第125話 ネネルの傷

木材を組んで作られた台の上に、


ボサップの遺体が寝かされている。


辺り一帯には両軍の死体が撒き散らされ、


上空には死肉を狙うカラスが異常な数集まっていた。


昨日まで戦場だった場所。


体力に余力のある者は友軍の死体を集め、至る所で火葬している。


俺はボサップの台にフラレウムを刺した。


ボサップの部下が周りで泣いている。


副団長のノワがボサップ軍の軍旗を、


バルバレスがキトゥルセン連邦王国の国旗を、


それぞれボサップの胸の上に置く。


最後にベミーがボサップの剣をその上に置いて、全員が一歩下がった。


獣人たちはケモズがグールに襲われたとき、


最前線で戦ってくれたボサップたちに感謝していたので、


代表としてベミーがこの儀を担当した。


「ボサップ・ガランテ! 


類まれなる武にて、我が王国を支えてくれたことに感謝する!


この男こそ真の軍人! 真の英雄なり!」


厳粛な空気が流れる中、俺はフラレウムを握り、


台に炎を放射した。






ギラク軍には何とか勝利を収めたが、


こちらも大きな損害を出してしまった。


現在の戦力はおよそ3000と少し。


軍団長のボサップを失ったのは大きい。


俺は自分のテントにて地図を前に考えをまとめていた。


集中したいので一人だ。


リーザのいないテントは少し広く、そして悲しみが漂っている。


諜報機関〝ラウラスの影〟からの情報、機械蜂、そして俺の千里眼で、


ザサウスニア軍の配置が見えてきた。


南の三国は既に壊滅させられたようで、敵主力軍は引き、


今は余暇戦力だけが統治のために残っている。


指揮しているのは下級将軍か。


そして南西の方角からは六魔将ドリュウ軍が向かってきている。


約1万の大軍、おまけに魔人もいるようだ。


次にぶつかるのはここか……。


しっかりと対策を練らないと、簡単に潰されてしまうだろう。


さらに厄介なことが一つ。


西の港から200隻以上の船が出港準備をしている。


報告と照らし合わせると、どうやら六魔将のナルガセ軍らしい。


おそらくケモズからイースの海岸線に上陸して、


ノーストリリアを攻める気だろう。


こちらは早めに対処しないとまずい。


ちなみに捉えた約1000人の捕虜は、


建設中のラグウンド地下要塞とコマザ城へ送った。


当面は労働力だな。最終的にはこちらの陣営に取り込みたいところだ。


ギラクのイケメン副官、アラギンは軍に帯同させた。


この先、もしかしたら人質として使えるかもしれない。


そして、幸いにも帝都ガラドレスは今のところ動く気配はない。


逆に不気味だ。




救護テントに行くとアーキャリーがネネルの足の包帯を変えていた。


「お、ネネル。アーキャリーすまないな、助かるよ」


白い前掛けに白い帽子、そして巻き角。……完璧。


「オスカー様。ちょうどよかったです。


ネネルさんのこの傷見てほしいんですが……」


アーキャリーはネネルの足を台の上に乗せた。


奇麗な足ダナーなんて思っていたら傷口で目が止まった。


「ちょ、ちょっとオスカー、そんなじろじろ見ないでよ……」


恥じらうネネル久々だな、なんて思っている暇はなかった。


なんだこれは。傷口が黒い。


「初めは汚れか何かかと思ったんですが、


皮膚の下に、まるで血管のように広がってて……」


千里眼で見てみる。確かに傷口を囲うように皮膚の下に根を張っていた。


「ネネル、痛いのか?」


「……ちょっとね」


困った表情のネネル。


千里眼で魔素を見た。


黒い触手がぼんやり光る。


「ザヤネの……」


ネネルは頷いた。どうやら分かっているらしい。


「クロエの話によると、ザヤネはギカク化できるらしい。


そのレベルまでいくとこういう事が出来るようになるのか?」


「うーん、分からないわ。


でもそれって私なら相手の一部分をずっと感電させ続けたり、


オスカーならずっと燃やし続けることが出来るってことでしょ?


もしそうならザヤネは相当な使い手ね……。


ああ……私、手加減されていたのかも……」


ネネルは悔しそうな顔をした。


「アーキャリー、医術師には見せたのか?」


「あ、まだです。この後ボッシュ先生が来てくれる予定ですので」


「そうか、ネネルは安静にしておいた方がいいか……」


ネネルが動けないんじゃこの後の作戦が大きく変わるな……。


「ううん、このくらいなら大丈夫よ。私ほとんど飛んでるし。


責任は果たすわ」


そうは言っても……うーん、悩みどころだ。


「なに悩んでるのよ? 


私はオスカーがダメだと言っても勝手に行くからね」


あ、ネネルのぷく顔……イイ。


「……分かったよ。東海岸に大船団が揃ってる。


ザサウスニアの海軍だ。


本当なら一人でそれらを沈めてきてほしかったんだけど、


万一のためにカカラルとキャディッシュ隊もつける。


速やかに排除して戻ってきてくれ」


ネネルはニタリと嬉しそうに笑った。


「そう来なくっちゃ」


「昨日はボサップを失った……。


ネネル、俺は心配してるんだ。


甘いって言われるかもしれないけど、


もうこれ以上誰も失いたくはない」


ネネルは目をそらした。耳が赤い。


「わ、私なら大丈夫よ。


オスカーよりも強いし」


「ふっ……頼りにしてる」





夕食時。


アーキャリーに「お二人は強い絆で結ばれてるんですね」


と少し切ない顔で言われてしまった。


嫉妬しているのだろうか。


その日はアーキャリーを俺のテントに呼んで、一緒に寝た。

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