第90話依頼
「信じられません」
ギルドに入り、達成報告をした第一声が、それだった。
「いや、だから、指名依頼みたいな物を受けてよぉ。わざわざ、シュンを探して、森へ行ったんだぜ」
「そう言われましても。たった3人でコボルトの集落。しかも、コボルトシャーマンまでいるような大きな集落を壊滅。魔物も数百匹討伐。大攻勢でも起きたと言うのですか?」
いつもは優しい受付のお姉さんの声が硬い気がする。
「しかも、そもそも、その依頼その物が無いのですから、ダルワンさんですから、狂言とは思いたくはないのですが、それでも達成と言うわけには行きません」
少し困惑の表情を浮かべるお姉さん。
ダルワンは、思わず自分の頭を掻いていた。
「しかしよぉ」
「こちらでも、調べてはみますけど、依頼その物が無い以上、何も言えません」
「せめて、コボルトシャーマンの討伐部位くらい持って帰ってくだされば、処理できたかもしれませんが」
それは、、、、無理。
真っ二つにして、凍らせて、粉々にして、塵にしちゃったから。
「魔物の買取だけ、お願いできますか?」
僕は、しょんぼりと頭をうなだれているダルワンを見ながら、森の中で自動処理されてきた魔物の一部を売る事にしたのだった。
それだけで、金貨1枚(100万)にはなった。
あと、もう勘弁してくださいって、受付のお姉さんたちに頭を下げられる事にもなったけど。
「マスター?どうされましたか?」
心配そうな顔で僕を見上げてくるミュア。
まさか、4Sに殺されかけるなんて。
いや、4Sが敵対するなんてまったく考えた事も無かった。
けど。
「ありえる、、、んだよな」
強くなりたい。
「ランクを上げたら、もっと堂々と狩りをしても大丈夫か」
じーっと僕の顔を見続けるミュア。
「気晴らしに、ゆっくりした依頼でも受けようか」
そんなミュアの頭を撫でてやりながら僕は呟くとギルドの依頼掲示板へと歩いて行く。
そんな僕たちの後ろで、ダルワンがジョッキをあおっていた。
「おい!シュン!お前らだけで、コボルトの集落を壊滅させたって、あの姉ちゃんを納得させてくれよぉ!」
大声で、叫んでいる。
「そんな事が出来たら、もうSランクを名乗っているだろ。ダルワン。ちょっとは考えてくれよ」
周りの冒険者から笑いが起きる。
「そりゃそうだ」
「さすがに暴緑といってもなぁ。そこまではないだろ」
ジョッキを一気飲みした後、頭をうなだれるダルワン。
そういえば、依頼達成にならないから、ダルワンに渡すっていった報酬はゼロになったんだった。
ちょっと可哀そうになった僕は、依頼を受けるついでに、ダルワンの酒代を僕にツケてくれるように頼む。
その一日の飲み代請求に、大銀貨数枚(数十万)が飛んだ事に、殺意を覚えるのはまた後の話。
「気持ちいいですね」
「うん。そうだね」
気晴らしに受けた依頼は、レッドカウと言われる赤牛の牧場の外敵討伐。
牧場で、赤毛の牛の魔物がのんびりと草を食べている。
家畜。そう言っていいのか。とにかく温厚なこの魔物は人を滅多に襲わない。
自分が襲われても、襲い掛かって来る事は滅多に無い。
ただ、出産時、育児期間、繁殖期には狂暴化するため、気を付けないといけないらしいけど。
でも基本は柵で囲って逃げないようにしてあげるだけで、自然と増えて行くし、討伐もそれほど難しくない。
出荷という名目で、E級冒険者に討伐依頼が出るくらいだ。
「よぉ、依頼を受けてくれた冒険者か。俺がこの牧場をやってる。名前はダンだ。よろしくな」
ドワーフ?と思うくらい濃いヒゲのおじさんが握手をしてくる。
「シュンです」
その手を握り返すと、ごついおっさんの後ろから、ぴょこっと小さい顔が出て来る。
そばかすが浮いている、笑顔が可愛い子だ。
「お兄ちゃん冒険者さん?」
4,5歳くらいだろうか。
ふわふわの服を着ていて、ぴょこぴょこしている可愛い女の子だった。
「ああ。これは俺の娘でな。カイナだ」
ダンが、女の子の頭を撫でる。
それだけで、満面の笑みを浮かべている。
「よろしくお願いします」
「お姉さんもよろしくねっ!」
ミュアが、目線を合わせて挨拶すると、飛び上がりながら挨拶するカイナ。
「で、依頼というのが、この辺りにオオカミの群れが来ているみたいでな。夜中になると、煩く吠えるんだ。その退治をお願いしたい」
「オオカミの数は?」
「朝、見回りに行ったときに、数体やられてるくらいなんだ。正直、どれだけいるのかとはまったく分からん」
こっそりマップで検索してみるけど。
オオカミの存在はマップには表示されない。
いや、いるにはいるんだけど。
大きな群れはないし、この牧場を襲うような距離にはいない。
赤牛とか言われているけど、像に近いくらい大きい牛だから、牛舎とかにはとてもじゃないけど入れられない。
放牧したまま、放置しているのが一般的だ。
夜になると、群れて襲ってきているのかも知れない。
これは泊まりの仕事になりそうだ。
「泊まらせてもらう事はできますか?」
「おお!その方がありがたい!実際に見てもらった方が早いからな」
僕のお願いに、ダンは快く承諾してくれたのだった。
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