第32話 ノストラ王国攻略編 街道の戦い

ノストラ軍が白毛竜を飼い慣らしている。


この情報は今までキトゥルセンには入っていなかったらしい。


そもそも北の村と僅かに交流がある程度でほとんど国交がない。


故に国についての情報があまりない。


分かっている事と言えば北限に一番近く、大鹿の遊牧民の国であること。


十四ある部族が協定を結び、国を成していて、


ここ数百年はノストラ族が他の部族を統べている、ということ。


そして、今年はまだ冬が空けていないということ。



【千里眼】で街道の先を見た。


げ、マジか。


数時間で遭遇する距離に軍隊を発見した。300人ほどの男たちだ。


皆毛皮姿で、弓や剣や斧で武装している。


大鹿に乗った兵が40ほど、白毛竜に乗った兵が20ほど。後は歩兵だ。


魔人や魔獣はいない。ほっとした。


俺たちはすぐに迎え撃つ準備をした。


人は焼きたくないな。出来れば力の差を見せつけて降伏させたい。


先ほどの白毛竜はノストラ軍の先遣隊、もしくは敵を混乱させる特攻隊か。


警察が犯人に犬を放つのと同じようなものだ。かなりの効果が得られる。


「カカラル、お前は騎兵を足で掴んで投げろ。あまり強くやるなよ。


殺してはダメだ。無力化しろ。歩兵も威嚇まではいいが燃やしてはダメだ」


カカラルはクカッ!と鳴いた。


「ユウリナ。敵を殺さないように無力化できるか?」


「キゼツサセレバイイ?」


「ああ」


「ワカッタ」


「カカラル、ユウリナは合図したら敵の反対側に回ってくれ」


俺はダルハンを呼び作戦を伝えた。


採掘場と臨時村に入れない様、街道の真ん中に大量の丸太を置いて燃やした。


火の壁だ。


その火の壁の前に30人の兵を配置して待つ。


始めに白毛竜兵。毛皮の上に豪華な鎧、隊長か族長だ。


次に大鹿の騎兵、そして歩兵。吹雪の中からゆっくり姿を現した。


こちらが30名ほどしかいないと分かるとあからさまに余裕のある態度を取り始めた。


指差したり、笑ったり、剣を肩に担いで欠伸したり。


ノストラ軍は300人、こちらは30人。そりゃ拍子抜けするだろう。


けど思惑通り。そのまま油断しといてくれ。


10mほどの距離を置いて敵は止まった。


「キトゥルセン軍よ。勝ち目はないぞ。投降すれば楽に殺してやる。武器を置け」


敵の大将が白毛竜から見下ろす。意地の悪そうな髭面の大男。


「今だ!」


俺の合図で歩兵30名がしゃがむ。


同時に火の壁の手前に隠れていた弓兵20名の矢が、


騎乗している指揮官クラスをピンポイントで襲った。


間髪入れずに俺はフラレウムで両側の森を焼く。


事前に油を撒いておいたので火は勢いよく燃え上がった。


上空のカカラルは撃ち漏らした騎兵を掴んでボウリングのように歩兵に投げ、


頭上で威嚇の炎を吐く。


危険な白毛竜も自軍の歩兵に揉まれて、自由に動けないようだ。


いいぞいいぞ。


戦闘モードのユウリナは手足を4本ずつに変形させ、歩兵の中に飛び込んだ。


胴体が360度回るような、人間の常識外の動きで、


棍棒にした腕を振り回し、1秒に1人のペースで気絶させてゆく。


50名の歩兵も突撃し、ノストラ軍は一瞬でパニックになった。


指揮官クラスを初めに片付けたので命令を出す者がいない。


数分戦ったところで後続が後退の兆しを見せた。


「カカラル! ユウリナ!」


両者とも敵軍の真後ろに回り、道を塞ぐ。


これでノストラ軍は四方を囲まれた形になる。


「そこまでだ!」


俺は空に向かってフラレウムの炎を放った。


40mほどの火柱が急に出現し、ノストラ軍は動きを止めた。


「武器を捨てて投降しろ。それともまだ続けるか?」


ゆっくりとフラレウムの剣先をノストラ軍に向ける。


正面は俺の魔剣、弓兵の構える弓、両脇は山火事、


後ろは火を吐く魔獣と得体のしれない化物。


観念した顔で、ノストラ兵たちは武器を手放した。



敵兵は採掘場の穴に閉じ込めた。


ダルハンが聞き出した情報によると、


この後も二波三波と軍が向かってくるという。


「波状攻撃ですな。あの者共はホブド族、


国王のいるノストラ族の軍勢は倍以上と見て間違いないでしょう」


俺は【千里眼】で街道の先を見た。相当数の軍が見える。


600人ほどの後にはさらに200人。この距離だと明日にはここに着くだろう。


「援軍が到着するのは明後日だ。間に合わない」


「ではどういたしますか?」


「停戦交渉をしにこちらから出向こう」


「危険です。とても交渉に応じる様な国民性じゃありません。


彼らは狩猟民族。基本的に奪うのが常識なんです。


故に長い間我々とは折が合わず交易も交流も細いものだったのです」


「だからといって迎え撃てないだろう? まあ最悪の時はこの魔剣があるけどさ」


強気に言ってみたものの、600人ほどの人間を一気に焼き払う度胸は流石に無かった。


「とにかく向こうだって出来れば戦はしたくないはずだ。妻や子供がいれば猶更だ。


交渉の余地はある。今すぐに行くぞ」


死んだ大鹿を焼いて食べていたカカラルを無理やり呼びつける。


背中にユウリナと俺が乗り、足でダルハンを入れた籠を持ち、


カカラルはさらに北へ向けて飛び立った。

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