第70話依頼

「シュンリンデンバーク、、、か」

重厚な鎧をまとった兵士は、目の前に置かれた素材を見て唸っていた。

「はい。冒険者ギルドに持ち来れた素材との事です」

「王都周辺に、こんな魔物がいた事も驚きなのだが」

「スケルトンバーンなど。いっさい情報にありませんでした」

「自然発生か、コボルトに作られたか」

「それよりも、これを単独討伐した事が問題かと」

「本人は無傷、、だったな」


「笑っていたらしいです」

「ふむ」

「どうみても、放置しておいていい人物ではありません。コボルトシャーマンを討伐した時の状況を見ても、ほぼ単独討伐。そしてこちらにいたっては、完全単独討伐。竜が歩いているとしか」

「国王陛下に報告は?」

「滞りなくおこなっています。Aランク指定の魔物の発生と、その処理にあたった旨を」


しばらく兵士は自分のヒゲを撫でていたが。

「いるか?」

「はい。こちらに」

「シュンリンデンバーク。少し調べてくれ」

「分かりました。シュリフ様」

突然現れた女性に、驚く事もなく二人は目線を合わせる。

「任せた」

髭をたくわえた兵士の一声に軽くお辞儀だけして消えていく。

「どう思う?」

「私は、処分対象としても良いかと思います。危なすぎます」

「竜と呼ばれた事もある魔物を倒す、少年、、、か」


自分の娘が好きだと言っていた青年の名前を前に、シュリフはしかめつらを続ける。

「4Sにそれとなく連絡をしておいてくれ。必要とあれば、彼らに処分してもらえばいい」

「了解しました」


将軍に敬礼を返し。

シュリフ将軍の部下は、部屋を出て行く。

「儂は、判断を間違ったのか?ライナをあやつにやれば、、、いや、しかし、ライナを守り切れんやつに娘を渡すわけには行かんっ!」

殴られた衝撃で、跳ねたスケルトンバーンの足の骨を見ながら。


シュリフは唸り続ける。

親としての感情と、将軍としての手ごまとしての価値を測りかけて。





「依頼はあります?」

僕がギルドに入ると。

ざわついていたギルド内が突然静かになる。


「あれ、あいつだ」

「暴緑だ」

「Aランクを単独討伐したらしい」

「化け物か?」

「おい、お前、パーティに誘ってみろよ」

「無理無理。俺達が足手まといになっちまう」

「ベアがこっちに戻って来るって話もあるよな」

「あの、腕試し馬鹿か?!」

「そりゃ災難だ」


そんなひそひそ声が聞こえて来る。


「あ。シュンさん。前回のスケルトンバーンの討伐ですが。

Aランクの魔物は災害指定される事もあるので、国から、感謝状と、栄誉紋章が届いてます」

だからと言って、一気にランクは上がりませんけどね。

笑っている受付のお姉さんに、思わず微笑み返してしまう。


紋章の後で、そっと目の前に依頼書が出て来る。

「王都の南にあるナンの村まで護衛をお願いしたいという依頼がありまして。依頼主はカラさん。ローダローダ様に遣える修道女なのですが、回復魔法も使えるとの事です。依頼内容は、行きかえりの護衛と、村の中で、神事を行う間の村の護衛との事です。それほど依頼料は高いものでは無いのですが、シュンくんは少し王都を離れた方がいいと思うので」


僕はそっとため息を吐く。

「ベアって、奴の事?」

「そうですね。誰かれ構わず勝負を挑むんですけど。絶対勝つまで挑み続けるんです。本当に迷惑していると何人もBランク冒険者さんから、苦情が来るんですけど、辞めてもらえないんですよね」

だから、少し離れてやり過ごすのがいいと思うんです。


受付のお姉さんの苦笑いに。

僕はさらに気持ちが落ち込むのだった。



王都の南。

街を守る壁の向こうに、高い塔3本と、負けずに高い城の屋根が見える。

城は城壁の中にあるものだけど、この国の城は城壁の外に城があるのだ。

クーデター対策ともいわれているが、結局は、対人戦よりも魔物と戦う事を前提に考えられた街。


魔物は人が多い方へと流れて行く。

だから、街そのものをおとりにして、王族を逃がすための作り。

そんな裏情報を知って気が重くなる。


どこまで行ってもこの世界の魔物は強すぎる。

だからこそ。逃げる事を前提にしているのだろう。


「カラと申します。どうかよろしくお願いします」

南地区にある修道院の前で、薄い緑色の髪の女性が頭を下げる。

年は20歳後半くらいだろうか。回復魔法が使える人はすさまじく忙しいから老けて見える人が多いんだけど。


「何か、私の顔についているでしょうか?」

「いえ、シスターさんにしては、お若いなと」

「そんな。まだ私はシスターを名乗れるほど精進しておりません。

だから、修行としてナンの村に赴くのですから」

大変だなと思っていると。

「これも、ローダローダ様のために身をささげる準備ですから。

大変と思ったことはありません」

そういって、大きな円を描くように手の平を回し、体の真ん中で交差させ、両手を広げる。


その動作を見て、思わず僕も同じ動きをしていた。

昔の司祭をやっていた時の癖が。。。



「あら。ローダローダ様に近しい方でしたか。ますます、頼もしく思います。ローダローダ様のお導きに感謝いたします」


「では。準備をいたしますね」

それだけ言うとカラさんは再び修道院の中へと入って行く。


突然、地面が揺れたような気がした。

東地区から、煙が見える。


「貴族地区の方だ!」

「爆発だと!暗殺の可能性もあるっ!すぐに応援に行くぞっ!」

数人の警備隊が、叫びながら走っていく。

守秘義務とかないのかな。


物騒になったなぁと思いながら、僕はカラさんを待つ。


「では。改めて。お願いしますね」

改めて。僕たちはローダローダ教の挨拶を交わすのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る