第102話 残念兵士

「よく眠れたか?昨日は本当に助かった。本当に感謝してもしきれないくらいだ」

この村?砦?の司令官というバルクルスが、手を差し出してくれる。

その手を僕は握り返していた。

疲れていたのか、昼すぎまでぐっすり寝てしまった。

起きた時、隣で寝ていたミュアが少し顔を赤くしていたから、何かされたのだろうけど、あえて聞かなかった。

それはそうと、昨日あれだけ大騒ぎをしていた兵士たちは、今は傷ついた人の手当や、壊れた家の補修など、忙しく行き来していた。


「ここは、隣の国との国境でもある巨大な森の入り口につくられているんだ」

金髪のサラサラな髪をなびかせながら、バルクルスは遠い目をする。

多分、年は僕とそう変わらない気がする。

「君の話は、手紙で時々聞いていたよ。シュンリンデンバーグ君」

少し意地悪な笑みを浮かべるバルクルス。

「バルクルス隊長!失礼します!」

「何だ?」

「負傷者の確認、部隊の再編制が終わりました!」

「了解した。次の移送隊が来たら、欠損のある負傷者は王都へ。補充要因の要請は、僕がじきじきに父上に行う」

報告してきた兵士は、敬礼をひとつ残してまた走って行く。


「あの兵士ね。タイって言うんだけどね。真面目が取柄なんだけど、武器の扱いも、魔法の扱いもそれほど上手くないんだ」

走って行った兵士を目を細めて見る。

「一応、僕も戦えるからね」

そういってにっこりと笑う。

金髪で、笑うとさわやかさが増すとか。

イケメンは凄い。


「バルクルス・シュリフ!」

突然、大声が響く。

その声を聞いた瞬間。バルクルスは困った顔をしていた。


「そういえば。厄介なのが帰って来ていたんだったね」

走ってくる筋肉ダルマを見ながら、大きなため息を吐くバルクルス。

ん? シュリフ?


「バル!帰ったぞ!」

思いっきりドヤ顔をしているリンダ。

「きちんと、歩いて帰ってきたのですか?」

バルクルスが、僕の方を見る。

ええ。ロックバードなら全然楽な距離なのに、一か月かけて歩きましたよ。

苦笑いをしている僕を見て、察したのかバルクルスはもう一度ため息をついていた。


「まあ、、、シュンリンデンバーグ君を連れて来てくれた事に免じて許してあげましょうか、、」

バルクルスの呟きが聞こえてしまった。

リンダ、、、何をしたんだよ。


「とりあえず、頼んでいた物資は何処にあるのですか?」

「おうっ!シュンに頼んだ!」

リンダのどや顔は止まらない。


僕はため息を吐きながら、リンダの荷物を取りだす。

「空間収納ですか。すごいですね。この量を入れられるとは」

びっくりしているバルクルス。

けど、ごめん。空間収納の中には、ワイバーンとジャイアントバッファローとか、とんでもなく大きい魔物も入ってたりするんだ。

「けど、リンダには、、まあ、依頼した冒険者に荷物の管理を頼むのは、ギリギリセーフですかね、、、」

その荷車2台分にもなりそうな荷物を見つめる。

「で、、荷物はこれだけですか?」

「そうだ!頑張っただろう!」

「水は?魔力ポーションは?」

バルクルスの言葉に、リンダの顔が固まるのが分かった。


出した荷物は全て剣とか鎧ばかり。

質もそれほど良くは無い。

「わ、、、割れる心配があったからな。買ってない、、」

「空間収納が使える冒険者を見つけたのに?」

「それは、まだそんな事が出来ると知らなかったから、、」

「塩は?」

「近くに、村があるのだから調達可能と思ってて、、買ってない」

「保存食は?」

「魔物の肉を干せば大丈夫だから、買ってない!」

バルクルスの表情が消えている。

いや、気づけ、リンダ。

「で、無駄に金を使ったと?」

「無駄、、で、、、は、、、、」

そこまで来て、リンダは初めてバルクルスがとんでもなく怒っている事に気が付いたらしい。

「も、、、もしかして、、、いらない物ばかり、、か?」

「ああ。全くもっていらない物だね。荷物どころか、溶かして鍋にした方がよっぽど有意義に使えそうだけど?」

目が泳ぐリンダ。

「剣や、鎧に関しては移送隊が積んで来てくれる。それはこんなボロボロの武具よりもう少しましだけど?今この砦に必要なのは、移送隊が持って来る水、塩、魔力ポーション、保存食とかの備蓄用が欲しかったから、お願いしたんだけど?」

ここの兵士を削って買いにいかせろと言うのかい?

そんな圧を感じる。

「す、、すまない、、バル。でも、な、、? 頑張ったんだぞ」

「頑張り方が間違っている」

ばっさりと斬られて、泣きそうな顔をしているリンダ。


「持って来れるような荷物じゃないから、帰ってこないと思ったのだけどね」

ぼそりと小さく呟いたバルクルスの声だけ、何故か僕の耳がしっかりと聞き取っていた。



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