第118話 シェリム中央平原の戦い

『各軍団長及び各隊長に告ぐ。オスカーだ。


敵背後の森へは入るな、罠だらけだ』


千里眼で正面に布陣している敵軍を確認し、


俺は作戦を練っていた。


「兵力はほぼ同じですな。


まともにぶつかってはこちらも損害が大きいです」


天幕の下でバルバレスと共に地図を睨む。


「おそらく後ろの森に引き込んで時間を稼ぐつもりだろう」


まだ時間はあるが、二波、三波と敵軍が迫ってきている。


二波の軍は8キロ先、数は同じく4000程。


三波は15キロ先、こちらも4000程。


視界の表示にはギラク軍副官ガオグライと表示されていた。


ユウリナのデータベースにあるということは下位将軍と言ったところか。


「確かにこちらには魔戦力がいることを向こうは知っていますからね。


遮蔽物の多い森の中なら対抗出来ると考えるでしょう」


対峙しているガオグライ軍の真後ろに深い森、左側は丘があり、


右側より荒野が広がっている。


視界に〝シェリム中央〟と表示されている。


「して、オスカー様はどのようなお考えで?」


大軍対大軍のセオリーでは、こちらは分が悪い。


時間が長引けば長引くほど敵は数を増す。


ならば敵の予想を超えていくしかない。


「あの軍とは戦わず、向かってくる二波の軍勢に向かう」


「なんと大胆な……しかしそうすると囲まれますぞ」


「いや、こっちが囲うんだ」







俺はバルバレスと共に先頭に立ち、ガオグライ軍に突撃した。


敵の前線が弓を構えたタイミングで俺は炎蛇を出し、炎の壁を作った。


『右に進路変更!』


今度は右側のミーズリー軍を先頭として荒野に向かいばく進する。


何発か火球を撃ち込み、前線を崩すのも忘れない。


荒野を全速で進軍しながら隊列を整える。


前方に土煙が見える。視界にはギラク軍副官アラギンと表示されている。


「タイミングが命ですな」


真横で馬を駆るソーンが意気揚々と言う。


長い間将軍だったからか、戦争が始まってから少し若返った気がする。


徐々に追ってきたガオグライ軍との距離が詰まってきた。


当然だ、こちらが速度を落としているのだから。


「よし、反転!」


俺と護衛兵団、バルバレス軍だけがUターンし、


ガオグライ軍の正面に出た。


『ボサップ、いいぞ』


がら空きの背後からボサップ軍、ベミー軍、


骸骨部隊、それにカカラルが襲い掛かった。


あらかじめ丘の背後にこれらの軍勢を隠し、


さも全軍で荒野の方面に移動したかに見せたのだ。


撒き上がる土煙で視界が悪く、こちらの総数なんて分からなかっただろう。


同じく背後から後を付けてくる軍勢も、自分たちで上げた土埃で気付かなかった。


まず初めにルレ隊の騎竜兵がガオグライ軍に突っ込んだ。


白毛竜の爪と牙が多くの兵の背中を襲う。


頭上からはキャディッシュ隊の矢が雨のように降り、


アルトゥール隊の騎馬が歩兵を蹂躙した。


ダカユキー隊は側面から連弩で次々と削っていく。


ベミー軍の獣人兵が持ち前の身体能力でぐんぐん奥に入っていき、


物資や食料の馬車を強奪し、投石器や戦車を破壊する。


ボサップは軍を狭くまとめ一点突破、ガオグライ軍の中央を割って進軍していった。


目指すは指揮官ガオグライの首だった。


ダメ押しでカカラルが空から炎を落とし、ものの数分でガオグライ軍は崩壊した。


前の方の兵たちは背後を振り返り絶望している。


そこへバルバレス兵が喜々として突っ込み、


俺も全体を見て味方のいない敵軍の中に火球を数発放った。


敵の一部隊が俺の方に向かってきた。見た感じ精鋭兵っぽい。


雄叫びと共に決死の覚悟で挑んできたが、スノウ達護衛兵団の餌食になった。


その時、中央の戦域で一際大きな歓声が上がった。


ボサップがガオグライを一騎打ちで打ち取ったらしいと報告があった。


一方的過ぎて千里眼を使う間もない。


こっちはもういいだろう。


俺は振り返り千里眼を使った。



残りの友軍は既にアラギン軍と衝突していた。


といっても混戦していない。


頭上からネネルが、それはもう引くくらいの雷を落とし、


有翼人兵たちが火矢の雨を放っていた。


ミーズリー軍、ダルハン軍も矢を放つ。


アラギン軍はネネル一人に大損害を被っていた。


やがてネネルが投石器や大型の弩を狙い撃つようになると、


ミーズリー軍とダルハン軍が突入していった。


『バルバレス、ここはもういい。もう一つの軍も仕留めるぞ』


『了解、で……す!!』


戦いながら返事したバルバレスを待ってから、俺たちもアラギン軍へ向かった。


俺たちが着いた時にはアラギン軍はすでに崩壊していて、


あちこちで敵兵が投降し始めていた。


しかし玉砕覚悟の部隊はまだ抵抗していた。


俺の周りも騒がしくなる。


スノウ達が冷静に近づく敵を切り伏せ、リンギオ、ソーンも連弩で牽制する。


「なんだよアーシュ、行きたいのか?」


「あ、いや……べ、別に……」


アーシュの表情は明らかに違っていた。


まるでご馳走を前にした子供みたいに落ち着きがない。


戦闘民族の血だろうか。


でもアーシュがいなくなるとちょっと心細い……


と、魔剣あるくせに贅沢なことを考えてしまった。


そんな時、前方で勝ち鬨が上がった。


千里眼で見てみると、


アラギンはダルハンの副官でググルカ族のケタルに敗れたみたいで、


剣を折られ、足を切られていた。


『ダルハン、殺すな。捕虜にする』


『分かりました』


「終わりだ!! 俺たちの勝ちだ!」


フラレウムを頭上に掲げ、俺は炎蛇を天に放った。


「うおおおおおおお!!!」


兵達の勝ち鬨が辺りを包んだ。

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