第149話 帝都、進軍

「エイファとやら、手合わせ願おうか」




「……名は?」




「ミルコップ・ノストラ。




瀕死の猫娘よりかは楽しめると思うぞ?」




「うぅ……うるさい、ミルコップ……」




地面に倒れているベミーが呻いた。




悪態を吐くくらいの余裕はあるらしい。




「……ノストラ……お前か、北限の元国王は……」




「知ってるなら話は早い。




不足はないだろ? 将軍様よ」




エイファは鋭い眼光でミルコップを見る。




「ふっ、そうだな……来い!」




剣と手甲が勢いよくぶつかる。




数度目の打ち合いでミルコップの剣はエイファの拳で折られてしまった。




それでも慌てず回し蹴りを繰り出したミルコップだったが、




タフなエイファにはあまりダメージがない。




二人は殴り合った。




手甲をはめたエイファの重い拳を受けてもミルコップは引かなかった。




笑みを浮かべながら戦い続ける。




「ただの人間がここまでやるとは……。




だがそれも終わり……」




エイファはミルコップのハイキックに合わせて背中を向けた。




強固な甲羅にミルコップの右足が当たり、鈍い音を立てた。




「どうだ? 俺たちの甲羅は鉄と同じくらい固い。




今の音は骨が折れた音だろう? ……勝負あったな」




確かに足は折れていた。




しかし、ミルコップは顔色一つ変えずに、




同じ箇所を蹴り続けた。




「なっ! お、お前気は確かか!?」




ごっ! ごっ! と鈍い音が鳴り続け、




エイファは衝撃に耐えられず前に倒れる。




蹴り続けた箇所の甲羅は亀裂が入りついに陥没した。




すでにミルコップの足は血にまみれぐちゃぐちゃだった。




「……なんなんだお前、イカれてるのか……」




「ふん、敵の心配してくれるのか?




やさしい奴だな、お前」




振り向いたエイファの顔に蹴りを入れ、




ミルコップは勝利した。










『オスカー様、敵将ニカゼが戦線を離脱。




およそ千の兵と共にガラドレスへ撤退しています。




追いますか?』




キャディッシュの報告に千里眼を発動させた。




確かにその通りだった。替え玉でもない。




『いや、追わなくていい。罠かもしれない』




『了解しました』




敵軍の中にはちらほらと投降する部隊が出てきた。




勝利は目前だ。




『ミーズリー、全軍の指揮を頼む。




ネネル、クロエ来てくれ。




バルバレス軍、ルレ隊は西側に集まれ』




まだ戦っているところもあるが、




ここはもう終わったとみていいだろう。




カカラルとユウリナを残しておけば安心だ。




ザサウスニア軍はもう壊滅状態、




残る脅威は最後の六魔将ニカゼ、




魔剣使いゴッサリア・エンタリオン、




【千夜の騎士団】、




そして未だ謎の存在、皇帝。




そんなところか。




こちらも精鋭で乗り込む。




三十分後に【王の左手】、護衛兵団、バルバレス軍、




ルレ隊、クロエ、ネネルで帝都ガラドレスへ向けて進軍を開始した。




全軍で向かわないのはゴッサリアが出てきたとき被害を最小にするためだ。




千里眼でガラドレスを見てみると、




城の周りの街は住民が道に溢れ、軽いパニック状態だった。




まさか負けるとは思っていなかったのだろう。




住民たちは大荷物を抱え、反対側の城門に殺到していた。




軍はと言うと城門を占め、城壁の上には弓兵を配置している。




豪華な鎧……帝都の親衛隊か。精鋭と思われる兵が約2000。




壁の裏には投石器が並び、騎兵が集結しつつあった。




「どうやって中に入るの? オスカー」




白毛竜の背中に揺られながらネネルが聞いてきた。




「城壁の裏に投石器がある。




ネネル、城壁ごと壊せるか?」




「私かー。まぁいいわ、任せて」




城壁の前に着いた俺たちは敵側が躊躇しているのを感じ取った。




向こうの態勢が整っていないとかそんな理由じゃない。




攻めるには少なすぎるのだ。




そりゃそうだ、立場が逆なら俺だって全軍で来ると考える。




500名にも満たない軍勢だから交渉に来たのかと思ってるのかもしれない。




いや、そう希望しているはずだ。もうまともな戦力は残ってないのだから。




投石器が動かないのは多分そういう事だろう。




「ネネル」




「了解」




ネネルはその場で飛び上がった。




今のところゴッサリアの姿は見えない。好機だ。




一瞬、視界が強い光に覆われる。




上空のネネルから放たれた金色のレーザーは長い城壁を横に切断、




後方の投石器も全て破壊した。




轟音と共に城壁が崩れ、至る所に炎が上がる。




一撃。




圧巻だった。




「……いくぞ」




俺たちは進軍した。

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