第66話それぞれの事後

「よお」

僕が目を覚ました時。扉を開けてヒウマが立っていた。

「いろいろあってな。お前が学校に来れそうもないから、俺が持って行けって言われてな」

ヒウマはそれだけを言うと、寝起きの僕の手に何かを握らせる。

ずしっと重い。


「報酬だとよ。金貨10枚らしい」

確か、、大金貨はなくって、その上は、金貨100枚分の価値を持つ、白金貨だっけ?


「それと、コレ」

カード?


「ギルドから、というか、学校からだ。飛び級で卒業だと。コボルトアルケミストと、コボルトシャーマンを倒せる奴が、学生をする必要は無いってさ」


あれは、僕が倒したわけじゃなくて、、、

「まあ、あれだ。俺も、お前も。学校から追放されちまったな」

飛び級とか、あり得るんだなぁ。


笑っているヒウマをぼーっと見ながら、僕は手元の大金と、カードを見続ける。


「それな、大攻勢の中、死者がほとんど出ずに、対処出来た事も追加査定に入ってるんだと。お前と、ロアがバカバカ魔物を狩りまくってたからよ。それが良かったみたいだぜ」

何も考えが、、まとまらない。。。


「まあ、金の心配は無くなったわけだ。だから、、、」

ヒウマは僕の顔をもう一度覗き込む。


「ゆっくり休めや。無理だけはすんなよ」


気を遣われている。

それだけは分かった。


僕は、ゆっくりともう一度手元のお金を見る。

そして、誰もいなくなった部屋と、開けっ放しの扉を見る。


閉めて行けよ。


扉を閉めるため。ゆっくりと、ベッドから降りて。

脚がもつれて、倒れる。


倒れたまま。僕は再び泣いていた。

ライナ。レイア。

実家なんて。

場所すら知らない。

聞いても誰も教えてくれない。


どっち方面とかなら、分かるかもしれないけど。

けど、会ってどうする?


謝る?何を?

もう、どうでもいい。。。。


気力も無くなった僕は、再びベッドへと戻る。

扉も閉めないままで。





【ライナ視点】



「いやぁぁぁぁっぁぁぁぁ!」


自分の叫び声で私は目を覚ました。

体を抱えて震えていると、誰かが勢いよく入ってくる気配を感じる。

「大丈夫。大丈夫だから」

ここに来るまでに何度も聞いた言葉。


優しさと思いやりに包まれた言葉。

震えが治まって、周りをみると。

そこには、幼いころに気に行って買ってもらったレースの張り。

メイドさんが作ってくれた手作りの人形。


そして。私を抱きしめてくれているのは、ロア先輩。


ああ。そうか。私。帰って来たんだ。


「大丈夫かい?」

そっと体を離して、私を気遣ってくれる。

私はちいさくうなづいて、体を離す。


何であんな所に行ったんだろう。

私は、きっと冒険者のマネごとができるようになって浮かれていたんだと思う。

舞氷の聖女なんて言われて。

期待の新人なんて言われて。


震えは治まったけど、それでも心配そうに見つめてくれる目。

その澄んだ青い目を見ていると、何故か落ち着く。


そっと自分の目に触れる。

そこにあるのは、ぬくもりの無い布の感触。


私の罰。

驕って、無茶をしてしまった罰。

「大丈夫です。ありがとう、、ございます」

私は、それだけ言うと、そっと握ってもらっていた手を離す。


まだ世界が見えずらい。

けど、仕方ない。


ごめんなさい。ごめんね。

シュンくん。私、傷物になっちゃった。

シュンくんの傍にいるには、、醜いよね、、


そっと。

また抱きしめられる。


いつの間にかあふれていた涙が、彼の頬まで濡らしながら。



【ロア視点】


「まったく」

部屋を出た僕は、小さくため息を吐く。


地下での出来事は二人にとってとんでもなく深い傷を負わせていた。

心も体も。


「ロア?ご飯出来たよ?」

館にいるため、食事の支度は全部メイドがやってくれるのに、レイアは僕のために食事を作ってくれる。


びっくりしたのは、そのどれもが、この館で出される食事よりもおいしいという事だった。

あれだけ男勝りだった彼女が、実はもっとも家庭的だったことに軽い衝撃を受けたのは、最近の大きな事件だったくらいだ。


「静かに泣くんだな」

「ん?ライナの事?あの子、いつも泣く時は、声を上げないの。心配させたらいけないからだって」

本当に小さな呟きだったのに。

返事が返ってきてびっくりする。

「あの子はね、自分の炎で、自分も、周りも傷つけたときから、自分を押さえすぎるのよ」

レイアは苦笑いを浮かべる。

「そんなあの子を守りたくて、気を張って。男まさりのフリをしてた私も似た物同士だけどね」

完全に色が抜けた、白髪が小さく揺れる。


「本当に、、、不器用よね。私たち」

それだけ言うと、突然自分の身体を抱えるレイア。


発作が出た。

そう思った僕は彼女を抱きしめる。

そっと、彼女に口づけをする。

しばらく、口をつけたまま抱きしめていると、彼女の震えが治まって来た。


「ごめんなさいね。まだ、時々ダメなの。汚れたこの体が、耐えられなくなってしまう」

胸の中で小さくなるレイア。


コボルトに襲われた彼女は、時々発作のように自分を傷つけてしまう。

過呼吸になる事もある。


「だから、そばにいてね、、ロア、、、」

そっと身を寄せる彼女を抱きしめながら、僕は彼女たちに気づかれないように、心の中でため息を吐く。


仕方ないとはいえ。。

完全に、僕がNTRハーレムフラグを回収してしまった事に。

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