第98話 片翼の軍師
「我がザサウスニア帝国の南側には、
東からマルヴァジア、カサス、モルテン、ウカ、
そして西の端のベラニスと中規模の国が5つ並んでます。
これらの国々はそれぞれ人口5万前後で、
軍も5千ほどの戦力を有しています。
我が帝国には及びませんが、しかし無視もできない規模。
更にモルテン、ウカ、ベラニスの3国は同盟を組み、
わが国との国境付近で紛争を繰り返しています。
そして北はキトゥルセン王国……
周辺国を次々と取り込み、こちらも無視できない規模になりました」
【六魔将】の一人、ナルガセが、
大陸南部の大国テアトラより派遣された片翼の軍師リアムに説明をする。
「場所に恵まれておらんな」
地図を見ながらリアムはつぶやいた。
「そうです。周囲を囲まれているので、戦力が分散してしまう」
「先日、兄は正式に開戦の命令を下した。
いよいよ本気で国盗りを開始するということだ」
皇帝の弟、ニカゼは鋭い目つきでリアムを見た。
「そこで問題なのが、誰がどこの戦域を担当するかじゃ」
ドリュウは短剣の先で地図上を指す。
「こちらは南の三国同盟にかなりの戦力を割かれている。
まだお互い本気ではないが、こちらが仕掛ければ
あちらも出し惜しみすまい。激戦になるだろう」
ニカゼの発言にみな考え込む。
「北はひとまず置いといて、先に南を制圧してしまう方が現実的じゃないの?」
少し離れた机で赤ワインを注ぎながらシキは呑気に言う。
「それならば逆に南を停戦しておいて、
一気に背後の北を落とす方が理にかなっている」
リアムが案を出す。
「……いつから我が帝国はそんなさもしい戦いをするようになった?
周囲の弱小国なぞ同時に相手して釣りがくるわ!」
ラドーが吠える。
全員の顔に「確かにな」との表情が浮かんだ。
「現在の状況は?」
リアムがナルガセに聞く。
「南部の国境付近にシキ軍、ドリュウ軍、ギラク軍が展開しています。
ここガラドレスにはニカゼ軍、北部にラドー軍。
私の軍は調整役として各地に散っております。
マルヴァジア、カサス両国が動けば戦略はまた変わってきますが」
「ふむ。ラドーの言うことも一理ある。
戦力差から見て各軍が一国と対等に渡り合える規模だ。
私も100人の私兵がいるので参戦させよう」
「100人で何が出来るんだ」
ラドーは嘲笑した。
「ただの兵ではない。強力な魔人も一人いる」
リアムも不敵な笑みで応える。
「あとは魔戦力ね。
南部の魔戦力はカサスの女王が魔剣使いなだけで、他は皆無。
北部は……魔剣が1、魔人が2、魔獣が1。手強いわね」
シキはラドーにウインクした。
「こちらは魔剣が1、リアム殿の魔人を入れれば2、魔獣が2……。
どう振り分けるかだな」
ニカゼは楽しそうに口角を上げる。
「特に注意すべきは〝雷魔ネネル〟ね。
大陸南部まで名が通っているほどの魔人よ」
シキに同意したのはナルガセだ。
「北部の戦力はそれだけではありませんよ。
報告によると有翼人に獣人、白毛竜に機械人までそろえています。
機械人についてはまだ情報はない……。
あまり軽く見ない方がよさそうです」
「キトゥルセン軍は5千もいない。
対して我が北方軍は2万。およそ4倍だ。
数の力で押し切って見せよう」
ラドーは自信満々だ。
「ん? ニカゼ殿、軍の総数は?」
リアムが尋ねる。
「8万ほどだ」
「確かザサウスニア帝国の人口は12万ほどのはず……。
人口に対しての軍人比率がおかしなことになっているが……」
「正規兵は3万ほどよ。この国には奴隷が10万人くらいいるの。
その半分が奴隷兵ってわけ。
奴隷は国民ではないから数に入れてないだけ。よろしくて?」
説明し終わるとシキは妖艶な笑みを浮かべながらワインを一口煽った。
「なるほど、了解した。こちらもいくつかの仕掛けがある。
それを踏まえて作戦を練ろう」
少しの沈黙の中、すぴーと鼻息が聞こえる。
全員がギラクの方を向いた。
「……ん? 終わったか?」
立ったまま寝ていたギラクが目を覚ました。
「気にするなリアム殿。あれはあれで、やるときはやる」
「こういう話し合いは苦手なの、バカだから」
「おう、シキ。わかってるじゃねーの、ガハハハハッ!!」
一人の帝国兵がリアムの部屋に夕食を届けに来た。
「お前が伝令とはな。何かやらかしたのか?」
「いやいや、ザヤネをここまで運んできただけですよ。
それより、どうですかこの国は?」
「この国の人間は過信している。
そしてどいつもこいつも我が強い。
私のことなど外交上の飾りだと思っているのだろう。
……報告通りならキトゥルセンだけでかなりの損害を被るだろう」
「好きにやらせたらいいじゃないですか。
どちらにしても、残った方をテアトラが喰う、ですか……
しかしテアトラも哀れですね、聖ジオン教国に操られてるとも知らずに」
「なら我々は聖ジオン教国の血を吸うダニだな」
「かもしれませんね」
「クガ、お前はキトゥルセンが気になってるそうだな」
「王子がいい子なんでね」
クガは持ってきた料理を広げると勝手につまみ食いを始めた。
「私がいるからには潰すぞ」
「ええ、構いません。他にも唾をつけてる国はいくつかあるので」
「ふん……団長の方はどうなっている?」
「ジオン教騎士団と共にゼニア大陸に渡ってなにやらやってます。
僕みたいな一団員には教えてくれませんよ」
「たぬきめ。お前みたいな奴が何も知らん訳ないだろう」
クガは食べるのをやめ、ニタっと笑った。
「はて、なんのお話でしょ?
……まあリアムさんも責任取らなくていいんだから楽しんで下さいよ。
あ、ウスコダって渓谷行った方がいいですよ! 凄いイイ景色!
あとメルスーラって郷土料理もおススメです。
あ、もう行かなきゃ、早くしないと娼館閉まっちゃうんで。
終わったらまた飲みましょうね。んじゃ」
クガは口元を汚したままやかましく帰っていった。
「ふん、クガめ……読めぬ奴だ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます