第65話赤色の後で。

【シュン視点】

僕は、、目を開けたとき、そこは見覚えのある天井。

いつも僕が朝を迎えていた、もうある意味家といってもいい宿屋の天井。


頭が痛い。

ゆっくりと頭を押さえながら起き上がる。

起き上がる時に、自分のメイスが丁寧に置いてあるのが見えた。


起き上がり、窓と言っていいのか。

木が組み込まれただけの扉のような窓を開けようとしたとき。


強烈な頭痛と。

吐き気が襲って来た。


同時に目の前に広がるのは、強烈な赤。

ライナの悲鳴の赤。

レイアの叫び声の赤。


ライナの目が、、、、、

レイアが、泣き叫んで、、、、、


「ぐええっ!ぐはっ、がはっ!」

何も出ない。

何日寝てたのだろう。

でも吐き気は止まらない。

何も入っていない胃が、痙攣しながら、文句を言う。

何か入れろと文句を垂れる。


しった事か。

酸っぱい唾がこみあげて来て、また吐き気が追いかけて来る。

しかし、何も出ない。

開けた窓の淵に手をかけて。

僕は座り込む。


ガン。


思い出してしまった。

ライナは、、、目玉をえぐられた、、、、、


ガン、ガン、、、ガン、、、、、、


レイアは、、、、犬頭に襲われて、、、、


ガン、ガン、ガン

何で、、、何で助けられなかった、、、、、


ガ、ガ、ガ、ガガガ、


この世界が、、、優しいわけないじゃないか。


ゴリッ、ガギッ


俺から、何もかも、大切な人を奪っていくんだ。

カインも、キシュアも。シスターも、兄弟も。


全部、、、ゼンブ、、、、


魔物が憎い。

けど、何よりも。

何も出来ない自分が。誰一人助けられない自分が憎い。


「おーい。起きたのかー?入るぞー」


間の伸びた、聞いた事がある声が聞こえる。

ガチャリと、扉が開く。

「っ!!何をしているんだっ!」


入って来たヒウマが青い顔をして、僕は後ろからがっちりとつかまれて、窓から引きはがされる。


赤い液体が、床に飛び散る。

なんだ、、ここも赤いや、、、



「にゃん!頼むっ!自暴自棄になるのは構わんが、自分は大切にしろよっ!シュン!」


「自分で、頭を割ってたように見えたにゃ、、、本当は、ヒウマ以外にするのはとってもとってもいやにゃんだけど、、」

二人の声がやけに遠くに聞こえる。


「シュンは、ヒウマの命の恩人だから、、耐えるにゃ」

ひんやりとした。それでいて少しザラザラした感触が、額に。

目元に。顔に感じる。


少し冷たいのに、心地よく。温かいように感じてしまう、その感触は、心まで入ってくるようだった。


しばらくにゃんは、僕の顔を舐めていたけど。


しばらくすると、僕から離れる。

ゆっくりと開くようになった目でにゃんを見ると。


ペッペッと汚い物を吐くように、何かを出そうをしている。


「ヒウマ以外はやっぱりしたくないにゃ、、、」

そんな呟きも聞こえて来て。

自然と微笑みが浮かんでいた。


「まったく。そこまで、自分を責める事もないだろうが。あの二人は、、、まあ災難というしかなかったが、命があっただけもうけもんだろ」

僕は、じっとヒウマを見る。

きっと生気のかけらもない目だったと思う。


「あー。なんていうかな、森での一件だけどよ。コボルトシャーマンに、コボルトアルケミストがいたなんて、誰も知らなかったわけだし」

にゃんがじっと僕を見る。

「あれに出会って、命があるだけでも、充分軌跡にゃ。普通なら、バラバラにされて、コレクションにされるにゃ。あれが着てた服みたいに、、」

ぞわっとしっぽと耳の毛を逆立てるにゃん。


そうか。あれは、人の皮だったんだ。


「あーだからさ。なんて言っていいか、よくは分からないけどよ、、、とりあえず、、お疲れさんって事だ。誰も死ななかった事に」

「まあ、生き残れてよかったにゃ」

二人は笑っているけれど。

「そういえば、、、二人は?」

僕の声に、少し慌てた顔をする二人。

「何かあった?」

「い、、いや、何かあったといえば、あったような気がするにゃ、、、」

歯切れが悪いにゃんさん。


「教えて!」

僕が大声を出した時。

ガチャリと、扉が再び開いて。

金髪の髪をした、青年が入って来た。

「げ、、」

ヒウマ先輩が、すごく複雑な顔をする。


「お前が、シュンリンデンバーク君か。私はアラス・シュリフと言う」

シュリフ?

何処かで聞いた名前のような。。。

そんな事を思っていると、突然僕の首元に、剣が付きつけられていた。

「いろいろと、思う所はある。しかし、まあ、ここで君を断罪しても仕方ない事も分かっている。君が、騎士であれば、ここで首を落としておくところではあるがな」

冷酷に、目に何の感情すら見せずにこちらを見つめるアラスさん。


「ライナは、心身ともに深い傷を負った。よって、父上の命令で実家にてしばらく療養する事となった。これは、決定事項だ」

思い出した。

シュリフ。

この国の、将軍の家の名前。

そして、ライナの家名でもあった。

と、いう事は、、、


「シュンリンデンバーグ君からの謝罪も、面会も、不要だ。命を助けてもらった事には感謝している。しかし、もう一つの感情が、邪魔をしてしまう。父上も同じ考えとの事だ。もし、我が家に近づくなら」

剣がすっと横に移動する。

「容赦なく斬る」


ゆっくりと剣を納めるアラス。

「妹たちの命を助けてもらった事。今一度感謝する。我々が不在だった事も、原因の一つではある。よって、我々にも非はある。君に負担をかけてしまった事も、あの子たちが悪魔の巣に入った事も、、な」


後ろを向いているのに、泣いているような気がする。

「本当に、ありがとう」


それだけ言うと、部屋を出て行くアラス。


「あーー。そういう事でな、、、二人とも、ちょっと前に、実家へ帰ったんだ。ロアが護衛で着いて行った」


ヒウマのキレの悪い声を聞きながら。

僕は、涙がこぼれるのを感じていた。

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