第92話幕間 ロア
「すまない」
「突然ですね」
「準備が間に合うか、ギリギリだよ」
ライナと、レイアが少し困った顔をしている。
後、半年後。
僕と、ライナ。レイアとの結婚式を予定していたのに、突然昨日ライナのお兄さんから声をかけられた。
「南に、ナンという村があるのだが。そこにオークが出たらしい。以前どこかの冒険者が討伐してくれたのだが、まだ残りがいたみたいでな」
騎士としての仕事。
ライナの夫となる以上、碧玉騎士団に入る事が決まっている以上、決して断る事はできない依頼だった。
「討伐を、お願いしてもらってもいいかな。騎士は数人連れて行っていいから」
困った顔のまま、声をかけてくれたお兄様に恥をかかせるわけにはいかない。
そんな風に思って、僕は二人に正直に話をしていた。
「ここからだと、村に着くのに、数か月。式は無理になりそうですね」
ライナが寂しい顔をする。
「いや、出来る限りさっと倒して、戻ってくれば大丈夫じゃないか?」
僕がそんなライナを慰めようとするも。
「無理な物は無理よ。変な期待を持たせないで頂戴」
現実主義的なレイアに怒られてしまった。
「でも、ある意味良かったですわ。この顔をみなさんにさらすのは、少し気が引けてましたから」
ライナは、自分の右目を触る。
そこには、目が無い。
完全にくりぬかれたのだ。
この世界には、欠損を修復するほどの回復魔法は無い。
それはおとぎ話でしかない、神の御業だ。
「私も、おばあさんみたいだしね」
白髪を撫でながら、笑うレイア。
彼女も、コボルトに襲われて、その精神的ショックで完全に髪が白くなってしまった。
少しだけ昔の色でもある赤髪が混じっているけど、真直でじっくり見ないと分からないくらいだ。
傷ついた二人をここまで護衛して来て。
言われた事を思い出す。
「深い傷を負ってしまった娘を守り、幸せにやって欲しい。レイアと仲が良いのも知っている。彼女も、私たちにとっては娘のような物だ。どうか、私の自慢の2人の娘を幸せを守ってはもらえないだろうか」
シュリフ将軍。
この国の最高騎士にそんな風に頭を下げられてしまっては、断る事も出来ない。
僕は、盛大なフラグが立っているのに、それをへし折る事も出来ずに、見事に回収するしかなった。
「ロアが、綺麗と言ってくれるから、この髪も好きだけれど」
小さく呟くレイアが可愛い。
思わず抱きしめたくなってしまう。
レイアとは、まあ。そういう仲だ。
泣き崩れて、自分にナイフを突きつける彼女をひたすらなだめ。話を聞いていたら、いつの間にかそういう仲になってしまっていた。
そして、親から決められた結婚に、一切何も言わないライナとも最近、親密になった。
この世界では、数多くの妻を持つ事は別に問題ないと言われている。
けど、本当にタイミングが悪すぎる。
「本当に、ごめん。埋め合わせは、というか、延期の知らせは出しているから」
僕は二人にそれだけ言うと頭を下げる。
「大丈夫ですよ。お勤めですから。それよりも、荷支度を急いでしないと」
ライナは、自分の杖を持ち出す。
「そうだな。えっと、たしかあそこに置いたままだったよな」
レイアまで、小手を探しに自分の部屋へと行ってしまう。
「え?」
僕は思わず二人を見ているしかなかったけど。
「もちろん、ついて行きますわ。正妻ですもの」
「あった。あった。うん。一応、戦力になるとは思うよ」
ライナは笑い。
レイアは小手から小さな炎を出している。
「もちろん、連れて行ってくれますよね。私たちを守ってくれるのでしょう?ロア様?」
ライナの目が、少し怖い。
僕は、この二人の前では、すました顔すら許されないらしい。
「ほら、ロアも準備しろっ!」
カラカラと笑うレイアを見ながら、僕はこのフラグは回収して良かったのかも知れないと思い始めていた。
初めての軍指揮。
だけれども、この二人と一緒ならやれる気がした。
「ああ。そうだね。準備に行こうか」
僕は笑う。
シュン君。君の恋人を奪うつもりは無かったけれど。
本当にごめん。
けれど、二人は僕の大切な人だ。
もう、君には返さない。
その決意をも込めて。
「出陣準備!」
シュリフ将軍からもらった、真新しい剣を掲げて高らかに宣言していた。
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