第2話転移の行方
俺はゆっくりと目を開ける。
横には昨日灯りも兼ねて燃やしていた焚火がまだくすぶっている。
天井は薄暗く、少し湿っぽい。
ゆっくりと体を起こす。
周りを見回す。
ああ。いつもの洞窟だ。
俺が拠点にしている一つだ。
入り口に張られた光の壁を見て、少し笑みが浮かぶ。
創作物で良くある、転移したり、転生したら使えるようになるといった特殊能力。
俺が使えたのは、この光の壁だった。
大きさも自由自在。
発動時間と言うか、張っていられる時間も自在だ。
地面に設置すれば、動く事も無い。
しかも、3日くらいなら、全然張ったままでいられる。
この壁のおかげでどれだけ助かった事か。
悪魔のような魔物に追われて、地面のくぼみに隠れて一週間じっとしていた地獄の日々を思い出して、震えてしまう。
その辺にあった木で作った棚を見ると、その棚に置いてある木で作った入れ物を一つ手に取り、そのまま一気飲みする。
苦い。
とことん苦い。
しかし、体に力がみなぎるのを感じる。
精力がつく薬草と、虫の魔物の中身をすりつぶした栄養剤だ。
体中が重く感じていたのに、元気になって来た。
薬もいろいろ作った。
解毒剤。回復役。栄養剤。なんでもありだ。
伊達に年を重ねてきたわけじゃない。
軽くなったからだを軽くほぐしながら、目の前の槍を手に取る。
真っ白いその槍は、魔物の骨から削り出した物だ。
それが大小の2本。
それを持って、洞窟の外へと出る。
外へと出た俺の目の前にいたのは、赤い壁。
いや。
赤い4つ目のトラ。
「ぐぁぁぁぁ!」
叫ぶトラ。
ゆっくりと俺は槍を構える。
突進してくるトラが、目の前で何かにぶつかり弾き飛ばされる。
態勢を整えて、片足の爪を即座に繰り出してくるあたりは、流石というところか。
しかし、2枚目の光りの壁に阻まれ、その爪は空中で動けなくなる。
「がぁぁぁっ!」
俺の叫びとともに、トラの喉を槍で突く。
突いた槍を蹴り上げて、さらに奥へと突き入れる。
トラが、何かを叫んだと思うと、当りに嵐のような風が吹き荒れる。
周りの木々や、草が全て切り裂かれていく。
最初に出会った時。
この技を、いや、この魔法を使われていたら、俺は死んでいただろう。
だが、今は。
光りの壁がその全てを受け止め。
俺にはそよ風すら感じない。
絶対結界。
自分でそう呼んでいる力。
かなり深くまで突き入れた槍を持ち直し。
体ごと槍を捻るように倒す。
もちろん、その先に突き刺さっている巨大なトラもついて来て。
激しい音とともに、トラが倒れる。
咄嗟にもう一本の槍を、その目から頭へとむけて突き入れる。
激しく抵抗しようとするが。
巨体が一度倒れると、その俊敏さは失われる。
そして、今の俺は、トラごときに、力比べで負ける気はしない。
結果。
トラはその場で動かなくなった。
俺は一つ頷くと、その場で解体を始める。
何年経ったのだろうか。
いや、何年人と会っていないのだろうか。
生きている人に会ったことは無い。
話が出来る存在にあった事も無かった。
この森にいる獣は全て馬鹿みたいに大きい。
そして、風を炎を、水を操る技を持っていた。
絶対結界がなければ、何度死んだ事か。
そんなとりとめの無い事を考えていると、腹が減る。
火を入れるのも面倒になり。
生肉にかじりついた時。
光りが走ったような気がした。
ふと顔を上げると。
空が赤い。
空が。雲が。星が。
血を流す。
世界の端から、赤い光が、空が流した血が走って来る。
いや。
地面が、無くなって行く。
地面が光っているような気がする。
一気に視界全てが赤く染まる。
そして。
星は、激しい光とともに、弾け飛んだ。
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