第69話素材と、新しい武器。
「さて、、と」
森に入ると、僕は愛用のメイスを取りだす。
この世界は優しくない。
僕から全てを奪っていく。
ぐっとメイスを握りしめる。
改めてマップを確認すると、まばらに赤いマーカーがある。
この前の、あの魔物の群れ。
あれは、大進攻とかぶっていたのだろう。
マップが赤く染まるなんて、そうそうない事だから。
50体以上の敵が一気に沸いて村を襲ったりするのを、大攻勢と呼ばれる。
そして、100体以上が湧くのが大進攻だ。
大攻勢が起きれば、大騒ぎになるけど、まだ耐えられる事が多い。
けど。大進攻はダメだ。
僕がいた町を襲ったゴブリンの大群も、200体以上いたのだし。
ぐっと手に力が入る。
守れなかった人達の顔が浮かぶ。
最近聞いた事でびっくりしたのは、【炎の楔】の3人が教科書に載っている事だった。
たった3人で、100体以上を撃破した、伝説のBランク冒険者。
らしい。
「死んだら、終わりだろ」
僕は小さく呟く。涙が溢れそうになる。
偉業は生きてなしてこそ偉業だ。そう思う。
そんなとりとめの無い事を考えながら、僕は森の奥へと入っていくのだった。
「話と違うじゃないか」
森の奥へと来た時、目の前にいたそいつを見て思わず笑みが浮かぶ。
他に危ない魔物はいない。
取り巻きにスケルトンウルフが数体いるけど、どうって事は無い。
コボルトアルケミストも、コボルトシャーマンもいない。
地下にいる可能性はあるけど、コボルトに一体も遭遇していないから、その線も薄い。
あいつらは、必ずコボルトを使い走りにするのだから。
多分、コボルトシャーマンの使役する魔物か、アルケミストの薬で強化された奴が野良になったのだろう。
「久しぶりだな」
顔に笑みを浮かべたまま、スケルトンウルフの真ん中に立つ、巨大な燃える骨に挨拶をする。
スケルトンヘルドック。
僕がそう名付けた、転生前の森で出会った魔物。
青い炎をまとった、骨だけの魔物。
そして。
僕の、昔の槍の素材。
「青い炎をまとってる時点で、お前の負けだ」
赤でなければ大丈夫。
赤い炎でなかった事を悔やむといい。
動く手足を確認しながら、僕は笑う。
上位種。本来ならAランクと言われるはずの最強種を前に、僕は笑っていられた。
メイスの一撃で、取り巻きの骨をあたりにまき散らす。
吠える炎が、青白い火の球を打ち出す。
余裕でその炎を避けると、その腹にメイスを打ち込む。
金属音とともに、手がしびれる。
「硬ったっ!」
力は2000近くまで上げている。
大岩を上げたとか言う、伝説の戦士の2倍のステータスはあるはずなんだけど。
スケルトンヘルドックが身震いをすると、辺り中に火がまき散る。
全部青い炎だから、一切気にならない。
当たったら、ただじゃすまない温度だけどね。
熱気を感じながら、その炎を飛び越え一撃を加える。
再び鳴る金属音。
流石はAランク。硬い。
「この骨やろっつ!」
力いっぱい、横殴りに叩く。
ミシッと何かが鳴った。
こちらを向いたスケルトンヘルドックの目に激しい殺意が見える。
口を目の前で開け。
真っ青な炎が口の中に生まれ。
その場で弾け飛ぶ。
絶対結界を張った魔法球を口の前に押し付けてやったのだ。
「魔法球は、こんな使い方も出来る!」
そのまま、魔法球を殴りとばし、絶対結界ごと相手を吹き飛ばす。
「絶対結界のシールドバッシュは効くだろ?」
数歩下がった燃える骨を見ながら、僕は笑っていた。
「びくともしてないか」
ぶるると震えるスケルトンヘルドックを確認する。
「じゃあ、どれだけ耐えれるか、我慢比べしようぜ」
僕は、スケルトンヘルドックへと走って行く。
何度も。何度も。
骨を殴る。
力いっぱいメイスを振い。
その骨の頭を殴った時、にぶい音と一緒にメイスが砕ける。
「ははっは」
笑いが出る。
「あきらめて、俺の武器になりやがれっ!イヌっ!」
左手に、魔法球を握りしめる。
焦ったように炎を噴き上げるスケルトンヘルウルフ。
その目の前で、絶対結界を発動。
青い炎の嵐を耐える。
右手に纏わせるのは、土魔法のドリル。
ヒウマが教えてくれた、魔法を体に纏わせる技術の応用。
ドリルを突き刺し。
自分ごと、風魔法で押し込む。
木に押し付け、木をなぎ倒し。
体中が熱い。
全身にやけどが広がる。
絶対結界は、炎そのものは防いでくれるけど、周りに広がる熱までは防いでくれない。
そして、今目の前にあるのは、大型のガスコンロだ。
その圧倒的な熱で汗が噴き出る。
そのやけどすら、風魔法で癒しながらさらに右手を押し込む。
「死ねヤァッ!」
さらに、さらに右手を押し込んだ時。
ビキッと音がする。
ビキビキッと音が鳴り響き。
ついに耐えきれなくなったのか、スケルトンヘルドックがバラバラとその場に崩れ落ちる。
その残骸を見ながら、僕は肩で大きく息をしていた。
「さっさと素材になればよかったのに」
ヒビが入ったのか。
やけにズキズキ痛む右手に、回復魔法をかけながら、僕はその素材を回収するのだった。
【受付のお姉さん】
ギルドの受付の中。受付のお姉さんと新人の子の二人が、話していた。
「先輩、せんぱい、ほんとうに大丈夫なんですか?」
ひどく心配している新人の子。
「大丈夫よ。あの子は強いから。多分、このギルドのCランク冒険者以上に」
私が新人の子をなだめていた時。
カランと、入り口が開く音がする。
二人で、入り口を見る。
「あ、シュンさん!」
新人の子がすごくうれしそうな顔をしている。
この子も、あの事件が本当にトラウマになっちゃったな。
そんな事を思っていると、シュンくんが困った顔をしていた。
「コボルトシャーマンはいなかったが、スケルトンヘルドックがいたぞ」
シュンくんがそう言いながら、素材を出してくれる。
それを見た瞬間。私は固まっていた。
「す、、、すけるとん、、、バーン、、、、」
スケルトンバーン。
辞典にしか乗っていない、Aランクの魔物。
常に炎をまとっている魔物で、その炎は1000度を超えるとか。
触った瞬間にやけどを負う、その高温の炎をまき散らしながら突進してくるその魔物に遭遇して生きていけるわけはないと言われる、地獄の魔物。
「えっと、、、、あの、、、、、」
新人の子が、やっと言葉を出す、、、
「せ、、、せんぱぃ、、、、スケルトン、、バーン、、、て、、Aランク?」
うんすごく勉強している。
褒めてあげたいけど、今はそれどころじゃない。
「マスターーーーーー!!!」
ドラゴンと同じランクの魔物を持ち込まれて。
私は、マスターに助けを求めるしかなかった。
【シュン視点】
「さて、、これで作れる」
少し引くくらいの報酬金額をもらった後は、自分の部屋に戻って素材を引っ張りだす。
「スケルトンバーンっていうのか」
ケルベロスみたいだから、ヘルドックとかつけてたけど、初めて名前を知ったな。
そんな事を思いながら、目の前の骨の素材に魔力を通して行く。
魔法を常に纏っている魔物は、魔力との相性がいい。
巨大な骨を魔力で圧縮。
石附の部分は、胸の骨を絡ませるように。太くしていく。
槍刃部分は、あいつの爪。
少しでも魔力を通すと、青白い炎が生まれる。
持ち手が燃えるのは、どうにかしないと。
そんな事を考えながら、槍を作っていく。
そして、出来たのは、昔使っていた槍よりも圧倒的に禍々しい、それでいて、圧倒的に強度の高い槍。
十文字の槍刃部分から伸びた持ち手は、途中で二手に分かれ、再び一つにまとまっている。
僕以外が持つとやけどするくらい高温になる槍。
魔力を込めると、槍の刃が真っ青に染まる。
多分2000度近くまで上がっていると思う。
燃える槍。
いや、ヒートスピアかな。
軽く振って、使い心地を確かめる。
軽く振ったのに、あっさりとテーブルを切断してしまう。
ああ。これ、振ったらダメな奴。
そんな事を思いながら、僕は笑みを浮かべていた。
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