第5話 ノーストリリア城

俺はこの能力を使って山や森に入る狩人になるつもりだった。


山や森には凶暴な肉食獣や魔獣がいて、一般の人は入りたがらない。


だから白鹿や花鹿の肉や毛皮は高く売れるし、


森の宝石と言われるパダキノコも俺なら簡単に見つけられる。


金クジャクの羽は一枚1万リルで売れるし、


薬草も大きな収入になる。【千里眼】を使えば肉食獣や魔獣は予め避けられるし、


獲物を見つけてから山や森に入ればいい訳だから効率的に仕事ができる。


獲った獲物を馬車に乗せて、王都に売りに行って、がっぽり稼いでやる!


……つもりだったのに、なぜか今、俺は城からの馬車に揺られている。


ていうか揺れが大きくて尻が痛いし気持ち悪い。用意されたいい服にリバースしそうだ。


とまぁ、それは置いといて、完全に人生設計を狂わされたわけだ。


責任取ってくれんだろうな! 俺は心の中で威勢良く吠えた。


うん、もちろん声には出さないよ。だって中身はいい大人だから。



それと(シースルー)の能力は徐々に自重するようになった。


毎日のようにサユちゃんに使っていたけど、ふと、飽きてしまったら


とてももったいない事になると気付いたからだ。気付いた時にはゾっとした。


産婦人科の先生は興奮しないという都市伝説もあるし、人生はまだまだ長いのだ。


(シースルー)はここぞという時、他の能力も必要最低限に抑えるようになった。


耐えて耐えて耐え抜いた先に、極上の喜びが待っているのだ!


これを一般的に「焦らし」という。


……俺、Mなのかな。


知らないことを楽しむ、という事を覚えた15の春だった。




城に着くと中庭で馬車から降りた。


目の前には兵士や各大臣、メイドや料理人等、城内の関係者が一同に集まっていた。


「お待ちしておりました、オスカー様。私、宰相のラムレス・ヒムレスと申します」


大きな腹を揺らしながら、小柄なおかっぱのおじさんが近づいてきた。


「はあ、どうも」


「オスカー様、急なお呼び建て申し訳ありませんでした。


しかし事態は一刻の猶予もありません。いいですか、よく聞いて下さい!


……実はオスカー様は、現国王、ジェリー・キトゥルセン様の実の息子なのです!」


「ええええええ! ……まぁ、だろうなとは思っていました」


「えええええええ! お、驚かないとは!」


ラムレスさんの丸い顔がもっと丸くなった。


「俺の母さんは国王の愛人で、存在すると困るからってんで施設に入れたと。


で、何があったか知らないけど、南の森で国王は大怪我して、王妃と王子は死んで、


後継者は俺しかいないから呼ばれたと。で、国王は今まさに息を引き取る寸前、と。


こんなとこですか?」


「ななな、なんと聡明な! さすがはジェリー様のご子息! 


しかし、これはまだどこにも出回っていない情報ですぞ。一体どこで……」


「俺、南の村にいましたから。村、通りましたよね? ここ数日みんな噂してましたよ」


国王が死にそうだと知ったのは、到着した時【千里眼】を使ったからだ。


まぁ、使わなくても大体予想がついたし、見るからに辺りにはそんな雰囲気が漂っている。


「そういう事でしたか。では話が早い! 王位継承権、継いでくれますな?」


「拒否権ないでしょ。それより国王様の所に行きましょう」


「そ、そうですな! 皆の者! ついて参れ!」


ラムレスさん、動きがいちいち面白い。


階段を昇っている最中、俺はどうしても気になってることを聞いてみた。


「あの、もしかしてラムレスさんって、ヤギのものまねうまくないっすか?」

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