第106話 謎の襲撃者

イースとケモズで起こった騒動には、


ミルコップ軍を派遣することになった。


ただでさえ前線では数が足りないのに、


主力級の戦力を引かなければならないのは手痛い。


何が起こっているのか千里眼を使ってみても、


現在の港はただ黒煙を出すだけで兵の影は見当たらない。


報告のあった辺り一帯をくまなく千里眼で見るのはさすがに難しい。


あんな広い海岸線を細かくチェックしていたらこちらに支障をきたす。


おまけにあの辺りには脳内チップを入れている者はいなかった。


当初、まだ到着していないギバに行ってもらおうと思ったのだが、


脳内通信が繋がらない。


ユウリナが言うにはギバは来ていないとのことだった。


しかも途中で行軍が止まっている。


まったく何やってんだよ、あいつ。


予想はしていたが、なんて扱いにくい奴なんだ。


戦略的にネネル軍は派遣出来なかったので、


次に機動力のあるミルコップ軍に白羽の矢が立った。


350の白毛竜と150の騎兵で一気に海岸線を目指せば2日で到着する。


出来るだけ早めに解決して戻ってきてくれ、と言っておいた。





ピトスというケモズ領内の小さな港町に到着したミルコップ一行は、


港の状況に眉根を寄せた。


町こそ被害は出てないものの、


停泊している船は大きなものから小さなものまで、


一つ残らず破壊され煙を上げていた。


因みにイース港にもオルゲ隊を送っているのだが、


そちらもひどいありさまだと通信が入った。


住民に話を聞くと、


夜にイースの甲冑を着た兵が船や積み荷に火をつけた、と口々に言う。


オルゲも同じことを聞いたとのことだ。


「イース」が「ケモズ」になっているだけで内容は同じという話だ。


毎晩のように襲撃に来るので、


そのうち住宅の方も襲われるんじゃないかと双方とも戦々恐々としている。


ピトスの兎人族たちは農具などで武装して見回りを始めたらしい。


ミルコップたちは要所要所に身を隠し、夜になるのを待った。


「この事件、なんだかにおいますね」


「そもそもイースとケモズの関係は良好だったはずだ。


もっとも、併合する前はそんなに交流はなかったと聞いたが」


副官のディアゴ・タリスとミルコップは崩れた石垣の影に身を潜めていた。


目の前の海は茜色に染まっている。


近くの白毛竜がグルウウウ、と鳴いたので喉を撫でててやる。


「両方ともが港だけを襲撃って偶然にしちゃ出来すぎてるよなあ」


ディアゴは顎に手を当て早口で呟いた。


細身で理屈っぽく、とても軍人には見えないが、


彼の立てる作戦は無駄がなく、ミルコップは優秀な参謀として信頼していた。


「やはり、ザサウスニアによる工作と考えた方がいいか……」


「食料物資など補給線の破壊ってとこが濃厚ですね」





夜、洋上に複数の小舟が現れた。


「現れたな。着岸と同時に突撃。数名は生かしておけよ」


「はっ」


声を押し殺しながらミルコップたちは騎上し抜刀した。


三連月と緑月の明かりで、松明を用意すまでもなかった。


数は……50名ほどだ。訳はない。


「行くぞ、突撃!!」


「オオーッ!」


海岸になだれ込んだミルコップ軍は、


正体不明の敵が慌てて小舟に戻る前にほとんどを蹂躙した。


ミルコップが3人斬った頃には敵は全滅していた。


「ちっ、準備運動にもならん……」


「団長、こいつらギバ軍です!」


兵の一人が声を上げる。


「なにぃ?」



一時間も経たないうちにオルゲから通信が入った。


『敵兵を捕獲しました。こいつら、ケモズ兵に扮したギバ軍です』


『こちらも同じだ。詳しい話を聞き出せ』


ミルコップはイース城、新レニブ城に手紙を送った。


とりあえず両陣営の衝突は避けられただろう。あとは……


「ギバ軍を探すだけですね。どこにいるか分からないですけど」


ディアゴは白毛竜を撫でながら笑った。


朝日が海に反射してまぶしい。


兵の何人かは兎人族の猟師と混じって網を投げていた。


その時ミルコップに通信が入った。


『ミルコップ軍団長』


『っ!! ユウリナ神!』


ミルコップは反射的に背を正した。


『オスカーから話ハ聞いたわ。そちらに蜂を30送ったかラ使って』


『あ、ありがたき幸せ! 大切に使わせていただきます!」


『蜂の映像は視界ニ表示されルから、それで探すといいワ。検討ヲ祈る』


『はっ!! 必ずや逆賊を探し出し、殲滅致します!』


通信が切れるとミルコップは「オスカー様より緊張する……」とぼやいた。


その様子にディアゴは笑みを堪えていた。


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