第63話 赤く染まり、、、炎の跡に

グロ表現があります。 苦手な方は注意してください!




シュン視点


「ライナ、レイア、、生きていてくれよ」

心から願いをこめて呟きながら、僕は地面にぽっかりと開いていた暗闇へ続く道を降りて行く。


どれくらい歩いたのか。

足元が悪いせいで、何度か転びかけながら降りていると、

声が聞こえて来た。

いや。

泣き声?違う。絶望した人の声。


メイスを構えて。

歩き続けると、道の端に、ヒウマ先輩が倒れていた。

全身血まみれのにゃんさんが。


ヒウマ先輩の身体を必死に舐めている。

「治らない、、、にゃ、、、」

「治って、、、、にゃ、、、」

同じ事を呟きながら、ヒウマを舐め続けるにゃんさん。


傷だらけなのは、にゃんさんも同じなのに。


何が起きているのか。

全く理解が出来なくて、棒立ちになっていた。

突然頭の中で鳴り出したアラームがうるさい。


マップ上の赤い点が、点滅している。

キラリと何かが奥で光り。

黒い何かが飛んで来て、にゃんさんの肩を貫き、ヒウマ先輩と一緒に洞窟に縫い付ける。


うめき声すらあげないヒウマ先輩。

にゃんさんは。

自分の肩を貫かれているにも関わらず、一心不乱にヒウマ先輩を舐めている。


二人を縫い付けているのは、槍。

しかも、いつ、誰のかもわからないようなボロボロの。


奥を見れば、台にくくりつけられているライナと、台座に縛り付けられているレイア。


その光景に。

頭が沸騰する。


怒りなのか。誰への怒りなのか。

分からないまま。

激しい光りは、緑へと色を変えて。

洞窟の中を緑色に染め上げる。

光りは、ヒウマ先輩の出血を止め。

にゃんさんの傷をいやす。

二人を縫い付けている槍が、崩れ落ちる。

二人に空いた穴すら塞いで。


緑色が吹き荒れる。

そんな中。

僕は奥にいた犬頭に、殴りかかっていた。

槍が飛んでくるけど、無理やり体を動かして避ける。

あとちょっと。

後ちょっとでメイスが届くと思った時。

目の前が、毒々しい緑色の霧に包まれる。


思わず、後ろに跳んだ僕の目の前で。

赤い、、、赤いカーテンが引かれた。


炎の壁。

ファイアーウォール。


一般的な足止め魔法。

なのに、炎を目の前にして、動けない。

脚が、体が動かない。

体が震えて、、、汗が噴き出る。


見なければいいのに。

炎の揺らめきから目が離せない。

頭が痛い。 抱えてうずくまりたい。

視界一杯の赤が。

世界を赤く染めていく。


槍が飛んでくる。

けど、絶対結界が自動発動して僕を守ってくれる。


炎の向こうで。

僕が動けないと分かったのか。

犬頭がニヤリと笑った気がした。


ローブを着た犬頭が、くくりつけられているライナに近づく。

悲鳴が聞こえる。

罵声が聞こえる。

僕が聞いた事の無い声。

ローブを着たコボルトは、何かを取りだす。

登山で使うような、先の曲がったかぎ爪。

ゆっくりと。ゆっくりとライナに近づける。

動けない。

声すら上げれない、僕の目の前で。

ライナの顔が押さえつけられる。

魔法なのか。

顔が動かなくなるライナ。


ゆっくりと。かぎ爪がライナの顔に近づいて行く。


おい、何を、、何をする気だっ!


ライナの悲鳴が。

絶叫が。

耳に。いや、頭に響く。

やめろ、やめろ、やめろ、、やめろっ!


「がぎゃぁあっぁぁっぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」

女の子が出す声じゃない。

人が出せる声じゃない。


ぐったりと頭を垂れるライナの顔から、血が流れ落ちる。

ローブの犬頭の手の上にあるのは、ライナの顔にあった丸い球。


「いや、いや、いや、いや」

レイアが叫ぶ。

何か、犬頭から飲まされている。

口づけで。

レイアの服が破かれる。


動けよっ!動け、俺のからだっ!


自分の身体はまったくいう事を聞かない。

レイアにコボルトがのしかかる。

レイアの、聞いたことも無い、悲鳴が聞こえる。


頭がぐちゃぐちゃだ。

何も考えられない。


ぐったりしているライナの顔を犬頭が持ち上げ、再び押さえつける。


もう一つの目に、かぎ爪が近づいて行く。

悲鳴すら聞こえない。


助けて。

俺が心から叫んだ時。


炎の壁が吹き飛んだ。

「君は何をしているんだっ!」


魔法球が。

炎の壁を吹き散らす。


「助けに来たんだろっ!彼女たちをっ!答えろっ!シュンリンデンバーグ!」

ロア先輩の叫び。怒りに満ちた顔。


知っているよ。お前よりも。

俺の心は、、


叫ぶ。気が付いたら、僕は叫んでいた。

命を全て燃やしてしまうほどに。


叫びながら。自分に対しての怒りに。絶望に。

何も出来ない悔しさに。

魔力があふれ出る。涙も、何かかも。

いろいろな感情と。

いろいろな魔力の色が噴き出て行く。


「があああああああ!」

獣のような叫び声が聞こえる。

僕の口から。


僕から噴き出た魔力は、混ざらず。

色を保ったまま、部屋を埋め尽くして行く。


「ま、、魔力暴走、、、、」

ロア先輩の声か。ヒウマ先輩の声か。


限界まで噴き出た魔力は部屋全てを満たして。

突然、爆発した。




全てが終わった時。

地下室は吹き飛び、コボルトも吹き飛び。


青空が、見えていた。







気を失っているシュンリンデンバーグ君を見ながら、僕は。

魔法球のロアと言われた僕はため息を吐く。


「魔力暴走は、全てを破壊するはずなのに、、、僕たちを対象外にするとか、、どうやったら、そんな器用な真似が出来るんだい?教えて欲しいくらいだよ」

完全に気を失っているシュンくんに、返事の無い質問を投げかける。

シュンくんの魔力暴走は、コボルトだけを巻き込み。

部屋と、コボルトを吹き飛ばして収縮した。


その魔力は、多分、僕の5倍以上。

「ありえない量だよ」

けど、、、被害は、、、、

ヒウマ君は、傷が深すぎたのか。

まだ動けない。

にゃんさんも、かろうじて動けるくらいだけど、とてもじゃないけど、町まで戻れる体力は残ってないように見える。


ライナさんは、、、右目を失って気絶している。

滝のように流れていた血は止まっているから、魔力暴走と同時に、彼女の傷を治したんだと思う。

レイアさんは、髪の毛が真っ白になっていた。

今も、自分の身体を包むようにうずくまって、震えている。


「全てを、フラグを折ってとは言ったけど」

「これは、皆を全員町まで運べと言う事になるのかな」

無茶な話だ。


そう思っていると、遠くから、叫ぶ声が聞こえる。

あの声は、ギルドマスターだ。


魔力暴走の光りは、遠くからでもよく見えたみたいだ。

僕は、そのまま地面に座り込む。


「でもね、、、コボルトシャーマン相手に、死者無しって、、歴史上の偉業だよ。シュンリンデンバーグ君」

僕の呟きも。


全てを吹き飛ばしたシュンくんの魔力の前だと、何も意味を持たない気がしていた。

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