第201話 セキロニア帝国編 ガイロン鉱山にて

南セキロニア帝国、国境近くのガイロン鉱山。




タイタスと北セキロニア帝国軍諜報隊のレジャが敷地内に侵入する。




「なあおい、タイタス。お前の国は北ブリムスと同盟を組むのか?」




「僕に聞かれても知らないよ。




それより、君の国の方に興味あるよ。




こんなに国境線上がピリついてる場所に来るのは久しぶりだ」




二人は会った早々、鉱山に向かい、作業員に変装して潜入した。




すらりと背の高いレジャを先頭に、粗末な貫頭衣の下に剣を隠し、




二人は坑道を進む。




ちょうど夕暮れ時で、松明にこれから火をつけようかといった時間なので、




人も少ないし、すれ違っても誰か判別付きづらい。




「この国はちょうど南北ブリムス同盟の境界線……。




そして帝国自体も南北に分かれている。




だから、今俺たちがいるこの地こそ、




大陸を分かつ二大勢力の衝突点になるかもしれないんだ」




「言われなくても分ってるよ。




もしそうなったらぐっちゃぐちゃになるだろうね。




君もいつか前線に出て戦うのかい?」




細い坑道を進むと比較的広い空間に出た。




「いや、ミュンヘル王国に逃げることになってる。




ここだけの話、ミュンヘルの女の子はみんな可愛いんだ。




っていうのは冗談で……




俺たちは色んな情報網を持ってる諜報部隊だからな。




その枠組みがなくなると痛いってんで、




そういう決まりになってるのさ」




レジャは飄々と言い放つ。




「ふーん。僕は戦いたいけどね。




たくさん刺せるし」




レジャはタイタスの発言に顔を引き攣らせた。




「今凄いこと言ったね……み、味方で頼もしいよ……」




「そんなことより、ここ本当に鉱山?」




タイタスは広い空間を見渡して眉根を寄せた。




大きな空間の奥の方は床がきれいなタイル張りになっていて、




壁には夜光花や古代文明の光る機械などで明るい。




何人かの人影が見えるが、作業員ではなく帯刀した兵士のようだった。




「……にしてはきれいすぎるな。




あそこに積まれてるのは武器か?」




たくさんの木箱が積まれた物資の山が至る所にあり、




二人はその影に隠れながら奥に進んでゆく。




上は壁際に通路があり、手すりの向こう側にいくつか動く影が見えた。




下手に動いたら上から丸見えになる危険がある。




「やっぱり武器だ。ここは鉱山に見せかけた軍の秘密基地か……」




慎重に奥の方へ移動すると、




天井がぽっかり空いた空間に出た。




こちらはさほど明るくない。




しかし、月明りが差し込み、星空が見える。




「なんだ、ここから入れたな……」




「いや、垂直だから難しいよ……あれは?」




一際大きな資材かと思い近づいてみると、




それは大きな布がかけられた乗り物のようだった。




二人は布を地面に落とした。




「……ナザロの翼だ……」




レジャが呟く。




それは灰色でざらついた光沢を放つ人工の翼で、




二人が乗れる座席から翼が両脇に生えている奇妙な形をしていた。




「本当にあった……」




レジャは感動している。




翼の長さはざっと馬6頭分はあるだろう。




翼はだらりとまるで生き物のように地面に垂れている。




それに比べて前後は、半球状の蓋が付いた座席の他には何もない短さだ。




全体はトカゲの鱗のような鋼で覆われていた。




「古代文明の遺物か……こんなのが空を飛ぶなんて信じられないな……」




「このままでは飛ばない。




俺たちが調べていた文献には動力となる箱が必要だと……




誰か来る! 隠れろ!」




物陰に隠れたタイタスの視界に、




一人の顔が拡大される。




そこには〝小皇帝〟ネグロスと記載されていた。




「あれがネグロスか……なぜここにいるんだ?」




「だれだ?」




レジャは小声で聞いてきた。




「聖ジオン教のお偉いさんらしいよ。




なんでナザロ教と組んでるんだろう……」




「聖ジオン教は腐樹を神格化してるんだろ。




ナザロ教が信仰するのは精霊と魔石……




昔から争いが絶えなかったのになぜ……」




「南セキロニア帝国はすでにテアトラと繋がっているということかもね」




ネグロス達数人がナザロの翼の前で何やら話している。




辺りを見回し兵士達が集まってきた。




「なんだ、バレたか?」




「うん、布を取っちゃったからね。




あーあーいっぱい来ちゃったよ。




……ん?」




一人の男がネグロスに箱を手渡した。




タイタスの視界はしっかりとその場面を捉えていた。




「あれ、多分……動力だ」




「ほんとか? じゃああれを奪えば……」




そう言いかけたレジャの目前にカッと弓矢が刺さった。














「ヤバいな、キリが無い」




「うーんやりにくい。もっと開けた場所がいいなぁ」




二人は坑道を右へ左へ駆け抜ける。




後ろからは大勢の敵兵が追ってきていた。




「タイタス、君は呑気だな。




下手したら死ぬ局面だぞ、これ」




レジャは息が荒い。




「あ、出れそう。外が見える」




前方に出口が見えた。




松明が見える。




勢いよく飛び出た二人は思わず足を止めた。




十人以上の兵士が待ち構えていたのだ。




「くそ! これまでか……」




レジャは絶望の声を上げる。




タイタスは静かに剣を構えた。




自然とニヤリと口角が上がる。




その時、頭上から誰かが落ちてきた。




両腕に奇妙な武具をつけている。




「お前ら逃げろ! ここは俺がやる!」




タイタスの視界に




『〝ラウラスの影〟工作員 ウォルバー・グレイリム』




と表示された。




腕は機械らしいと気が付いた時、




ウォルバーの両腕から炎が噴射され、




敵をあっという間に焼き尽くした。


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