第89話最強

集落の一部が綺麗に吹き飛んでいるのを確認しながら僕は走る。

さすが、魔導砲。

ってはじめて撃ってもらったんだけどね。


慌てて出て来る犬頭の魔物を撥ね飛ばす。

飛び込んで来た犬の魔物を空中で串刺しにする。

氷の矢に貫かれた犬の魔物2体が落ちて行くのを確認しながら僕は走る。

じゃらじゃらと、頭蓋骨をネックレスにしているコボルトが慌てて人間の手で作った杖を悪趣味な杖を向けて来る。


槍に魔力を通してその杖ごと、コボルトを真っ二つにする。

魔力ビットがその全てを凍り付かせ、風魔法でバラバラにする。

飛んで来た頭を槍で串刺しにして粉々にする。

こいつには、恨みがあるからね。

コボルトシャーマンを瞬殺して僕は、槍を振り回す。


オオカミに乗って突撃してくるコボルトに矢が刺さり、落下していく。

ミュアが、ちょっとだけ嬉しそうな顔をしているのが見えた。


騎手がいなくなったオオカミが、光りの壁にぶつかり止まる。

魔力ビットがあっさりとオオカミを打ち抜く。


魔力ビットと一緒に、踊るように槍を振るう。

槍についた斧があっさりとコボルトアルケミストを切り裂く。


「ミュア!来い!」

「はいっ!」

ミュアが走り出す。

走りながら矢を打ち出し。

次々とコボルトを、ここにいた魔物を打ち抜いて行く。

魔力ビットも、飛び回り次々と魔物を打ち抜いていく。

二人して、コボルトを仕留めながら走り回る。


【ダルワン】

俺は夢でも見ているのだろうか。

入り口で、何もすることなくただ茫然と見ているだけの俺は、目の前の光景がどうしても現実とは思えないんだが。


コボルトの集落。

コボルトシャーマンが、嘘のように綺麗に真っ二つにされるのを見て、俺は考えるのを放棄した。


コボルトアルケミストが、7体くらいの魔力球から放たれた氷の矢に貫かれて倒れるのが見えた。


普通なら大規模な討伐隊を派遣するレベルの集落だ。

なのに、ミュアさんの一撃で。たった一撃で集落が全滅してしまった。


本当にわけが分からない。目の前の光景が現実とは思えない。

何で殲滅竜吐息フルブレス並みの攻撃をミュアさんが撃てるのか。

シュンが走って行く先から何もかもが倒れて行くのが理解できない。


たった一年。たった一年で、あのガキはA級のコボルトたちをまるでスライムでも狩るかのように切り裂いていく。


シュンが飛び出していった後、後を追っかけるように魔力球がありえない速度で追いかけて行くのが見える。


今は、その魔力球が、空中から魔法を撃ち続けている。

まるで地面が地獄のようだ。


そういえば、あいつら、街の外に住んでいたな。


もし、街に住んでいて、これほどの強さだと知られてしまったら。

二人で、これだけの集落を壊滅させてしまえるなど。

A級。いや、S級と言われても納得してしまえる強さ。


俺は、袋から酒がこぼれているのにも気が付かず。

目の前の現実をただ見つめ続ける事しかできなかった。



【シュン】

集落を舞い踊り。

集落にいたコボルトは壊滅した。

魔力ビットが、逃げていったコボルトの追撃に飛んで行く。

コボルトは絶対に許さない。

ライナのかたき討ちとか。

少し考えてしまう。


最後の一体を魔力ビットが倒す。

データベースのマップ表示から、赤い点が消える。


僕は大きなため息を一つつく。

カキンと鈍い音がする。絶対結界が、ナイフを弾き飛ばしていた。

頭に突然激しいアラームが鳴り響く。


咄嗟に僕は槍で薙ぎ払う。

いつの間にか目の前にいた男を槍が確実に捉え。


茫然とする僕の前で、150cm程度の小さい男がにやりと笑っている。

ギョロりとした大きい目が怖い。

魔力ビットが、男を打ち抜くが。

全てすり抜ける。


ニヤリと男が笑うと。

手の中にあったナイフが。

ブレた気がした。

嫌な予感がして、僕は咄嗟に後ろに下がる。

瞬間。僕のローブが、切り裂かれた。


危なかった。下がらなかったら恐らく刺さっていた。

ナイフが飛んで来たのだ。


『致死毒が塗られています』

データベースのその言葉に、ぞっとする。


「マスターっ!」

ミュアが、僕の腕を掴む。

ちょっ。今はまずい。


動けなくなると、この危ない奴に対応できない。

「あーあ。外れちまったか」

男はにやりと笑う。

「そっちの嬢ちゃんの腹ん中を見てみたいのになぁ」

ナイフを再び取りだす男。

「致死毒が回る中、腹を切り裂いた時に出る声でイケるんだがなぁ」

ニヤァと笑う男。

ミュアが、咄嗟に矢をつがえる。

男がナイフを構え。突然、そのナイフを空中に投げる。

「可愛い嬢ちゃんがいるってのに。時間切れかよ。もったいねぇなぁ。嬢ちゃんの泣き顔が見たいのになぁ。まぁ。仕方ねぇ。今度会う時はいっぱい可愛がってやるよ。その時は楽しもうや。嬢ちゃん」


にやりと笑ったまま、突然と姿を消す男。

頭の中で鳴り響いていたアラームが消える。


大きく息を吐く。

どれだけ緊張していたのか。

両手の汗が凄い。



「マスター?」

ミュアがまた腕を掴んで来る。

その時、初めて自分が震えていた事に気が付いた。

『希薄の』

データベースであの男を検索してみると、とんでもない情報が出て来る。

4Sの一人。


『希薄の』

4Sの一人。

次元がずれて存在出来る唯一の存在。

全ての物理攻撃、魔法攻撃は無効化される。

武器も次元の置換が可能。

どんな盾も。魔法の結界もすり抜ける攻撃を放てる。


検索結果に、さらに冷や汗が出る。

初見殺しもいいところだ。

絶対結界すらすり抜ける攻撃とか。

受け止める事も無理。武器破壊も無理。

武器の次元も変えられるとか、あり得ない。


「強く、ならなきゃな」

今のままじゃ勝てない。

暗殺されないように。4Sだからと言って、自分も、ミュアも殺されるつもりは無い。


震えていた手を握りながら心配そうにこちらを見るミュアを見ながら、僕は自分の決意を改めるのだった。





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