第68話新しい日常
「いつもすごいですね」
ギルドに依頼達成の報告をして、持って帰った素材の清算をしていると、いつもの受付のお姉さんが、にこやかに、笑いかけてくる。
今、目の前の新人さんは必死な顔で素材の仕分けをしている。
新人さんも、あの大進攻の後から何かにとりつかれたみたいに仕事をしている。
何かあったのかは、まだ怖くて聞けていないけど。
「お、、、オオカミの毛皮が、、こんなに、、、」
ぼそりと呟くのが聴こえる。
ああ。
帰りに、群れがいるのが分かったからささっと全滅させたんだっけ。
「それ、、依頼を出そうと思っていた街道沿いのオオカミじゃないですか?追加で、報酬を出してくださいね」
新人さんは、となりからお姉さんに声をかけられて、びくっと震えている。
「今日はもう終わりにしますか?」
「うん。そのつもりだけど」
まだ日は高いけど、まあ今日の稼ぎは十分だし。
「指名依頼というわけではないのですが、私のお願い、、聞いてもらえませんか?」
「また?最近多くないですか?」
突然両手を握りしめてきた受付のお姉さん。
僕は、呆れた声で返事をする。
最近、オオカミの群れの討伐、暴走した水牛みたいな見た目の魔物の暴走の処理。
ジャイアントアントの巣の駆除。
なんか考えたら、この方法でお願いされた依頼が多すぎる。
「気のせいだと思いますよ?」
いや、絶対多い。
「遠慮とか、、、知ってます?」
「何処かに、落ちてるかもしれないですね」
「拾ってくれると助かるのですが?」
「それが、なかなか見当たらないのですよねぇ」
確信犯ですか。そうですか。
「それはそうと、この依頼なんですけど」
その一枚を見て、僕は体が固まってしまう。
【森の探索】
コボルトシャーマンが存在している可能性あり。
Bランク推奨。
森の奥に、スケルトンウルフを数匹確認したと報告あり。
コボルトアルケミスト、コボルトシャーマンの発見は無し。
深部に再び存在している可能性もあり、捜索を緊急で依頼するものとする。
スケルトンウルフの討伐できれば、別途報酬あり。
「かなり危険そうな臭いがするうえに、Bランク依頼なんだけど?」
僕は、まだDランクでしかない。
「あら。おかしいですね」
受付のお姉さんは、ペンを持ってくると、Bを上からなぞって、Dにしてしまう。
「ほら、Dです」
「いや、明らかにいま、偽装してよね。ねぇ、目の前で、堂々とっ!」
僕の批判にもめげずに、上目使いでこちらを見てくるお姉さん。
「今、Cランク以上の冒険者が少なすぎて。後、前の大進攻の事もあって、森へ入ってくれる冒険者があまりにも少ないんですよ」
まあ、Cランクパーティが、2つも行方不明になったばかりだしね。
「だから言って、置いていていい依頼ではないですし。お願いできませんか?もし、彼らがいたら、戦闘はしない事。今なら報酬に、私のキスもつけますよ?」
「それはいらない。ただ、スケルトンウルフの素材は自由にさせてもらっていいか?」
最近武器にしているメイスの痛みが激しい。また作らないといけないけど、スケルトンウルフなら強度は十分だと思う。
「それはもちろんです。討伐部位さえ見せてくれれば、処理しますので。どうかよろしくお願いします」
にっこりと笑うお姉さんに。
僕はため息をひとつついて、森へと向かうのだった。
「せ、、、せんぱい?あの、、、」
シュンくんを見送った後。
後ろから、新人の子が私に声をかけてくる。
「いいんですか?あの依頼、、、」
この子は、間違えて冒険者をとんでもない危険な依頼に送り出してしまった。
その事を気にしているみたいだけど。
「本当ならダメよ。私も、怒られるわ。けどね、シュンくんなら、やってくれると思うの。マスターからも、3人には、少し危険な依頼をお願いしてもいいって言われているしね」
私は、そっと彼の依頼達成の書類を見る。
ジャイアントアントの巣は、200体を超える巨大な物だった。
それは、Cランク2パーティで処理する物。
水牛の暴走は、Dランクバーティに死人が出たくらい危険な物だった。
彼に依頼してきて物は、どれもDランクじゃ無理と言われる依頼。
それを一人で処理している彼は、明らかにAランクと言ってもいいと思う。
「はぁ、、、栄誉紋章持ちは違うんですね」
「彼は、、、彼よ。無理をさせている自覚はあるのだけどね」
彼に渡した報酬額の一覧を見ながら、私はため息を吐く。
Dランクではありえない報酬額。
それだけ危険な依頼を押し付けている事実。
「人手不足とはいえ、、ね」
ため息をつきながら、私は子供に何をさせているのだろうと、自己嫌悪に陥るのだった。
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