第64話傷ついた聖女
[ロア視点]
「本当に、どうしたらいいものか」
僕は、目の前で眠っている後輩になんとも言えない顔をしながらお見舞いに来ていた。
校長からは、しばらく学校は来なくていいと言われている。
また、冒険者ギルドからは、とんでもない報奨金をもらってお礼を言われたけれど。
「気分は最悪だね」
深くため息を漏らす。
ライナさんは、片目が無くなり、気を失ったままだ。
レイアさんに至っては、遠くを見つめたままで時々変な笑いを浮かべる事があるくらい。
「早く起きてくれよ。二人を助けるのは、君の役目だろ?」
魔法球のロアと言われても。
女性に囲まれる事が多いとしても。
二人の事となると尻込みしてしまう。
「ロアっつ!ここにいたのかっ!」
扉を強引に開けて、黒髪の男が入って来る。
「ヒウマ?」
「何、間抜けな顔をしてるんだよ!助けてくれ!レイアさんが、おかしい!」
おかしいのは、いつもの、、、
「今、何とかナイフを取り上げた所だが、にゃんじゃあ、無理だ!手伝ってくれ!」
その言葉に、僕は固まってしまう。
「それって、本当かっ!」
「だから声をかけたんだろっ!」
ヒウマの叫びのような声に、僕は、シュン君の部屋を飛び出る。
最悪を思い浮かべてしまう。
「このフラグは、君のだろう。早く起きてくれよ」
心からそんな事を思いながら。いや、思わず口に出ていた。
僕が到着した時には、にゃんを突き飛ばして、全身に火の魔法を纏わせている所だった。
「魔法球!
魔法球をはさむと、詠唱がいらなくなる。
多分、この事を知っているのは、僕と、シュンくんだけだと思う。
彼も、この魔法球を扱いきっているように見えるから。
自分自身を焼き尽くそうとした火を、一瞬で消す。
こちらをにらみつけるレイアさん。
彼女は、口を開いて。舌を出して。僕は見てはいけない未来を見る。
もう、彼を待ってはいられない。
僕は、彼女を抱きしめて、口づけをしていた。
全身が、拒否感を示して。
暴れて、暴れる。
「僕は、どんなに叩かれても、殴られても大丈夫。でも、シュンくんの為に、生きて欲しい」
僕がささやいた言葉に、レイアさんの力が抜けていく。
目に、涙が溜まり。
僕の胸で泣き出した。
「大丈夫。大丈夫だ。君は強い人だから」
そんな声かけをしながら、きっちりとフラグを構築してしまった事に、心の中でため息とともに覚悟を決めるのだった。
「また、レイアさんか?」
ヒウマがからかうように声をかけてくる。
「仕方ないよ。シュンくんはまだまだ起きそうにないからね」
「まあ、お前がいてくれてよかったよ。正直、あんな事で後輩に死なれたら、後味が悪すぎるからな」
ヒウマは、苦い顔をしている。
彼には、にゃんさんと言う恋人がいる。
シュンくんが目を覚まさない以上、僕が彼女を見て上げるしかなかった。
「あ、、ロアっ!」
僕の顔を見るなり、嬉しそうな顔をするレイア。
彼女は、、、自分が壊れる前に、自分を差し出してしまった。
それを拒否すれば、どうなるか。
【予知】が、二通りの未来を見せて来て。
彼女が最悪を選択した後は、本当の最悪に突き進む未来しかなかった。
だから、僕は、彼女を受け入れるしかなかったのだけれど。
「これは、、、寝とった事になるのか。なるんだろうね」
後輩の恋人を取ってしまった罪悪感に。
そして、少しだけ優越感を感じてしまい、自己嫌悪に陥る。
「ご飯、、いる?私でもいいよ?」
少女のように笑うレイアに、僕は笑顔で返す。
彼女は僕が来るとかいがいしく世話をしようとしてくれる。
ご飯を作ってくれたり、体をほぐそうとしてくれたり。
依存。
そんな言葉がよぎっていた時。
「う、、、、ん、、、」
レイアと同じ部屋に寝ていたライナさんが目を覚ました。
ゆっくりと起き上がって。
笑い合っている、僕と、レイアを見て。
「レイア?」
ライナさんが、呟いた後。
自分の顔を触り。
くぼんだ左目に触り。
「い、、、いや、、、いや、、、、いや、、」
悲鳴を上げる。
咄嗟に、僕は彼女を抱きしめる。
「わたし、、、わた、、、、」
「ライナっつ」
レイアも一緒に彼女を抱きしめて。
二人で泣いていると、僕まで涙が出て来る。
3人で抱きしめ合っていると、部屋がノックされるのが聞こえた。
入って来たのは、金髪の、青年。
騎士団の鎧を着込んでいた。
「君は、、、シュン、、、ではないな。ロア君か」
青年は僕を見て、値踏みをするような目をしていた。
「君なら、任せられるかもしれないな」
それだけ言うと、ライナを見て目を細める。
「ここにいては、傷が深まるばかりだ。一度戻れとお父様からの伝言だ。ライナ。護衛は、、、ロア君にお願いしよう」
決定事項のように、淡々と伝える青年。
僕が、そんな彼を睨むと。
「そう、警戒しないでくれ。ロア君。僕は、ライナの兄。アラス・シュリフだ。お父様から、ライナを帰省させて、しっかりと休ませて欲しいと頼まれただけだよ」
アラスと名乗った青年は、冷静な顔で僕を見つめている。
けど。僕には何故か分かってしまった。
その目の奥に、深い深い怒りが。
握り締められた両手の震えに、後悔が。
それは、僕も一緒だ。
シュンくんをあの時は責めてしまった。
けど、もっと早くあの場所へたどり着く事が出来ていたら。
2人を助けられたかも知れない。
お兄さんの怒りを、感情を感じながら、僕は口を開く。
「お受けいたします」
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