第41話 温室で焼き鳥

ガラスは偉大だ。


特にこの世界、この時代では。


なにより温かい。


外との温度差は6度ほどあるだろう。


俺とギル、ラムレス、クロエはガラスで出来た巨大な温室の中にいた。


他にも護衛の兵士、農業従事者などがうろうろしている。


大きなテーブルに座り、目の前ではロミが炭火で焼き鳥を焼いている。


「いやぁ、さすがにずっといると熱いくらいですな」


ラムレスは上着を脱いで椅子に掛けた。


今日は天気がいい。日差しもガンガン入ってくる。


室内温度もぐんぐん上昇中だ。


クロエは額に汗を掻いていた。頬も紅潮している。


恰好は既にヒラヒラのワンピース一枚だ。生足が眩しい。


「これなら果実や南の野菜も栽培できるでしょう」


顔に土をつけ、農林畜産大臣のベアーロ・ロシィが満足そうな顔でやって来た。


背が高くて顔が濃い。兵士の方が向いてそうな男だ。


「ガラスには木枠をはめて強化してある。嵐が来ても耐えられる設計だ」


「さすがオスカー様です。この設計図を見た時は度肝を抜かれました。


このような発想があったなんて」


ずっと考えていた計画だった。ガラスを大量生産したのはこの為と言ってもいい。


冬が長いこの地では何をするにも常に食糧問題が目の前に立ち塞がる。


これをクリアしないと人口も増えないし、財源も、国防も限りがある。


俺も施設時代は食べ物に苦労していたし、身をもって大切さを実感している事案だ。


まずは食って生きる事。その次は十分な食料備蓄を確保する事。これが一番大事だ。


「建築計画はどうなってる?」


「はい。王都には野菜の温室が12棟、家畜の温室が5棟、


実験棟がこちらを入れて2棟です。それと南の村々に26棟。


4カ月中には完成しそうです」


「残りは来年か」


「ええ、冬は積雪で工事が出来ませんので」


充分だ。


メイドのヒナカ・オルドリーが出来立ての焼き鳥を持ってきてくれた。


モモ、トリ皮、ネギま、レバー、ボンジリ、手羽先。


うまー!


ちなみに全部塩だ。タレは材料がないのでまだ作れない。


いつかできたらいいな。


「ヒナカちゃ~ん、これも持ってって~! 


ちょっと大臣のおっさん、ここから取らないでよ!」


ヒナカはロミに呼ばれて忙しそうだ。


テーブルには採れたての野菜も並んだ。


クロエはネギまを一口食べて涙を流し、ラムレスは人の分まで食べる勢いだ。


「次は豚バラと鹿肉と牛肉です」


うまー!




その後俺たちは焼き鳥パーティーをしながら会議をした。


まずは財源、主にジェリー商会の話だ。


ダルク、ノストラの民を受け入れたので急ピッチで各地に家屋を立てまくっている。


基本は保温効果の高い3~4階建ての集合住宅。


もちろん水車による24時間風呂完備にした。


家賃も二年間は相場の半分程度にし、移民の生活安定もサポートしている。


その他に空き家を商会が買い取り修繕して賃貸物件として貸し出している。


こちらも家賃は相場の半分。なのでよく埋まる。


産業を拡大しようとしている所へ難民が入ってきたのでタイミングは非常に良かった。


働く場所はたくさんある。


北の採掘場、採石場、鉄工所、各工房などにはノストラ系移民が多く、


農業畜産などは職を失っていたキトゥルセン民、


建築、インフラ工事は元々得意だったダルク民が多い。


それと国民向けの銀行業も始めた。


商会傘下で、金利はかなり低めに設定した。審査も甘めだ。


国は人なので、難民たちが生活を立て直す期間だけは大盤振る舞いするつもりだ。


もっとも今は一時的なバブルだから出来ることで、


タイミングを見てそのうちしっかりと閉めるつもりだけど。


後は流通を活性化するため馬車を増産した。箱は作ればいいのだが、


馬が不足しているので、今は山羊や牛も駆り出されている始末だ。


なので軍馬の貸し出し業も検討中。畜産部門、頑張ってくれ。


そして目玉は馬車専用道路の建築工事。


これは王都を中心に東西南北に4本の有料道路を作る計画。


塗り石という前世で言うコンクリのような素材の鉱脈を見つけたので、


凹凸のない滑らかな道路を作ることが可能になった。



農林畜産部門ではベアーロに金クジャクの飼育を実験してもらっている。


金クジャクの羽は一本1万リルで売れる。もちろん卸値だ。末端価格は何倍にもなる。


一羽から300本取れて、今飼育場には150羽ほど集めたから、


単純計算で4億5000万リルの資産という事だ。


ただ家畜化は初めてなので慎重に数を増やすことを優先させている。


産業になるにはもう少し先の話だ。




最後は飲食業。


現在ワグに移動屋台でテスト販売してもらっているが、


来月には店舗が完成し、ゆくゆくはチェーン化を視野に入れている。


鹿肉、猪肉をメインとしたサンドウィッチ、フィッシュ&チップス、


オニオンリング、揚げドーナツ。


それとフルーツと生クリームのクレープも開発した。


モデルはサ〇ウェイとか〇ックって感じかな。


店名はリリアンフード。


ノーストリリアに住んでいる人の事をリリアンと呼ぶことからそう命名した。


営業計画、財務管理はギルに一任している。


かなり乗り気だ。一時期より目が輝いている。


ギルは性格に難ありだけど能力は買っているから概ねうまくいくだろう。



来年には別事業でテイクアウトピザ屋も考えている。


今はマイヤーが試作中だ。


試食しまくってるから最近太ってきたと俺に小言を言う。


マイヤーは夜番に入ってから態度がでかくなった気がする。別にいいけど。



ピザはすこぶる評判がいい。あまり食に関心のないギルも一目置いているようだ。


話題がテイクアウトピザ事業になると、どのピザが一番か論争が始まった。


もう事業計画などそっちのけだ。


ラムレスが「やはりサラミが乗った王道が一番」と言えば、


ギルは「青かびチーズにはちみつは譲れませんな」と反論し、


「自分はエビマヨコーン一択であります」と横から大声でダカユキーが参戦し


「私はやはり野菜たっぷりとベーコンが入ったやつが……」とベアーロが呟く。


クロエは温室の外にマイマを見つけて離れていった。


入り口には匂いにつられたのかカカラルが中に入りたそうに喉を鳴らしている。


その横ではたまたま王都に戻っていたマーハント軍団長が物欲しそうにこちらを眺めている。


可愛い奴め。後でたくさん撫でてやろう。


あ、マーハントは撫でないよ? 


すごく気持ち悪い画になっちゃうから。

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