第148話 機械軍、参戦

ユウリナの機械軍は到着するなり凄まじい戦果を見せた。




押されていたマルヴァジア軍の場所に到達するや否や、




たった200名ほどで、あの手強い牙亀族を蹴散らしている。




今までの戦いで手足を無くし、帰国していた兵士たちが、




水を得た魚のように暴れ、わずかな時間で戦況は逆転した。




足が機械化された兵士は噴射システムを駆使し、




とてつもない威力の蹴りを、まるでブレイクダンスのように繰り出し、




一撃で牙亀族を吹っ飛ばす。




腕を機械化された兵は人間離れしたパワーを活かし素手で戦ったり、




ワイヤーを撃ち出す者、掌から衝撃波を出す者、




腕を4本に増やし四刀流で戦う者など、




とにかく圧倒的だった。






混戦の中、中央付近で戦っていた機械化兵が数人宙に舞った。




戦闘に参加していたユウリナの視界に、その犯人が表示される。




「【ニカゼ軍副官、ヘルツォーク】……狼人族ね」




朱色の毛におおわれたヘルツォークは既に〝狂戦士化〟していた。




『ユウリナ、そっちに〝狂戦士化〟した獣人がいるぞ!』




『分かっテるわオスカー。一度ベミーにやられたから対策は万全ヨ』




すでにヘルツォークの前まで移動していたユウリナは手足を倍に増やし、




臨戦態勢だ。




機械化兵を目にも止まらぬ速さで斬り倒したヘルツォークは、




ユウリナに焦点を合わせた。




「ああ珍しや……機械人か。昔シャガルムのダンジョンで何体も殺したな……」




自我を失っていない。




体が巨大化して湯気も出ているが、敵の獣人は極めて冷静だった。




「……それは保守機械ね。私とは種類が違うワ。




あなたはセージ砂漠に住ㇺ獣人族ね。




昔、あなたのお仲間に会っタことがあるわ」




「いつの話だ?」




「何百年も前の事ヨ」




「金色の化物め……」




二人はその場から消え、中央で激突した。




ユウリナは十分警戒していたが、




ヘルツォークの剣によって腕を一本斬り落とされた。




「あら、やっぱり速イわね」




常人では見ることも出来ない速さで二人は攻防を続ける。




周りの兵は敵味方関係なく、巻き込まれまいと距離を取った。




「随分息が上がってるワね。




〝狂戦士化〟は命を縮めるんでしょ?」




「……お前に関係なかろう。




そもそも俺はこの戦争で死を覚悟している!」




叫んだヘルツォークの腕をユウリナが掴んだ。




「ごめんナさい、余計なお世話ね」




ユウリナの手から、ボディの表面に擬態化させていた液体金属が、




どろりと移動する。




それはヘルツォークの体に素早く移り硬質化、行動を制限した。




「な、なんだこれは……!」




〝狂戦士化〟の力でも破壊できない。




「死を覚悟してルなら、何されてもいいわヨね?」




ユウリナは腕を変形させ、ヘルツォークの鼻先にガスを噴射した。




「うっ……」




ヘルツォークは強制的に〝狂戦士化〟を解かれ、意識を失った。












『ベミー、右に展開する牙亀族の軍に一際身体の大きい奴がいる。




将軍だ、仕留められるか?』




ベミーはオスカーの通信を聞いて視界のマップを見た。




赤い光点のウィンドウが開き【牙亀族将軍、エイファ】と表示される。




『了解、任せろ! 今から向かうよ』




ベミーは軍を率いて戦線を離脱、




大きく迂回してエイファの軍勢に突っ込んだ。




力は同等、しかし速さは獣人に軍配が上がる。




ベミーは特に力のある牛人兵を前に配置、




一直線に敵将エイファの元に進軍した。




敵兵を深くまで押し込んだ仲間たちの背中から、




ベミーは高く飛んだ。




空中で槍を構え、エイファの姿を捉えると力いっぱい投げる。




一般兵の1,5倍はあろうかという巨体のエイファは、




これまた大きな盾で難なく槍を防ぐ。




着地したベミーは素早く駆け、




体重を乗っけた拳をエイファの盾に叩き込んだ。




ガンッ!!! と派手な音と共に鉄の盾が曲がった。




「お前……軍団長のベミー・リガリオンだな」




「お、俺のこと知ってんの?」




ベミーは嬉しそうに笑って一歩下がった。




エイファはひげや腕に付けた装飾品を鳴らしながら盾を捨て、




拳に手甲をはめた。




「格闘が好きなら付き合ってやる」




ひげは白いが老人ではない。




人間でいうなら40代後半くらいだろうか。




体中の傷が歴戦の猛者だと語っていた。




「お前、面白そうだな」




ベミーは果敢に攻め込んだ。




圧倒的な速さで手数に任せて猛攻を仕掛ける。




エイファも中々の手練れで、




そつなくベミーの攻撃を防ぐが全ては受けきれない。




しかし鎧と固い表皮であまりダメージは無さそうだった。




反対に時折飛んでくる、手甲をはめた強烈な拳に苦しめられた。




一撃が当たるたびにベミーは身体を持っていかれる。




「っぐう……やるなお前」




顔の半分を血で染めたベミーは身体から湯気を出し始めた。




すぐに何をするのか察知したエイファは距離を取り四つん這いになる。




甲羅を使った最強の防御型だ。




狂暴な顔になったベミーはしかし、急に胸を掴んでその場に崩れ落ちた。




「うぅ……はぁはぁ……痛っ……」




狂戦士化に失敗したベミーは苦しそうに息を荒げる。




異変を察したエイファは防御の陣を解き、




好機とばかりにベミーに襲い掛かった。




強烈な破壊力を持つ拳がベミーに襲い掛かる寸前、




大型の剣が手甲に当たり火花を散らす。




「そこまでだ」




エイファはただならぬ殺気を感じ、慌てて後ろへ飛びのいた。




「お前は……」




「ここからは俺の相手をしてくれよ」




筋骨隆々の大男は返り血で真っ赤に染まった甲冑を光らせ、ニタリと笑った。




傍らの白毛竜は凶悪な牙を見せ威嚇する。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る