第123話 キトゥルセン軍vsギラク軍

決戦の日。


目の前のギラク軍は三千の本隊の両脇に五百ずつを置いた布陣で待ち構えていた。


こちらは全軍を一塊に布陣させ、敢えて右側を手薄にした。


これは軍と軍が衝突したときに敵軍を右に流すためである。


友軍は太陽を背に戦い、向こうは逆光で見えづらくなるのを期待しての作戦だ。


他にもいくつか理由はあるが、この位置が取れれば戦いは楽になる。


「オスカー様、大丈夫ですか?」


バルバレスが横に来た。


冷たくなり始めた風が頬を撫でる。


二人で全体が見渡せる斜面から戦場を眺めた。


リーザは昨夜、火葬した。


「……ああ、大丈夫だ」


「……いい娘でしたな」


怒りはあるが自分でも意外なことに冷静だった。


ただもう容赦はしない。


「バルバレス……頼んだぞ」





進軍の笛が鳴り響き、キトゥルセン軍は動き出した。


俺はカカラルに乗り、ネネルと共に上空から攻撃する手はずだった。


まだギラク軍は動かない、そう思った時、はっと気づいた。


千里眼で透視してみると、やはりいた。


友軍の真下に魔獣アカシャラが、今まさに地上に出ようとしている。


「ネネルは予定どおりだ!! 俺は引き返す。頼んだぞ!!」


「えっ!? ……わ、分かった!」


上空でUターンした俺は友軍の中央に向かった。


因みに背中にはリンギオが乗っている。


『バルバレス! 対魔獣兵器を中央に移動させろ!


アカシャラが来るぞ!!』


『了解しました!』


軍の一角が乱れたかと思うと、その場の兵が大勢倒れた。


上からも見えた。アカシャラの飛び針攻撃だ。白い蒸気も見える。


「カカラル、針に気を付けろよ」


クウカカカ! と鳴いたカカラルはアカシャラに炎を吐いて、


その隙に俺たちを地面に降ろした。


間髪入れず俺もフラレウムから炎蛇を出す。


ネネルの電撃より炎の方が嫌がることはもう判明している。


「王子! あまり近づくなよ」


リンギオが熱風に顔をしかめながら叫ぶ。


「ああ、わかってる」


だいぶじっくり炎を浴びせ、一旦止めると予想通り丸まっていた。


よし、いいぞ。まだいける。


もう一度炎蛇で攻撃。


カカラルも加勢する。


『オスカー、動いたわ! 敵軍侵攻を開始!』


ネネルの声は全軍団長に届いた。


『私の軍で出来るだけ削るわ』


『おい、ギラクは俺にやらせろ! 手ェ出すなよ!』


ボサップの勇ましい声が響いた時、


バルバレスが対魔物兵器を持って来た。


見た目は四つの車輪に乗せられた巨大な強弩だが、矢が違う。


金色に光る矢は50匹の機械蜂が集合して作ったいわば〝機械槍〟だ。


昨日の夕方にユウリナに相談して考案したものだった。


俺は炎を止めフラレウムを収める。


ここでスノウ達とアーシュ、ソーンが合流した。


「オスカー様! お待たせしました」


俺が空から行く予定だったので、


スノウ達はバルバレス軍と行動を共にするはずだった。


「ああ、悪いな、作戦変更だ」


額から汗が流れ、息が荒くなったが、まだ余力はある。


『バルバレス、構えろ』


『はっ』


アカシャラは針を寝かせ丸まっていた。


ギラク軍の地響きが近づいてくる。ネネルの雷撃も鳴り響く。


アカシャラで戦線を乱れさせ、その隙に仕掛ける。


昨夜は暗殺者も送ってきた。


ギラクという男は真っ直ぐな男じゃなかったのか、とも思ったが、


こちらには魔戦力が3人と1匹いる。


向こうにしてみたらそりゃ余裕はないわな。


そんなことを考えていたらアカシャラが身を起こした。


俺を見つけ咆哮を上げる。


『撃て』


ドッと重い音が鳴り響く。


凄まじい勢いで放たれた機械槍はアカシャラのわき腹に刺さった。


刺さった槍は5本に分かれ変形し、アカシャラの動きを制限した。


もう、丸まることは出来ない。


『オスカー、衝突するよ!!』


ベミーの切羽詰まった声が聞こえた。


俺はアカシャラの腹めがけて炎弾を撃った。


機関銃のように放たれた灼熱の弾丸達は、


アカシャラの腹を破り、


身体の内側を燃やし尽くした。


「終わりだ」


槍を形成していた機械蜂達が結合を解き、空に舞う。


アカシャラの巨体が崩れ落ちたのと同時に戦線がぶつかった。


『バルバレス戻れ。俺はこのまま地上から向かう!』


カカラルはネネル軍のもとに行かせた。


すぐにスノウ達護衛兵団が陣形を作り、味方の中をかき分けて前線に向かった。


怒号と悲鳴と血しぶきが舞い、生者が死者に変わる場所が見えてきた。


「スノウ、前に出る。援護を頼む」


「はっ!!」


俺と【王の左手】達は護衛兵団が避けて作った道を通り前に出た。


「オスカー様がお通りなる! 道を開けよ!」


一般兵が振り向き、慌てて脇に逸れ、やがてすぐに最前線に出た。


【王の左手】達が一斉に連弩で敵兵を蹴散らし、一瞬の空白地帯を作り出したところで、


俺はフラレウムを水平に構え、炎弾を乱れ撃った。


迫りくる敵兵たちは一瞬でバタバタと倒れてゆく。


味方から歓声が上がる。


まるでタイムスリップした前世の兵士が、


襲ってくる戦国時代の武士に自動小銃を撃つようだ、


なんて思った。


時折飛んでくる矢は前方3mまでを覆う熱波により、


一瞬で炭になって地面に落ちる。


俺は炎弾を撃ち続けながら千里眼で戦況を見た。


一番きつい左翼を担うベミー軍、ダルハン軍はかなり押されていた。


ギラク軍を右側に流す都合でどうしても少し突出させる部分だから仕方ない。


中央のミーズリー軍、ボサップ軍、【骸骨部隊】はアカシャラの混乱もあったが、


比較的耐えている。


右翼のバルバレス軍と俺たちは優勢だ。


そして上空からはネネルが雷を落とし、有翼人兵が矢の雨を降らせている。


大将ギラクはボサップと衝突間近だった。


『バルバレス、もっと右に移動しろ! 敵軍をせき止める壁を作れ!』


『了解、しま……したぁっっ!!』


剣を振りながら返事をしたバルバレスは軍を率いて移動し始めた。


これで陣形はひらがなの「し」の字型になる。


そして後ろの森から……


『お待たせしました、オスカー様!!』


よし、ドンピシャ!!


飛び出してきたのは白毛竜に乗ったミルコップ軍だ。


勢いよく敵軍の背後に突撃したミルコップ軍は、


長い行軍の後にも関わらず、悪魔的な破壊力を見せた。


敵軍を右に流すように布陣したのはこのためでもあった。


事前に脳内チップ経由でミルコップと連絡を取り、


作戦を伝えておいたのだ。


『ネネル、無理はするな。力は蓄えておけ。少し軍を後ろに下げろ。


敵軍を囲うんだ』


『分かったわ。なるほど、これなら……』


キトゥルセン軍は「U」の字型に布陣し、ギラク軍を完全に囲んだ。


作戦は成功だ。もうすでに敵軍の戦力は半分に減っている。


しかし妙だな。


普通なら退却や陣形の変更などの兆候が見られるはずだけど……。


喜々とした表情でボサップと戦うギラクを千里眼で見て、ふと気が付いた。


初めから勝つつもりがない……のか?

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