嬉しそうに頷いた。




食堂に行くとマイヤーとロミ、フミがお茶を飲んでいた。休憩中のようだ。


「あ、もう出発ですか?」


「そろそろな。頼んでおいたサンドウィッチ出来てる?」


「はい。言ってくれたら持って行ったのに」


そう言いながらマイヤーから包み箱を受け取った。


「ねえ、ロミ。前よりなんか距離感が近づいてない?」


「私も思った。あの女、もしかしてもしかするともしかしたんじゃない?」


「中身はあれだけど顔だけはいいからね。なんかムカつくわ」


「ほんと、もう、いやらしい!」


あれでひそひそ話してるつもりらしい。


マイヤーがガンつけると「んまあ怖いわ~!」と大げさに手をひらひらさせた。


「話は聞いてます。ネネルを……」


「ああ。正直、絶対任せろなんて無責任なことは言えないけど、何とかする。してみせるよ」


「……はい」


泣きそうだった顔を無理にニコッと笑顔にし、


「帰ってきたら何が食べたいですか?」と鼻をすすりながら聞いてきた。


「うーん……ピザ! ピザが食べたい」


「分かりました。用意しておきます」


厨房を出た後、


「さーやるぞ、ロミフミ! いつまでくっちゃべってんの! 手ぇ動かせや!」


と聞こえてきた。


「うるさいわね、小悪魔! 


いつオスカーちゃんとねんごろしたのよ! 私も呼びなさいよ!」


「そーよ! 冗談じゃないからね。本気よ? 本気で私も混ぜなさいよ!」


今日も厨房は通常運転だ。




テラスには既にカカラルとクロエがいた。


俺の後ろにはラムレス、ギル、ユーキン、ベアーロ、メイド達が続き、皆がテラスに出た。


「オスカー様、どうか気を付けて下さい」


ラムレスは心配そうな目をしながら、毛皮のコートを差し出した。


「留守の間、頼むぞ」


「……いつもの事です」


「ふっ、そうだな」


ラムレスは優しく微笑んだ。


メミカ、アーシュ、リーザ、ヒナカ等、メイド達が一列に並び、


ご帰還をお待ちしております、と頭を下げた。


俺はメイド長マイマの手を取った。


「もしもの時は……」


「はい。お任せ下さい。覚悟は決めております故、何の心配もありません。


モルト師もよくしてくれていますし。


それより、ネネル様の事……どちらに転んでも、心残りのないよう……」


マイマの表情は穏やかで清々しい。しかし、その目には強さが宿っていた。


俺は頷いた。


「ラムレス」


「はっ」


ラムレスを近くに呼び寄せ、耳元に顔を寄せた。


「王家の血はマイマが宿している。最悪、俺が死んでも国は大丈夫だ」


ラムレスは目をひん剥いて驚いた。


「おおおおめでとうございますっ!」


「もちろんモルトは知っている。俺がいない間、マイマを全力で守ってくれ」


「お、お任せ下さい! 


……しかし、私はオスカー様が必ず戻ってくると信じていますぞ!」


ラムレスの下あごがぷるるん! と揺れた。


全員を見回してから、俺はクロエと共にカカラルに乗った。


「行ってくる」


クウカカカカカッ!と大きく鳴き、カカラルは力強く空に上がった。


ノーストリリア城上空を一周し、北西の方向に飛ぶ。


「みんなオスカーの事を信じてるんだな」


後ろのクロエが呟いた。


「私は新参者だから、皆がうらやましいよ」


「ん? どういう意味で? 俺の事をもっと知りたいってこと?」


「ちがっ!!……いや、うん、そうかも。


いや、自分でも分かんない。聞かなかったことにして」


俺のお腹に回したクロエの手に、力が入った。


「……死ぬなよ」


「……そっちこそ」


外縁の森付近にマーハント軍がいた。


こっちに向けて旗を振っている。雄叫びと、盾を叩く音が聞こえてきた。






ウルエスト城。


マリンカはリンギオを連れて町の路地を逃げていた。


後ろからは正規軍とネネルが追ってくる。


前方から4人の友軍兵が向かってきた。


「足止めします」擦れ違い様にそれだけ言うと、4人は抜刀し宙に舞い上がった。


町は混乱の極みだ。多くの町人が右往左往している。


空が光った。ネネルが放電している。


不運な妹……母を拘束出来れば事態は好転するのに。


至る所で正規軍とマリンカ軍が戦っていた。


「せっかく準備していたのに、なし崩し的に始まってしまったな」


「何かが起きるときはいつだって突然始まるものよ」


夫のシーロ・ラピストリアは厄介なものを見る目でリンギオを見た。


「いつかやるんだから丁度よかったわ」


「……ふっ悪いな、俺のせいか……」


「そんなことないわ。母がおかしいだけ。


ずいぶん前から国民の不満は溜まっていたの。今回それが爆発しただけよ」


「実の親に反乱を起こすとはな……ゴホッゴホッ!」


「今の世じゃ珍しい事じゃない。……って庶民には関係ないか」


「ごめんなさいねリンギオさん。夫は妬いてるのよ。


私があなたにやさしくしたから」


シーロは苦笑して首を振った。


「君には敵わないな。まっ、そういう事にしておこう」


「……旦那か。じゃあ次期国王か」


「うまくいけばね」


その後リンギオを別の友軍に預け、自分たちは剣を抜き、空へ飛び上がった。


護衛は10名。雪は降っているが吹雪ではない。


マリンカとシーロは両軍入り乱れる空中戦の中に突っ込んだ。


「ついてこいよお前たち!」


「オオッー!!」


空中で正規軍の兵士と剣を交える。


3人を切り落とした時、下から矢が飛んできた。


避けながらも次々襲ってくる敵兵を切り落とす。


その時、城壁の一部が大爆発を起こした。


つかの間、戦場の時が止まる。城の鐘が鳴った。敵襲の音だ。


正規軍が退いていく。


「なに? 何が起こっているの?」


「マリンカ様! 危ない!」


すぐ脇を砲弾が通り過ぎ、城の塔を派手に破壊した。


二発目、三発目……違う! 砲弾じゃない。炎の塊。


「あれは……キトゥルセンの魔剣! オスカー王子か!」


部下がそう叫んだ。


「攻めてきやがった。……なんて奴だ」


シーロは半分笑っていた。


「……でも、好都合よ」


下を見る。


壊された壁からは白毛竜に乗ったキトゥルセン軍が雪崩込んできていた。


先頭では異形の金色兵士が暴れ回っていた。

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