第86話 隠居?
僕たちはミュアの服を買い込んで。
自宅とも言える自分達の拠点へと帰る。
帰りはミュアを抱えて自分が走るんだけど。
速度のステータスも1000を超えてから自転車と並んで走れるくらいには早くなった。
その速さで全力で走るとミュアはいつも目を回すけど。
家に帰り、僕はほくほくで、さっき仕留めたワイバーンの素材を取りだす。
槍だと、斬ったり叩いたりするのが面倒なんだよね。
だから、槍から、槍斧に変えるつもりだった。
ふんだんに竜の骨を使ったその槍斧は僕の最強の槍になってくれる。
【火骨竜の槍斧】
禍々しい火骨の外観から、竜の骨を使う事でスマートにさらに一回り大きくなった槍斧。
斧部分と、槍刃の部分は、ヒートエッジになっている。
さらに軽く、さらに頑丈になったため、ワイバーンの攻撃すら受け止めれる。
神殺しすら可能にする槍斧。
「ご飯にしませんか?」
必死になっていた僕に、声をかけてくれるミュア。
その手には、ワイバーンの肉が煮込まれた鍋があった。
「よぉ。やっと見つけたぞ。本当にこんな誰も来れねえような所に家を作りやがって」
突然やってきたおじさんに、僕は思わず顔をしかめていた。
「なんだよ。せっかく来てやったって言うのによぉ。おお!凄いな!これは水浴び場か!?なんで温かいんだ?!つうか、外にあるとか、これに入って一杯やったらめちゃうまそうじゃねえか!」
露天風呂風にしてある風呂に、びっくりしているダルワン。
「入れてやらないぞ。それは僕たち専用だから」
ミュアとの共同作業で作った露天風呂だ。ミュアの火の精霊魔法で火の精霊が常に丁度いい温度まで温めてくれるから出来た風呂なんだから、僕たち以外入れてあげるつもりは無い。
「何しに来たんだ?ここには酒なんてないよ」
「そんな連れない事を言ってくれるなよ。その可愛い子を見ながら飲む酒はうまそうだけどよぉ」
殺そうか。
「ああ。悪い悪い。そんな殺気を振りまかんでくれ。ちょっとした冗談だよ」
ダルワンは、自分の頭をポリポリと掻き。素直に謝る。
「指名依頼と言うか、ギルドを通してお国からのお願いだ。
この前のワイバーン戦で、かなりの数の兵士が死んだり、負傷してしまってな。手が足りないんだと。そんな中で、この森にな、例のあいつ。犬っころがまた集落をつくってるって話が来た。冒険者を送る事も考えたんだが、今冒険者を送るとほぼ壊滅する可能性もあるらしい。だから、お前さんにお願いだとよ」
「報酬は?」
「金貨2枚」
「本気か?」
「本気だ」
報酬に200万 どれだけ本気なのかが分かる。
「シュン様?」
ミュアが心配そうな顔をしてこちらを見上げて来る。
そんなミュアを思わず撫でていた。
「嬢ちゃんがいるなら、安心かもしれんな」
ダルワンは、今まで見た事もないくらい優しい顔をして僕たちを見ていた。
マップ検索を行う。
この森は、見た目よりも意外と深い。
ここも結構森の奥になるけど、さらに奥がある。
前の事件があった場所よりもさらに奥。
森の中心とも言える場所で、コボルトがヒットした。
集落が出来ている。しかも、結構大きいのか。
ざっと20体のコボルトがいる。
けど、ここから隣町くらいの距離があるんだけど、あんな深い所まで誰が探索しに行ったんだろうか。
だけど、それよりも。
「行くだろ?」
ダルワンの声に、僕は小さくうなづいていた。
検索してみたら、意外とあっさりとコボルトの住処は見つかった。
むしろ、何で今まで探索しなかったのか、不思議に思うくらいだった。
まあ、言い訳をするなら、森は広いから。
少し遠くとか、何か目的が無いと検索なんてしないよね。
「あまり遠くないみたいだな」
ボソリと僕が呟くと。
ダルワンが、頭を掻く。
「お前さんの索敵はどんだけなんだよ。俺でも場所までは特定できねぇってのによ」
「マスター、準備は何をしましょうか?」
「魔力ポーションを少し持って行くくらいかな」
必死な顔で見上げてくるミュアの頭を撫でて上げる。
本当は必要な物は全部空間収納に入れっぱなしにしているから、準備なんて必要ないんだけどね。
「じゃあ、行こうか?」
「おいおい。ここまで来るまでにそうとう頑張ったんだぞ。せっかく骨を折って来てやったんだから、少し休ませてくれよ。
いい、儲け話だったろ? できれば、出発は、明日にして欲しいんだが」
外の露天風呂をちらちらと見るんじゃない。
「せっかくなので、入ってもらってもいいのでは?」
「流石ミュアちゃん!どっかの坊主と違って、心が広いっ!」
ミュアの肩を触るな。ミュアが減る。
「分ったよ。風呂も入れてやる」
さっとミュアを自分の胸に回収する。
「おお!さっそく入らせてもらうわ!くそっ。いい酒があれば良かったのになぁ」
そんな事を言いながら、外へと歩いて行くダルワン。
「まあ、いろいろと助けてもらってるし、忠告ももらっているからなぁ」
そんな事を考えながら、ほくほく顔のダルワンの後ろ姿を見つめるのだった。
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