第103話 最前線
「いらない荷物、、いらない、、、」
「それはそうと、シュンリンデンバーグ君に非常に申しわけないお願いをしてもいいだろうか?」
「わたしは、、いらないのか、、。。。」
「なぁ、あっちでリンダが膝を抱えて沈んでるけど、、いいの?」
「あれくらいで泣くようならここまで戻って来ないよ」
ぐすっと大きめな音が聞こえているんだけど。
膝をかかえて落ち込んでいるリンダを完全に無視して、バルクルス隊長は、僕を見る。
「本当に申し訳ないんだが、物資を売ってくれないだろうかっ!」
思いっきり頭を下げられてしまった。
「正直、次の移送隊が来るまで、ぎりぎりなんだ。いつもの事なんだけどね。もう少し余裕を持ちたいと思ってリンダに物資の調達をお願いしたんだが、、、何を勘違いしたのか、、」
さびしそうに、屑鉄の塊を見るバルクルス。
うん。流石に粗悪品の鎧じゃ、お腹は膨れないよね。
「食事は魔物の肉があるからなんとかなるんだが、どうにもならない物もあってね、野菜類、水、塩がどうしても心もとなくてね。出来れば、魔力ポーションもあれば分けて欲しい」
仕方ないか。
僕は、空間収納から樽に入った水やらいろいろと取りだす。
拠点にしている僕たちの家の水だから、秘境の湧き水ってやつになるんだと思うけど。
塩も、岩塩が大量に入ってるからそれも取りだす。
これも家の近くで取った奴だったりする。
野菜類は、、、あまり入って無かった。
結構途中で消費したからね。鍋料理で。
「いや、ありがとう。水と塩だけでも十分すぎる。本当にありがたい」
「自家製の魔力ポーションもあるけど」
ほう。と感心しながら、僕が渡したポーションを一口飲む。
途端。
バルクルスは吐いていた。
「こ、、、これは、、いらないかな、、、、うえ。さすがに、、飲めるモノをお願い、、したい、、」
「シュン様は良く飲んでおられますけど、、」
ミュアの呟きが聞こえたのか。
バルクルスの目が、なにかとんでもない物を見る目に変わっていた。
「まあ、これはともかくとして」
あ、いらないのか。
とりあえずと言って、ポーションを置くと。
「本当にありがとう。これでしばらく安心してこの中の作業に専念できる。あれも出来た事だしね」
村の外に張られた壁を見て、バルクルスはにっこりと笑う。
確かに、壁一枚あるのと無いのでは、安心感が違う。
「本当にありがたい限りだよ。いくらでもゆっくりして行って欲しい」
「そうだぞ!ここは実家と思ってもらっていいぞ!」
「ところで、、リンダ?」
「はいっ!隊長!」
「給料、3か月な」
「ひぃ!そ、、、そこは、、勘弁してもらえないだろうか、、」
「無駄に金を使い切ったんだ。それくらいは、覚悟して来たよね」
にっこりと笑うバルクルスの顔を見て、ミュアまでが体を硬くしていた。
この人、静かに怒るから、怖い。
「うう、、、、」
リンダ、、こればっかりは自分のやった事だと思うよ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「本当にすまない」
「大丈夫。気にしないでいいから。お世話になっているし」
傷を負った兵士に回復魔法をかける。
「シュン様!荷物は、ここで大丈夫ですか!?」
ミュアが、わらの束を持って来ている。
「ああ。その辺に置いてあげてくれ。夜は冷えるから」
「ほんと、気が利くと言うか、シュンリンデンバーグさんが隊長やった方がいいじゃないと違います?」
背の小さい兵士が、からかい気味に笑う。
「ついでに、ミュアさんのキスもおすそ分けしてくれると、自分100倍働きまっせ?」
「ダメです。私はシュン様の物ですから」
「ミュアはん。そんなきっぱり言わんでも。少しへこむわぁ」
きっぱり断れて、目に見えるように気落ちする兵士。
チェイと言った兵士は、他の兵士達からも信頼されているのか、彼の言う事は素直に皆が聞いていた。
「あれは、ムードメーカだが、絶対に必要な部隊長だからね」
バルクルスからそう言われるくらい、ずっと彼は動いている。
「あの、、シュン様、、、やってみてもいいですか?」
そんなチェイを見ていると、ミュアが目の前の兵士をちらちらと見ながら僕を見上げていた。
傷ついた兵士が、ミュアの前で座っている。
小さく了承の合図を返してあげると、ミュアは回復魔法を使い始める。
光りが集まり。すぐに弾け飛ぶ。
精霊魔法は、光属性が回復をつかさどるそうなんだけど、ミュアがこの光魔法が苦手だった。
絶対不幸のせいかもしれないのだれども、今も必死に制御しているのに、光が不安定に揺れて弾け飛ぶ。
「うーー」
小さく呟くように声を出すミュアをそっと撫でて上げる。
「ごめんなさい」
「大丈夫。ミュアちゃんの可愛い顔で十分癒されたよ」
うつむくミュアに、兵士が笑っている。
「第2陣!帰ってきたぞー!」
ふと壁の入り口が開き。
兵士が帰って来る。
半分近くが怪我を負っている。
ここは、最前線。
魔物が一番沸くと言われる森に隣接している砦。
ほぼ、毎日のように兵士は怪我をして帰って来る。
その怪我の治癒をしたりしていたら、いつのまにか1ッ月くらい経っていた。
「シュン君がいてくれて、本当に助かる。回復魔法が使える治癒兵はいるが、シュン君ほど強い回復魔法は使えないからね」
バルクルスはそんな事を言いながら、金貨で報酬を渡してくるから、困ってしまう。
もう、お金はそれほど困っていないし、ここにいると傷ついて帰ってくる兵士に何もしないわけにはいかない。
「ここの兵士は、昔から無茶をするから、困ったものだよ」
こまった顔で呟くバルクルス。
しかし兵士に言わせれば、隊長が一番無茶をする。
という事らしい。
だからこそ、隊長は絶対に外に出すなと言う空気が兵士の中にあった。
「無茶をするのは、シュン様も一緒ですね」
ミュアが笑っていたのは、気のせいだと思う。
無茶は、、、そんなにしていないと思うから。
「シュンリンデンバーグ様!頼むっ!」
いろいろとこの数日にあった事を思い出していると、突然声をかけられる。
兵士の一人の腕が無くなっていた。
肩を貸している兵士がその腕を持っている。
急いで僕はその兵士の近くに行くと、魔法をかける。
千切れた腕が、魔法でくっついていく。
この世界でも、前の世界と一緒だ。
欠損した部位は生えて来ない。
けど、ちぎれた部分があれば、魔法でくっつける事は出来る。
手術で、指を、腕をくっつける事が出来るように。
「ありがとう」
真っ青な顔でお礼を言う兵士をゆっくりと藁の上に寝かせる。
「体力はすぐには戻らないから、しっかり休んでくれ」
「ああ。分かってる」
笑ったのか。少しだけ顔をゆるめてそのまま眠ってしまう兵士。
「司教でも、欠損部分をくっつけるとか、出来ないよなぁ」
「俺が知ってるのは大司教くらいだぞ」
そんなに、敬われても困る。
馬鹿みたに高い魔力のゴリ推しみたいな事をしてるだけだし。
「シュン様は、すごいお方ですからっ!」
ミュアが、僕の腕を掴むと。
頬にキスされた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます