第3話女神の事情だよね?
「驚きました」
赤い光に完全に飲まれたと思っていたのだが。
俺が目を覚ました時。
そこは何も見えないほどの白い世界だった。
真っ白を超えた白といえばいいのだろうか。
右を見ても、左を見ても。上も下も白で埋め尽くされているその場所では、自分が立っているのか、寝ているのかすら分からなくなる。
身動きすら出来ない俺に、優しい声が聞こえる。
「生きていた方がおられたとは」
その声とともに、今度は毛布に包まれているような。
安心感そのものに包まれる。
空に飛ばされた時の浮遊感でも無く。
しっかり包まれているような。自分の両足でしっかり立っているような。
ふと自分の手を見ると、うっすらと光に包まれているようにも見える。
ふわふわした、気持ちよさ。安心する。
俺が声がした方を見ようとする。
「大丈夫ですよ。怖がらないでください」
「?」
改めて聞こえてきた声に思わず返事をしようとして。
声が出なかった。
そりゃそうだ。
何年前からだろうか?独り言すら言わなくなったのは。
「20年前からですよ」
声が律儀に、俺の考えている事に返答してくれる。
いらっとするが、その気持ちはすぐに消えて無くなってしまう。
包まれている幸せな気持ちが、イライラした気持ちをすぐに吹き消してしまう。
「大丈夫ですよ。声に出さなくても。ここでは、思った事が、感じた事が声になるのですから」
改めて、聞こえて来る声。
鈴を転がしたような。穏やかで、透き通った声。
頭に。いや、心に直接響いてくる、澄んだ声。
何処にいるのだろうか。
声は聞こえるのに。その姿は一切見えない。
女性の声に聞こえるのだけれど。
「私は、ここにいますよ。ここは、狭間の空。創造と破壊。世界と世界の間に横たわる空間です」
穏やかなな声が、とんでもない事を言っているのにそれが真実であると思ってしまう。
ふと意識を向けた時。空間の間に。いや空間そのものに女性のようなシルエットを持った、何かがいた。
世界よりも広く。世界よりも大きく。
それでも、どんな生物よりも優しく。
大きいなんて言葉では言い表せない程の広さ。
どこまでも広がると言っても足りない高さ。
そんな女性が、緩やかに微笑んでいるのがなぜか見えた。
「本当に、驚いていたのです。あの世界で。あの状況で、生き残っていた人がいたなんて」
いや、気が付いたらあの森にいたし。
ただひたすらに生き残ろうと、あがいただけなのに。
「それでもです」
ふわりと、自分という存在自体を撫でられる。
それは嫌悪感も無く。ただただ幸せな気持ちにさせてくれる撫で方だった。
必死に生き残った事が。
何度も死にそうになった事が、恐怖で泣いた事が、報われた気がした。
女神。
やっとその言葉が出て来る。
けど、その言葉すら彼女には足りない気がする。
「あの世界で、あの星で。あれだけ長い間生き残っていた。それだけで、凄い事です」
ゆっくりと。
俺を。僕を撫でる。
「そうですね。。あなたなら、、」
彼女はゆっくりと僕を見つめてくれる。
「聞いていただけるかもしれません。私の困りごとを」
困惑した声に、僕は彼女の言葉を待つ。
「ありがとうございます。実は、あなたが巻き込まれたあの光。あれは、あの星の崩壊の光りなのです。そして。あの星の崩壊は、あの宇宙の崩壊を意味していました」
一息入れると。
「そして、あの宇宙は、他の世界と近づきすぎていました。あの世界の崩壊は、他の世界の崩壊も誘発してしまったのです」
他の世界?
「あなたが、元いた世界も、地球と呼んでいましたか?あの世界、あの宇宙も崩壊しました」
その言葉に、絶望してしまう。
帰れない?
「何度も何度も、時を巻き戻して。分岐を探して、崩壊を止めようとはしているのですが」
激しく困惑しているのが分かる。
無理だったのだろうか。
「すでに、1(ナユタ)くらいは試したのですが、全て失敗しました」
突然出て来た桁に思考が止まってしまう。
無量対数の上じゃなかった?
「そこで、あなたに、お願いがあるのです。あの世界に再び行っていただけないでしょうか?理不尽な、無茶なお願いなのは分かっているのですが」
あの世界に僕が行ったくらいで、崩壊が止まるの?
「あなたには、あの世界に行き。崩壊のきっかけとなる、【大進撃】を止めて欲しいのです」
大進撃?
「生ける全てを食い荒らす魔物の暴走です。知的な者を全て食い荒らし、地上を埋め尽くし。自らが死ぬまで走り続け。
そして、自らの死とともに、世界を崩壊させていくのです。世界の崩壊は、いつも、大進撃から始まりました。それは、姿を変えて。場所を変えて。時間すら変えて、いつか、必ず起きるのです」
一体どれくらいの数の魔物なんだろうか。
数千万?数百万?
「およそ10億です」
ムリッ!無理無理無理!
そんな数、現実世界でも、テレビやらでしか見た事は無い。
空想というか、自分とは別の世界で話される桁だ。
一人で倒そうとか、食い止めれるとか、まったく思えない。
「分っています。無茶を言っているのは。しかし、最後まで、あの崩壊する世界で生き残っていられたあなたなら。生き延びて、今を変えるきっかけになってくれる気がするのです。私も微力ながら、力をお貸しします。さらに、あなたを通してなら、今よりももっと強い力を送れる気がするのです。世界を変えるきっかけになれるだけの力を」
必死だという事は分かる。
けど、、女神のお困りごとだよね。
「はい。世界の、私の困りごとです。どうか、私を助けてはいただけないでしょうか」
絶対無理。
だって、10億だよ。
「分っています。しかし、あなたの存在があの世界にある事で、大きく何かが変わる事は分かるのです。私も、出来る事を増やす事が出来ます。どうか、どうか、本当にお願いします」
世界というか、この空間全体にひろがる、本当に申し訳ない、けど、心から助けて欲しいという感情が広がる。
お願いしますと、1万回頭を下げられるよりも、深い深い感情が溢れでる。
「はぁ、、、、」
気が付いたら、僕は小さくため息を吐いていた。
ここまで真剣に。ここまで深く。ここまで自分を必要とされた事は今まで無かった。
少しくらいなら、助けてあげても良いと思えるくらいには。
「本当にありがとうございます」
その気持ちが了承となってしまったらしい。
「え?」
僕の存在そのものが薄れていく。
「私がおくれる全ての祝福をあなたへ」
ちょっと。
ねぇ。
「全ての記憶は、13歳になったら思い出せるようにしましょう。全てを背負える幸せがあなたへありますように。絶望の状況で、40年も頑張ったあなたなら。私の思いを。あの世界の全てを背負えると信じています。救いの無い、あの世界を。どうか、、お願いします」
僕の意識も、空間の中へと溶けていく。
不吉な一言が気になりながら。
けど、、数十年か、数年かと思っていたのに。
40年も経っていたのか。
あれ?僕、、、、70歳のおじいちゃんだったの?
トラ、引きずり倒したよ?
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