第88話新しい力2
ミュアがお腹を空かしているので、その場で野営地を作る事にした。
ダルワンは早く行くぞとか言っていたけど、気にしない。
ミュアがご飯にしたいと言ったのだから。
「ご飯ですよ」
にっこりと笑うミュア。
その手には、出来たばかりの鍋があったりする。
まあ、、、作るのはミュアなんだけど。
お皿に鍋を取り分けて、そのまま僕の膝の上に収まるミュア。
「熱いので、気を付けてくださいね」
お皿を持ったまま、顔を上げるミュアが可愛い。
「くそっ。やっぱり見せつけて来やがる」
苦い顔をして、水筒をあおるダルワン。
「飲みすぎは、良くないと思います」
「お前らが言うな」
ミュアの正論に、さらに苦い顔をするダルワン。
ご飯を食べた後。
ミュアが、僕の膝の上で静かに寝息を立て始めた。
「そういえば、結界の外で魔物を狩るのは、初めてだったな」
緊張していたのだろう。そっとミュアの頭を撫でていると。
「なんだが、お前ずいぶんと過保護じゃないか?その子に」
ダルワンが、目を細める。
「ギルドのド真ん前で、傷心したまま衝動買いしたんだろ?その子は、、やっぱりハーフエルフか」
「ああ。みたいだ」
そうか。とだけ呟いてダルワンはまた水筒をあおる。
「いろいろ、噂つきの子みたいだな」
「おっさんの情報源を知りたくなるんだが?」
「その子は有名だからよ。買った奴が次々と変死。結局その子一人だけ生き残るって話だ。悪い事は言わん、、あんまり、、」
「関わるなと言うなら、ダルワンでも怒るよ」
「悪い」
急に寒くなった気配を感じながらダルワンは肩をすくめる。
「一年。一緒に住んで、いろいろ聞いて。この子が悪いわけじゃない」
安心した顔で眠っているミュア。
「まあ、だろうなぁ。しかし、美人さんになったもんだ」
手を伸ばして来るダルワンを払いのける。
「ほんと、過保護だなぁ」
煩い。
そんな事を思いながら、僕はミュアをそっと撫で続けるのだった。
【ダルワン】
「すまねぇな」
嬢ちゃんの髪を撫でているシュンを見ながら、俺はなんとも言えない気持ちになっていた。
今回の依頼。
怪しさしか無かった。
依頼主が匿名希望。
なのに、この高額な報酬。
条件も怪しさしかない。
シュンを同行できる事。
森の奥の調査のみ。
なのに、いざ来てみれば、森の奥というには深すぎる。
調査報告のみで依頼達成と言われても、条件も金額も含めて、怪しさと全く依頼の中身が見えて来ない。
後日、討伐依頼を出すといった話すらない。
もう、シュンを引っ張り出せるという条件だけでこの依頼を受けれる奴は数人しかいない。
もう、これは指名依頼だ。
なんで、こんな怪しさしかない依頼を俺が受けたのかと言うと。
「酒のツケが、溜まり過ぎてとか言ったら、殺されるだろうなぁ」
苦笑いしかない。
「何かあったらすまん」
俺は、穏やかな寝息を立て始めた2人を見ながら小さく謝るのだった。
【シュン】
「おはようございます」
ゆっくりと目を開けると、ミュアがこちらを見て笑っている。
「おはよう」
ゆっくりと頭を撫でると目を細めるミュア。
「まったく、何なんだよ」
ダルワンが、苦笑いを浮かべている。
全包囲に張られた絶対結界は、魔物を絶対に通さない。
通さないだけじゃなく、魔力ビットが近づいてくる魔物を全部倒してくれる。
つまり、僕は寝ているだけでEPをゲットできる。
これほど、安全で、安心な旅は無いと思う。
森の中だけど。
最初の遭遇戦のように、仕込まないと戦闘なんて起きないから。
新しい山菜をみつけて、褒められて喜ぶミュアを見ながら平和なピクニックは続く。
「ここか」
ダルワンが足を止める。
「いるな」
魔法で確認しなくても分かる。
「アルケミストがいるんじゃないか?」
ダルワンの声が硬くなる。
コボルトの集落。
岩に開けられた入り口から地下へと道が延びているのだろう。
せわしなくコボルトたちが出入りしている。
周りには、骨だけの動物型の魔物が数匹いる。
あきらかに使役されている。
「慎重にいくぞ」
ダルワンが小さく呟く。
「ミュア。宣戦布告だ。力いっぱい一撃入れろ」
冗談じゃない。
こいつらには、借りがある。
多分、ライナたちを襲った集落とは違うんだろうけど。
それでも、許せない。
「ダルワンは、自分の身を守ってくれ」
僕は、それだけ言うと、竜の槍を取りだす。
ミュアが限界まで引き絞った矢に魔力を込め始める。
ショックボウ。
ミュアの武器であるこれもしっかり強化されている。
普段は電撃魔法で麻痺させたりするけど。
「ま、、まだですか?」
ミュアの声が震えている。
つがえている矢の先端に魔力の光りが揺れているのだけれど。
周囲から魔力を集めて、それはもうミュアの身体の半分まで膨れ上がっていた。
「まだだ」
「も、、もう、限界です。待てないです、、」
ミュアが震えている。
そっとミュアの腰を支えてあげる。
「もう、、、わたし、、、」
「撃てっ!」
咄嗟にミュアは矢を放ち。
ミュアが僕の胸に吹き飛ばされる。
爆風を纏いながら、矢は一直線に飛んで行く。
射線上の全てを蒸発させるかのように燃やし尽くしながら。
強化ショックボウと、僕の魔力、ミュアの魔力。
全てがそろって初めて使える技。
けど、矢だから、一直線だけだけど。
射線上の敵なら蒸発出来る。
ほんとうに、竜はチートだと思う。
「ミュア!サポートは頼んだ!」
それだけ言うと、僕は飛び出したのだった。
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