2章 ダメ騎士と最前線

第93話砦への依頼

「お疲れさまです。シュン様」

ギルドの受付に行くと、受付のお姉さんが、やけに優しい顔でこちらを見ている。


いつもの3割増しくらいの笑顔だ。

ひどく嫌な予感がする。


「何か、あるんですか?」

思わず敬語で返答する。

受付のお姉さんの顔色は変わる事なく、笑顔のままだ。


「いえ、そんな厄介な仕事じゃないんですけどね。西のセイの村の先にある、騎士の砦、防衛キャンプに連れて行って欲しい人がいるんですよね」

ちょっと待って。

それって、すごく遠いのでは?

「騎士関係の方みたいなんですけど、護衛に出てくれそうな冒険者も、騎士関係者も居なくて。南の方で騒動があったみたいでそちらの警戒のために騎士は動かせないって言われてしまったんですよね。で、そっちの依頼関係も、南の方が多くなってて。

西に行ってくれる人ってそういないんですよね」


僕も行きたくは無いんだけど。

「で、さらに条件付きまでしてきてまして」

少し、お姉さんの口調が荒くなっているような気がする。

「信じられますかっ!3人以上のパーティは禁止!途中で戦闘もありえるから、身が守れる人!大量の荷物があるから、荷車が引ける人!」

荷車が引ける?


「つまり、人が引いていけって言うんですよ!大量の荷物をっ!ロックバードに引かせればまだいいのに!そんな依頼、無理難題ですよねっ!それなのに、毎日、毎日、依頼を受けてくれる人は見つかったかって、聞いて来るんですよ!」

それは、それは、、、

「大体、荷車を引いたまま、戦えるわけないじゃないですかっ!オーガでも無理ですよっ!」

そこまで一気に言い切って、こちらをちらりと見る受付のお姉さん。


その視線で全部分かった。

うん。確かにいるね。

条件をクリアしてる冒険者が、ここに。


魔力が上がっているから、僕の空間収納には、村一つ分くらい容量がある。

つまり。

荷車の一台二台くらい、軽く入る。

戦闘も出来る。

ミュアと2人だから、3人以下のパーティでもある。

けど、ちょっと遠いな。

行って帰るだけで数か月。

もしかしたら、1年くらい見ないといけないかもしれない。


「シュン様なら、収納魔法も使えるし、オオカミとか、コボルトとか倒せるし、お願いしたいなぁーと」

上目づかいで見てもダメ。

けど可愛いと思ってしまう。

このお姉さんに恋人が出来ないのがすごく疑問だ。


隣でローブがひっぱられる。

ミュアが、僕のローブを引っ張っていた。

頬が少しだけふくらんでいる気がする。

嫉妬かな?

そんなミュアの頭を撫でてあげると、頬を膨らませたまま笑顔になるという、器用な事をするミュア。

「いや、ちょっと 遠いから、、、、」

「この依頼終了で、Cランクに上がれますよ。あと、報酬ですが、騎士団に回せますので、上限なしです」


うっ。

お金に困っているわけじゃないけど、上限なしは少し惹かれてしまう。

ランクを上げる事も必要ではある。

4Sの依頼の情報を聞けるのは、Aランクだけという事をこの前知ったばっかりだった。


「分った。やるよ」

いろいろと気は進まないけど、僕は返事をしていたのだった。

「マスター?」

ミュアが顔を上げてこちらを見ている。

「良い機会だし。ミュアと長旅をしてみるのもいいかなっと」

ぽんぽんとミュアの頭を叩くと、その顔がどんどん赤くなる。


「私は、マスターがいれば、何処でもいいです」

にっこりと笑うミュアを目いっぱい抱きしめてしまいたくなる。

抱き枕の罰は、僕にもかなり影響があったみたいで。

今は寝る時に、ミュアを抱かないとなんか寂しくなってしまっている。


「さて、準備しようか」

ミュアと一緒に屋台を回り始める。

空間収納の中は完全に時は止まっていないけど、時間の流れはゆっくりになるのは分かっている。

1か月前に買ったあつあつの串焼きが、冷めているくらいで全然食べられるくらい。

だからこそ。


買い込む。

保存食? そんなのあったっけ?



「これも買って行こうかな」

野菜や、香草も買っていると、ミュアが不思議な顔をする。

そんなミュアを見つめ返してみると。

突然、ミュアはすごく嬉しそうな顔をして、腕を振りだす。

「大丈夫です。マスター。お料理は任せてください」

満面の笑みで返して来たミュアの頭を強めに撫でていた。

「痛い、いていですマスター」






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