優しくない世界に転生した。精一杯生きてやる。~創世記の英雄は転生者~【完全書き換え版】

こげら

プロローグ

第1話転生?転移だろっ!

「今日も時間が足りなかった、、なぁ」

普段と変わらないある日。

いつも通りに、上司に怒鳴られ。大量のファイルと、パソコンデータと格闘を行って。

俺はふらふらと歩いていた。ふと見た空は少し明るくなっているような気もする。

「終電、、あるかな、、」

疲れ切った体が、足を動かす事すら拒否している。

「それにしても、あのクソ上司が」

定時を超えた頃に言われた言葉を思い出して、思わず悪態をつく。

「何が、お前の部署の事だろう!だよ。お前の部署でもあるだろうがよ。先輩が助けてやるのが当たり前?お前も先輩だろうが」

一度吐き出したら止まらない。

やってもやっても終わらない仕事と、後からあとから見つかる後輩のミスの処理。

これもやっといてくれと、追加される新しい仕事。

仕事を持って来る上司に殺意さえ覚えながら、仕事をなんとかこなして、全部終ってもいないが、我慢できずにこそっと仕事場から抜け出すように退社していた。


最近、こんな日ばっかりだ。

残業時間の残りを把握しとけとか、何時間働いているか、確認しとけとか言われても、そんなもの確認する時間も無いし、考える暇すら生まれる気がしない。

いつか、残業時間の超過で怒られると思うけど、その時はバカ上司と一緒だ。ざまあみろ。

そんな悪い事を考えながら、必死に反抗する両足を動かして、駅まで体を運んで行く。


とにかく、今は布団が恋しい。 いや、もう布団しかない。


終電は出てしまっただろうか?明日は、いや、今日は出勤だっけ?

頭がぼやぁとして、考えがまとまらない。

習性のように、とにかく駅へと歩いて行く。


歩道橋をあがった所までは覚えていた。

ふと目の前がぼやける。

まるで、森の中にいるようだ。

ビルが、木に見える。うっそうとした木々が、立ち並び。

目の前全てが緑色に見える。


「疲れているんだろうなぁ。癒されたいんだろうなぁ」

森の中にいるような感覚にとらわれながら、俺はうっすらと笑う。

幻覚が見えるくらい、疲れているようだ。

明日は、いや、今日か。休みを取って、公園でぼーっとするのもいいかもしれない。


そんな事を思っていた時。

突然、激しいクラクションが鳴り響く。

目の前には、目も開けれないくらい眩しいライトの光りと。

これ以上ないほど目を見開いた、トラックドライバーの驚愕の顔。


「おち、、た?」

記憶が無い。

けど、そういえば、この前車高を無視したトラックが突っ込んで、歩道橋の一部が崩落していたような気が。

あれ?ロープ。張ってあったか?


そんなどうでも良い事を思いながら、突っ込んでくるトラックを他人事のように見ていた。


死ぬ前には、走馬灯が見えるというけど。

何も思い出せない。

何も浮かんでこない。

ああ、寂しい人生だったなぁと、30数年を思ってしまう。

やり残したことも思い浮かばないなぁと、自分の人生にうんざりしながら、まぶしい二つの光りに完全に飲み込まれた。





激しい光に包まれ。

突突に、光が消えた。

全身に来ると思った痛みすらない。


俺はゆっくりと目を開ける。

「まぶしく、、、ない?」

目の前にあった、トラックの光りすらない。

いや、むしろ、アスファルトが、コンクリートが無い。

俺はゆっくりと周りを見回す。

確かに自分は、街にいたはずだった。

なのに。

今見える景色は、周り全て緑。

大木と呼んでいい木々。

自分の背丈まで伸びている雑草。

足元は、どうみても土だ。

「森、、、の中?」

まだ、幻覚でも見ているのかと思うと、目の前で揺れている雑草に触れてみる。

青臭い、都会にいると馴染みの無い臭いが鼻をつく。

「森の中、、だよな」

ゆっくりと立ち上がりながら、空を見る。

さっきまで夜中だったはずなのに。

木々の間から、優しい光が差し込んで来る。

その辺のデパートで買った安物のスーツについていた泥を叩き落としながら、俺はやっと立ち上がる。


「何があったんだ?」

改めて周りを見る。

明らかに森の中だった。

周りに生えているのは、ご神木といわれてもいいくらいの立派な木々。

しかも、それが無数と言ってもいいほど、視界の先まで続いている。

空を見上げれば、どこまでも天高く枝をのばしている。

うっすらと葉を通して見える光が、とても眩しい。


「俺、、ひかれたような、、、」

改めて自分の身体を見るけど、痛みも無い。

手もある。足もある。

安物のスーツが汚れているだけで、破れた箇所も無い。


「夢の中?」

そう思ってしまうが、今感じた草の感覚と、臭いは間違いなく本物だった。

うっそうとした森の中。

今、自分が何処にいるのか、何でここにいるのかもまったく分からない。

「仕事っ!」

しばらく、周りを見回していたけど、少しずつ冷静になってきて、焦りが出て来た。

ここは、何処だ?


「とりあえず、、歩くか」

俺はそう思い、歩き出す。

山の遭難時は、【基本歩かない。動かない】なのだが。

そんな事を思い出す余裕も、考えにも及ばなかった。

とりあえず、人に会いたかった。


草や、低い木(とは言っても、腰以上はある)をかき分けながら歩いていると、突然ガサッと音が聞こえる。


「誰かいるのか?」

俺はその音を聞いて、その方向へと歩き出す。

自分の背丈ほどの雑草をかき分けた時。

目の前に、赤い壁が広がっていた。

いや。良く見ると、赤い壁は、ゆっくりと上下している。

触ってみると、少し暖かい。

俺はゆっくりと視線を上へと向ける。


視線の先にあったのは、トラの顔。

ただ、俺の知っている、いや、動物園などで見たトラと違うのは。

目が4つある事。そして、、、その大きさ。

鼻だけで、俺の顔以上はある。


首が痛くなるほど上を見上げないと見えないその顔が、ゆっくりとこっちを見つめる。

寝ていたのか。

すこし寝ぼけているようにも見える。


何でこんな大きな物が見えなかったのか。

いや、違う。

大きすぎて、それが生き物だと思わなかったんだ。

4つ目の虎が、ゆっくりと口を開く。

息を吐き出す。

自分よりもはるかに上からの視線。

狩られる者の宿命。

足がすくむ。

動けない。


「トラ、、?」

分かり切った事を呟く。目が4つもあるトラなんて見た事もないが。


全身から、冷や汗が噴き出て来る。

「グルル」

4つ目のトラがうめき声を上げる。

ゆっくりとその巨体を動かし始める。

こちらを見つめるように体の向きを変え始める。


そこで、俺の金縛りは解けた。

「ガァァァァ」

トラが叫ぶ。


喰われる!!!!!


恐怖と、絶望と。

俺は、気が付いたら走っていた。


足がもつれる。そんな事も気にせず走る。

とにかく逃げる。


木に、草に突っ込む。

木が、草が邪魔だけど。

後ろでその木や、草を薙ぎ払っている音が聞こえる限り、邪魔な草たちが今は俺を助けてくれている。


とにかく走る。


怖い。怖い怖いこわい こわい

狩られる物。食べられるだけしか出来ない者の恐怖から、顔すらあげられなくなる。


「いたっつ!」

前を向かずに走っていたからか。

大きな木に頭からぶつかる。

足が止まる。


「ぐるるるる」

真後ろから、聞きたくない声が聞こえる。

獣の臭いがする。

息を吹きかけられているような気すらする。


恐怖から、絶望から。

俺は振り返りながら叫ぶ。

目の前にあるのは、自分の腕くらいあるんじゃないかと思うくらい巨大な牙。


怖い、怖い。

恐怖が、喉から悲鳴をあげる。


そして、俺は、意識を失った。





20代はまだ子供だったと思う。

20代終わりで初めて自分から勉強する大切さを学んだ気がする。

30になったけど、自分はまだ子供だと思う。

大人になりきれない大人。

自分でもその自覚はあった。




走馬灯?

いろいろ思い出していた俺は、ゆっくりと目を開ける。

死んだ?


そう思ったのは一瞬だけだった。

目の前に、自分なんて一瞬ですりつぶされてしまうんじゃないかと思うくらい大きな爪が浮かんでいた。


「ひっ!」

叫ぶ俺の前で、巨大な爪が何かをひっかくように、目の前を通り過ぎて行く。

いや、いつの間にあったのか、光の壁が、トラの爪を受け止めていた。

壊れない壁に腹を立てているのか。

時々、激しくぶつけたり、壁をがりがりと引っかき続けるトラ。


幸い、壊れる事もなく、光の壁が削れる事も無い様子だった。

周りは、木の幹に囲まれている。


気絶した時、木のウロに倒れ込んでいたらしい。

大きな木のウロは、俺を丸ごと包み込んでも、少し余裕がある。

そして、その入り口ともいえる、穴を完全に光の壁が埋めていた。


がりがりと引っかく事を止めないトラ。

光りの壁はしっかりとその刃物より凶悪な爪を防いでくれている。


顔が熱い。

手で触れると、手に血が付いた。

倒れた時に、どこかで擦りむいたらしい。

鼻にふれると、ぬるっとした感覚もあった。

スーツの裾で、鼻血を拭きながら、これが夢でない事を思い知る。


顔が、鼻から。痛みが追いかけて来る。

そして、目の前の爪は、あきらめてくれる気配すらない。


「こんな小さな獲物、、諦めてくれてもいいんだぞ」

思わずそう呟いてしまうけど。

目の前の爪の動きが止まることは無い。

両手になったのか。

爪の動きがさらに早く、複雑になっていく。


今、この壁が壊れたら?

恐怖が、再び俺に襲い掛かる。


そりゃ、引き裂かれて、終りだろ。

引っ張りだされて、頭から喰われるだけだろ。

自分の中の誰かが呟く。


いや、あの爪に触れたら、体が残るかすら疑問になる。

「な、あ、、こんな小さいの、食べても、腹はふくれないぞ、、、」

泣きそうになりながら、呟く。


なのに、あきらめる事もなく、壁をひっかき続ける。


爪、一本一本が良く見える。

通り過ぎる絶望が、白い悪魔が。

一本一本が、絶望を運んで来る。


どれくらい経ったのだろう。

いつまで持つのだろう。


余りにも長く続く爪の動きから目が離せない。

俺を殺そうとするその動きから目が離せない。


駄目だ、、、、気が、、、、


狂いそうだ。


「は、は、は、、ははは、、、ははっははっはははっははhhh!」

誰だ、?

誰が笑ってる?

相手を刺激してどうする?


死の恐怖が。そのストレスが。

自分の中で何かが弾けたような気がした。


駄目だ。

そう思った瞬間。

爪が。トラが、目の前から消える。


一瞬、黒い影が見えた気がしたが。

そう思った時、森の奥へと走って行く黒い山が見えた気がした。


「オオ、カミ?」

もう大きすぎて、何がなんだか分からない。


ただ、目の前で暴れていた恐怖はいなくなった。

生き残れた。

その安心感から、思わずその場に座り込む。


目の前に。

赤い肉の塊が見える。

トラの足だろうか?

自分の胴体くらいはありそうな大きな塊だった。


「はら、、、へった、、、」

俺は、それだけ呟くと、自分の身体くらいありそうな巨大な肉の塊を引きずって、森の奥へと歩いていったのだった。


40年。

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