第87話新たな力
「報酬は、6-4でどうだ?」
ダルワンは、にやりと笑いながらこちらを見て来る。
冴えない割に、こういう所はしっかりしている。
流石はベテラン冒険者と言った所なんだろうけど。
「ダメ。最低でも7-3くらいかな」
「じゃあ、それでいいわ。一応、この依頼、Aランク相当とも言われているからな。気を抜くなよ」
「だろうな」
ぎゅっと自分の弓を握りしめるミュアの頭をそっと撫でる。
「そんなに緊張しなくても大丈夫」
それだけ伝えると、ミュアの手が緩んだ気がした。
ミュアにとっては、初依頼になるのか。
「森の中だしよぉ。俺も歩き疲れた感じでなぁ。一人で森の奥に行けとか言われても、生きて帰れる気がまったくしなくてよ。お前さんを見つけられて良かったよ」
水筒をあおりながら先を歩くダルワン。
そのダルワンの足がピタリと止まる。
僕も少し遅れて気が付いた。
「来るぜ」
その声と同時に、走り込んでくる灰色の犬。
「ウッドウルフ!」
森オオカミなんて言われている山犬の魔物だ。
そのオオカミの頭を、槍の石附で叩き潰す。
「行きます!」
ミュアが、矢をつがえ。
飛んで行った矢は、僕たちの周りを囲んでいたオオカミの身体に刺さる。
雷の魔法でしびれて倒れるオオカミ。
その体を飛び越えるようにもう一体が飛び掛かって来て。
絶対結界にぶつかって、地面に落ちる。
「ミュア!」
「はいっ!」
その首を矢で打ち抜く。
流石エルフといった所だ。
ミュアの弓の腕は多分ベテラン冒険者を遥かに超えると思う。
襲い掛かって来る2体のオオカミは、魔力球から飛んで来た氷と炎の矢の雨を浴びて、倒れる。
じりじりと間を取り、残ったオオカミ達は、森の中へと逃げ帰って行った。
10体か。けっこう大きな群れだったみたいだけど。
「あー。なんていうか、、、俺、一応元Aランクなんだよなぁ。
俺よりも、強くないか?」
頭を掻きながら、また水筒をあおっている。
その目線の先で。
オオカミよりも早い速度で飛んで行った魔力球が、オオカミを囲み、仕留めていた。
ミュアの魔物ホイホイは本当に凄い。
EP稼ぎ放題になった僕は、ミュアの絶対不幸を相殺するスキルを作った。
僕が傍にいないと発動しないけど、もうミュアと離れるつもりも無いから、問題ないと思っている。
そして、もう一つ。
魔力球を極め続けていたら、魔力球のスキルが変化していた。
【魔力ビット】
絶対結界、各種魔法を距離に関係なく、発動できる魔力媒体。
自在に動かす事が出来る、全方位、全距離武器。
【ビットシステム】
空間把握、気配察知、周辺把握、高速演算、高速並列思考、無詠唱、並列魔法発動、同時魔法発動、自立演算、自立簡易思考
全てのスキルを同時発動させる事が出来る。
魔力ビット運用スキル。 無限に近い魔力ビットを運用可能。
この二つのスキルが、僕の中で完成したのが一番大きかった。
地上なのに、自由自在に動きまくるビットを見た時、「トキは来た」と思わず呟いてしまうほどだった。
「トキ、、、ってなんですか?」
素でミュアに問いかけられたときは、何も返答できなかったけど。
風魔法で、自由自在に動き回り、絶対結界を空中に張り、敵を魔法で打ち抜く。
盾持ちのビットなんて、強いに決まっている。
オオカミを仕留めたビットは、そのまま森の中へと飛んで行き、僕たちの周りにいる魔物を倒し始める。
何もしてないのに、どんどん溜まるEPを見ながら、僕は少し罪悪感すら感じていた。
くう。と可愛い音が聞こえる。
ふと隣を見ると、ミュアが僕を見上げていた。
「マスタ、、、」
お腹を押さえているミュアの頭を撫でる。
ダルワンは、酒をあおり。その場に吐き捨てた。
「甘っ!くそっ。独り身には辛い」
「稼ぎはいいんだから、紹介してもらうとか、買うとかすればいいんじゃないか?」
「少し見ない間に、お前さんも良い性格になったなぁ。けどなぁ。地獄を知ってしまったからなぁ。どうも踏み出せん」
もう一度口直しといわんばかりに水筒をあおるダルワン。
本当にあの水筒にはどれだけ酒が入ってるんだろ?
まさか、無限に湧き出るとかじゃないよね?
「知り合いにな。いたんだよ。結婚して間もなく、目の前でバラバラになった相方を見て、狂った奴がな」
肩をすくめるダルワン。
その目は、お前もそうなるなよと言っているようだった。
ぶるっと震えがくる。
ライナの目をえぐられた時。
レイアが襲われているのを見た時。
僕は確かに暴走していた。
しっかりとこっちを見上げて来るミュアを見つめ返す。
ミュアが魔物に襲われて。
いや、考えないようにしよう。
けど、これだけは言える。
きっとミュアが襲われたら。
僕は、絶対許さない。
「あの、、、マスター?ご飯は?」
無意識に撫でていた僕を見上げながら、ミュアは心配そうに僕を見上げていた。
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