第27話充実
「シュン君!」
ライナが、学校の食堂でお昼を食べていた僕の隣に座る。
周りから、すこしだけ嫌味のような視線が飛んでくるのは仕方ないかもしれない。
ライナは可愛い。金髪で、ふわふわで。
それでいて、おっとりした顔つきが、守ってあげたいと思ってしまう。
「絶対師匠がいるよな」
レイアも事あるごとに聞いてくるようになっていた。
魔法の授業の間。
実技の時は、ほぼ必ず行っている魔法のコンボ。
風魔法を使い、足元を削り。動きを遅くした所で、岩魔法で相手の頭を打ち抜く。
繰り返し、繰り返し、イメージして練習する。
「ねぇ、ねぇ。魔法の先生って、どんな人だったの?」
「お前、、両親とか貴族じゃないのか?余裕があるというか、とても同級生とは思えないんだが」
二人が山盛りの野菜を食べながらほぼ毎日僕の事を聞いて来る。
「うん。師匠というか、先生はいたけど、ほんとうに厳しかったよ。いっぱい投げられたし」
「投げられた!?」
うん。カイルにね。
僕は、適当にはぐらかしながら、そんな会話を毎日楽しんでいた。
女神がどうとか、10億の暴走を止めるためとか、そんな事は言えないし。
転生してるとか、痛い人に見られそうだし。
けど、可愛い女の子と一緒にいるのは、それなりに楽しいわけで。
ライナはもちろん、レイアも可愛い。
ライアは、お嬢様な感じで、レイアは、活動的な可愛さで。
まったく真逆と言ってもいい二人は、本当に目立っていた。
「それはそうと、、、」
レイアが、真剣な顔をしてこちらを見て来る。
「ごめっ!お願いっ!勉強を教えてっ!」
レイアが両手を合わせて頭を下げている。
その手元に置いてあるのは、算術と書かれた教科書。
ああ。。算数。。。。
「なんで、7と8を足して5なんて物が出て来るんだよ」
「それはね、、」
僕は頭を抱えながら、なんとかレイアに教えて行く。
「私も、出来るのですが、教えてあげれるほど、理解できていなくて、、」
ライナも申し訳なさそうにしている。
「魔法使いは、頭がいいという偏見がある」
先生まで言い切った。
「読み、書き、算術ができないと、馬鹿にされ、パーティに入れてもらえない事がある」
そんな事があるんだ。というか、先生がすっごく悔しそうな顔をしているから経験ありなのかも知れない。
そんな事を思いながら、授業を受けた事を思い出す。
「ただ、お姉さまも、算術が出来ないと、ほんとうに騙されるって」
ライナの言葉に、さらに顔が怖くなるレイア。
「だから、ライナも教えてよぉ」
本当にこの二人は仲がいい。
二人で話をしていて、いろいろと二人の事情が分かって来た。
ライナは、騎士家とも言えるくらい立派な騎士を送り出している家の出身らしい。
父親は、この国の総騎士長というくらいだから、そのすごさが分かる。
お姉さまも、紅騎士団と呼ばれる、戦闘特化型の騎士団の隊員らしい。
そんな名門だからこそ。小さいころから家庭教師がついていたとの事で、読み、書き、算術は、かなり出来る。
凄いのは、兵法も学んでいる所かもしれない。
それとは逆に、レイアは、冒険者の両親を持っていて、その両親が死んでしまったため、ライナの家に引き取られたとの事だった。
ただ、魔法の才能と、武術の才能があったため、そっちを引き延ばしてもらうために先生をつけてもらったので、勉強の方はまったくダメだった。
「こんななら、ライナと一緒に、教わっておくんだった」
そう言うけど、もともと頭の回転は良い方なので、少しコツを掴むとすぐに計算も出来るようになってきている。
結局なんだかんだで、3人で過ごす事が増えてきていて。
「お。またお前たちか。ああ。シュン。例の件、その二人と一緒なら、全然大丈夫だぞ。ライナも4女だし。ありだろうしな」
そんな事を先生にまで言われてしまうくらいに。
この二人に手を出してもダイジョブだぞ。って先生が後押しするなよっ!
さらに嫉妬の視線が厳しくなってきているんだからさっ!
「ねぇ。今日は一緒に練習しましょう」
魔法の実技。
僕は隅っこで、同時魔法の練習をしていたのだけれど。
二人に声をかけられる。
「なあ。いいだろ?」
にっこりと可愛い子に笑いかけられたら断れない。
「はぁ~~~!」
なんか、意味不明な気合を入れながら、ライナは水の球を出す。
今は、魔法を何度も発動させて、自分の限界と、魔法の安定を図るように言われている。
はっきり言うと、火の魔法の方が攻撃力は高い。
けど、ライナはいつも水の魔法ばかりだ。
「昔、、、火の魔法で怪我をしてしまって。それ以来、火が怖くなってしまったんです。火の魔法がまったく使えなくなってしまって」
「俺は知らないんだけどな。聞いた話だと、本当に死にかけて、寝込んでいたらしい」
レイアは、そんなライナの背中を叩いて慰めていた。
うん。その気持ちは少しだけ分かる。
「僕も、火の魔法が使えないんだ。一緒だね」
僕が言うと、二人がびっくりしていた。
僕の場合、火の魔法を使おうとすると、胸が苦しくなる。
周りが熱くなってくると、息が出来なくなる。
そして、魔力が霧散して発動しなくなるんだ。
ついでにこの授業。
僕は、練習用の的を使う事を禁止されている。
また、魔法そのものを発動する事も禁止になっていた。
「威力の低い魔法ばかり練習しているんじゃない!」
なんて先生が煽ってくるから。
ちょっと、ド派手な風魔法をぶっ放しただけなのに。
ちなみに魔法の先生はデータベースさんだ。
個人専用の最強風魔法。
敵を細切れにして、形がなくなるまで切り刻む魔法だ。
今の僕も魔力も限界まで切り刻まれるけどね。
そんな魔法を見せた瞬間、先生は僕に一切何も言わなくなった。
きっと、先生より魔法が使えるからね。
とある酒場にて。
「おい!あのシュンリンデンバーグとか言う奴!何だよっ!」
「また、荒れてるのか?」
「ちょっと教えてやろうと、声かけてさ。ちまちま、
目の前の酒を一気飲みする。
「いきなり、見たこともない極大魔法をぷっ放しやがって!」
「ああ、、俺も見た。後で聞いたら、書物にしかない、失われた魔法だってな。風の監獄?だっけ」
「失われたじゃねぇよ。英雄しか使った事の無い魔法だとよ。おとぎ話の魔法だぞ!」
一緒に酒を飲みながら、荒れている同僚に心から同情する。
「ロアの担任のやつも言ってたが、あの手は、気にしたら負けだとよ」
「なんだよ、、それは、、」
「4方向から同時に魔法を撃たれる恐怖に比べたらまだ大丈夫だろ?あいつは、2か月魔法恐怖症になってたぞ」
「ありえねぇ」
飲み過ぎて寝てしまった同僚に心から同情しつつ。
男は、規格外の生徒を持たなくて良かったと心から感謝するのだった。
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