第62話 地下

ロア先輩が来てくれた。

ヒウマ先輩も来てくれた。


僕は走りながら、少しだけ気分が楽になっていた。

無数にあったと思っていた赤い点が、どんどん減っている。


二人が次々と魔物を倒してくれている証拠。


なのに、そんな僕の思いは打ち砕かれる。


緑の、二つの緑の点が、、消えた。



僕はまたハーフバウンドの群れに囲まれていた。

こいつらは、木を蹴って空中を走る。

「犬なら、地面を走れよ!クソがっ!」

焦りから。

悪態が出る。


死んでしまった?

また、助けられなかった。

そんな思いが、頭をぐるぐると回る。

カイル達、炎の楔。 お母さんと言ってもいい、シスター達。


あの地獄の40年を過ごした記憶もあるのに。

もっと、強い魔物の中を生き抜いたのに。

なんで。


「邪魔するなぁ!」


群れをまとめて吹き飛ばす。


圧倒的速さで、ライナ達が隠れていたと思われる場所まで行った、ヒウマ先輩とにゃんさんを示していた緑の点が消える。


「消えた?もしかして、、、」

昔のゲーム。とくに、皆で遊ぶタイプのゲームを思い出す。

たしか、洞窟に入ったりしたら、マップから本人を示すマーカーは消えるはず。


あのチートな先輩と、チートな猫は絶対に死ぬ事はないと思う。


ゴブリンも、巣穴に獲物を連れ込む性質がある。

なら、洞窟か、巣穴にライナたちを連れ込んだ可能性が高い。


木にぶつかって、ありえないほど曲がったハーフバウンドに見向きもせずに走り出す。


速く。速く。


すれ違い様に遭遇した魔物をひっかけ、ぶん投げる。

走る足も、メイスを持つ手もしびれて来る。

魔物を何匹吹き飛ばしたのか、数える事もしてない。


それでも、無理やり自分の身体を動かす。

昔も。

カイル達の報告をしに走った時も、こんなに辛かった。

自分は成長してない。ずっと走っている気すらする。


横から飛び掛かって来た魔物が。

魔法球に張られた絶対結界に阻まれて、地面に滑り落ちていく。


地面に落ちた魔物は、魔法球からの魔法の連打で倒れて行く。


そんな攻防も一切無視して。

僕は走り続ける。

間に合え。







ヒウマ視点


「にゃん、この辺りか?」

俺は、自分の相棒に声をかける。

いや、相棒とかそんな関係でも無い気がする。

分身?いや、もう俺の一部かもしれない。


「臭いから言って多分、このあたりに、入り口があると思うのにゃ。ヒウマ」

にゃんは、そう言うと、巨大な足で地面を踏みつける。

激しい音がして。

地面にぽっかりと穴が開いた。

地面の下へ向かって、スロープのようにくだり坂が続いている。


「この先か」

俺がにゃんから降りると。

するすると小さくなったにゃんは、俺の腕を掴んでいた。

獣人の村に転移してから、ずっと一緒に過ごして来た。

彼女とは、ずっと一緒だ。今までも。これからも。


改めてそんな事を思いながら、俺は暗闇の中へと足を踏みいれる。

「足元が少し悪いにゃ、ヒウマ気を付けてにゃ」

猫科でもあるにゃんは、暗闇でもよく見える。

さらに、耳をピクピクさせている。


小さい物音も聞き逃さない。

ゆっくりと、不安定な足場を気にしながら降りていると。


「あそこにいるにゃっ!」

にゃんが叫ぶ。


暗い中。目を凝らすと。

うっすらと明るくなった部屋の中で。

犬顔の子供くらいの大きさの何かが動いていた。


台に括り付けられているレイアさんと。

貼り付けのようにされているライナさんが見えた。


「この野郎っ!」

俺は、我慢できなくなり、叫びながら走り出す。

俺の得意武器は実は暗器。

この狭い空間はむしろ得意な戦闘だ。


3匹同時に、首を跳ねる。

びっくりしたままの犬の顔が空中を飛ぶ。


奥から飛んで来た火の魔法を前転する事で避け。

「とげとげになりやがれ」

ニードルラッシュを発動。

無数の土魔法の矢が飛んで行くはずだった。


そう。周りに、黄色い霧がまとわりつくまでは。

「ひ、、ヒウマっ!」

にゃんの叫び声で、自分の脇腹に、槍が刺さっている事に気が付く。

体が、動かない。

視界も、悪い。

世界が、、赤く見える。


「ヒウマっつ、ひうまぁ」

ずりずりと、にゃんがこちらに近づいて来る。

「マ、、、ヒ、、、、?」

俺は、倒れたまま。大量に出血しながら、眠くなるのを感じていた。

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