第53話救質と、出合い。

「とどめだ」

最後の一匹の頭を叩き潰す。


仲間が潰された姿を見て、恐怖を感じたのか。

後続から来ていたオオカミは逃げて行った。


それにしても、ありえない数だった。

ダルワンさんと二人で20匹は倒したし、まだ逃げていくオオカミたちは、10匹近くいる。


「とりあえず、解体は後にするかなぁ」

呟きながら、オオカミを空間収納に突っ込む。

村一つ分って結構容量があるから、これくらいの数なら全然入る。

「あ、あの、、ありがとうございました」

必死にオオカミから逃げていた商人が、僕に頭を下げていた。

その姿は、なんとなくよく顔を合わす受付の人に似ている。

ああ。

この人が、受付の人のお兄さんなんだ。

「災難でしたね」

自分の中で納得した僕は笑顔を返す。

ただ、少しだけ商人さんが引いているのは気のせいだろうか?


「はい。本当に。命があっただけでも、ありがたい限りです」

商人さんが見つめる先には、完全に壊れて動けなくなっている荷馬車があった。


馬代わりに、荷馬車を引いていた岩鳥ロックバードは、疲れた感じだった。

水を飲んでいるけど、樽の中の水は、ほとんど無いのか、あまり飲めていない様子だった。

「これ、飲みますか?」

あまりにも辛そうな鳥たちを見て、思わず僕は空間収納から、樽に入った水を出す。


飲み水として確保してるやつだから、ライナやら、レイアに見つかったら怒られる。

また、数日帰らずに、狩りをする気かと思われるからね。


「本当ですか?!ありがとうございます!」

商人さんは、嬉しそうに自分も水を飲み始める。

岩鳥も嬉しそうに水を飲み始めていた時。

小さな頭が荷台から出て来た。


青い髪。青い目。

僕より数個下くらいだろうか?

こちらをじーっと見ている彼女。

「飲む?」

僕が声をかけると、顔を明るくして樽に走って来る。

けど、岩鳥が邪魔で樽の中の水が取れないで、必死にぴょんぴょんしている彼女に。

僕は自分の革袋を手渡す。

こちらを少し見て、いいの?みたいな目をする彼女にうなずいてみせると、嬉しそうに水を一気飲みする。


相当喉が渇いていたんだろう。

一気に飲み干して、まだ足り無さそうにしている彼女のために、革袋の中に魔法を使って水をさらに補充してあげる。


水魔法なら全然使えるからね。

また重くなった革袋を見て、嬉しそうにまた水を飲み始める。

可愛い子だなぁ。と見ていると。


「本当に、ありがとうございます。このお礼は、、」

商人さんが、すごく肩を小さくしながら声をかけてくる。

「ごらんのとおり、荷物も運べず、お金もそれほど残っていないので、充分な俺は難しいかもしれないのですが、、」


泣きそうな商人さんに。

「でしたら、全部持っていきましょうか?」

僕が笑うと、商人さんは、不思議な顔をする。

あっさりと、壊れた荷台ごと全部の荷物を空間収納に入れると。

「あああ! まさ、、あ、収納魔法っ!すごいっ!」

とんでもなく興奮された。



「しっかし、おまえさんの収納魔法の容量はどうなってんだ?荷台全部とか、普通はいらねぇぞ」

呆れた顔をしているダルワンさんを引き連れて。

僕たちは町へと帰ったのだった。


となりで、小さな女の子が一生懸命歩いている。

女の子の首には、首輪がついていた。

「気になりますか?何でしたら、買われます?私は奴隷の取引は出来ないのですが、口添えくらいはできますが」

商人さんが、声をかけてくるが。

いやいやいや。

僕、まだ学生だからっ。

「正式な冒険者では無いのですか!?それで、その強さですかっつ!天才っているんですねぇ」

しきりに感心されてしまった。


「しかし、遅くなってしまったので、妹に怒られるかもしれないですね」

商人さんが、苦笑いをしている。

「もしかして、妹さんって、ギルドの受付をやっていますか?」

「はい。そうですけど、、それが何か?」

「いえ。でしたらよかったです。実は、妹さんから、じきじきに、個人で依頼を受けていまして。お兄さんの捜索を」

「ああ。やっぱり心配させていた。怒られるなぁ。それはそうと、、、」

ん?空気が変わった?

「妹から、個人的に依頼を受けるくらい、妹と親密なのですか?君は?」

ぞくっと、背筋が凍る。

「いや、何もないですよ。ギルドで顔を合わせるくらいですから」

返事を返した僕の顔を、じーっとお兄さんは睨み続けていた。


だから、本当に何も無いんだってば。







「おかえりなさいっ!」

商人さんに荷物を返して、宿に帰ると。


なぜか、ライナとレイアがそこにいた。

宿の狭いテーブルの上に、二皿の料理が置いてある。


野菜炒めのような物と、肉を煮込んだような物。

どちらも、異様に黒いのは気のせいだと思う。


「さぁー。お仕事で疲れたでしょ?食べてくださいな」

「心を込めて作ったぜ」

「レイアより、愛情をこめて作りました」

「ライナより、俺のが料理経験は豊富だからな」


二人の言い合いを聞きながら、なんとなく状況を理解してしまった。


ふたりで、料理対決とか、そんな流れになったんだろうなぁと。

とりあえず、二人に急かされるように料理を食べきる。

二人ともに、美味しいよと返事をしながら。


ちなみに、、、野菜炒めは、炒めすぎて、炭だったし、肉は火が通り切ってなくて、硬かった。

味は、、、まぁ、二人の名誉のために、何も言わない事にしておこうと思った。


まあ、二人とも、嬉しそうに笑っているから、いいかっ。


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