第214話 テアトラ合衆国編 魔人ジオー

千里眼のサーモで見ると、赤い人型があった。




熱源。人だ。




すぐに透明化できる魔人だと気付いた。




同時に魔素も感じた。




ていうか今まで何で魔素を感じなかったんだ?




疲労してるからか?




確かに極度の緊張やら空腹やらで、




結構なストレスを感じてるが……。




いやいや、今は目の前の奴に集中しろ。




細身の男、ゆったりとした服を着ている。




手には短刀らしきもの……。




俺はフラレウムの剣先を向けた。




「誰だ」




そいつはゆっくり右に移動する。




「さあ、名もなき顔なき姿なき……




私は存在しない男です」




まるでからかっているような口調……




ふざけた野郎だ。




相手はこっちが見えていることに気が付いていない。




気付かせてはダメだな。




俺は声の主がどこにいるのか分からないふりをしながら、




きょろきょろ辺りを見渡す。




しかし、目の端でしっかりと男を追跡していた。




攻撃してくるのか来ないのか……




いや……でも、こいつの構えは隙を伺ってる感じだな……




もしかしたら魔剣か機械の武器かもしれない。




こりゃ先手必勝のほうがよさそうだ。




充分油断させた俺は急に男の方に向き直り、




フラレウムから火炎放射を出した。




もちろん多少ずらして殺さないように。




「うおおっ!! がっ! ぐああああっ!




な、なんてこった! お前、見える奴か!」




右腕だけ焼かれた透明男は、




その場に膝をつく。




「くそっ! いてえ! あちい!




くそっ! あああ……やりやがったな……」




悪態をつく痛そうな声だけが聞こえてくる。




「おい、正直に言え。お前は誰だ?




俺にはお前がはっきり見えてるんだ。




もう一本の腕も燃やすぞ」




透明男は痛くてすすり泣いている。




どうやら他の能力や武器なんかはなさそうだ。




「分かった分かった……言うから、




その剣を下げてくれ……」




「ダメだ。殺すぞ、早く言え」




荒い呼吸を飲み込み、男は観念した。




「俺は【千夜の騎士団】ジオー・ボシュロム。




魔人だよ……能力は、見ての通り透明化だ」




「能力を解け。姿を見せろ」




ジオーは能力を解いた。




現れたのは黒装束の若者だった。




俺と同じか少し上って感じか……。




目つきが鋭くてくせ毛、




特徴を言えばそのくらいしか浮かばない、




普通の若者だ。




火傷した腕は皮膚が剥がれて真っ赤になっていた。




額に脂汗が浮かび、涙を浮かべ、




傷みを堪えて全身を小刻みに震わせてる。




俺は腰のベルトや短刀などを捨てさせた。




「なぜ俺に声をかけたんだ?




その能力なら簡単に殺せたはずだ」




「初めはどっかの貴族の子供かと思ったんだよ!




いっちょ前に剣持ってて、




少しからかってやろうと……。




途中で魔素を感じて……違うってわかって。




でも弱い魔素だったから俺の能力なら負けないって……




まさか敵の大将がここにいるなんて誰も思わないだろ!」




コイツは……見た目よりも幼いな。




少し話しただけで分かるほど、




中身が実年齢に追い付いていないガキだ。




今までは千里眼を持つ者と運よく対峙しなかっただけだろう。




「そいつは不運だったな。




その能力を使って他に何ができる?




隠さず言え」




俺は熱した剣先を膝に押し当てた。




「ぎゃあっ!! やめろ!」




油断は出来ない。




痛みをもって恐怖を植え付け、反抗する気を削ぐ。




「言う、言うから」




ジオーは樹に手を当てた。




すると樹が消えた。




なるほど、触れたものも透明化できるのか。




しかし、樹の先端の枝が見えている。




ジオー曰く、範囲は2mくらいが限界らしい。




「よし、俺の姿を消せ。




そんでこの城を出る」




すっかり意気消沈し、




俺の捕虜になったジオーを案内役に、




明け方の敵城内を歩き出した。




しばらく質問攻めし、




この辺りの地理が大体つかめてきた。












  ↑南ブリムス連合




    ◎ガルガンチュア




   ▼ルガリアン城 ○パセオ




○ダグ  ▼バリストリング城




   聖ジオン教国 








今俺がいるルガリアン城の、




北には首都ガルガンチュア。




首都ならば〝ラウラスの影〟工作員が何十人も潜伏中だ。




合流できれば北に帰れるはず。




しかし、ここから一番近いのは南門らしい。




北門なら直接行けたのだが、




こりゃあ時間がかかるな……。






南門が見えてきた時、




ふいにひとつの機械蜂からの信号が途絶えた。




直前の映像を再生すると、




トンボのような影が映っていた。




機械蜂がやられたのか?




自動で画像処理が始まる。




これは……




機械……トンボ?




そこではっと気が付く。




テアトラにも機械人がいた事を。

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