第71話奇跡の。。
「ええ!あなたも、奇跡の子だったのですかっ!」
行きの馬車の中。
びっくりした顔で聞いてくるカラさん。
自分の昔話をしてくるカラさんにつきあって、自分が孤児である事と、昔に修道院で癒しを施していた事を話したら、予想以上だった。
「ですよねー。魔力も少ないのに、回復お願いとか、私だけ仕事が多いとか、思っちゃいますよねー」
「そうそう。だからって言って、ご飯が多くもらえるわけでも無いのにねぇ」
「ほんっとにそうですよ!」
回復の軌跡を行う人は、普段の修行と言って、掃除や、庭の手入れ畑仕事を終わらした後から、回復の軌跡を施すのだから、けっこう辛い日々なのだ。
その間、他の人は普通にお昼寝したり、自由時間だったりするのに。
「でも、この力があれば、って泣いている人を見たらやってあげないとって思ってしまうんですよね」
しみじみと呟くカラさんを見ていると、本当に優しい人なんだと思う。
「だから、この遠征も、嫌いでは無いんですけどね。魔物に襲われたり、変な冒険者にからまれたりしなければ」
大きくため息を吐く。
怪我をした冒険者が、馬車を止めて、全員を全回復させろとか言ってくる事があるらしい。
大体、その場合、数人は死んでいる事が多いそうだ。
「だから、護衛がいるのです。冒険者さんも、どうしようも無くて泣きついているのだとは分かっているのですが、死んでしまっている人には、何も出来ませんから」
そうだね。この世界では。いや。前の世界でもか。
簡単に人って死ぬんだよね。
そんな事を考えながら、馬車は進む。
野宿の時に、空間収納から取り出した屋台のお肉を出して食べていたら、全員が、じっと見てきて、全員分を取りだして配ったり、スープをナベごと取りだして配ったりしたりとした事もあったけど
無事にナンの村に着いた。
「シュン様っ!」
カラさんの目が、ちょっと尊敬を超えている気がする。
「いや、まさかあれほど手の込んだきちんとした食事がとれるとは思ってませんでした。本当にありがとうございます。帰りも、、、ありますかね?」
馬車の御者さんにまでそんな事を言われてしまって、苦笑いしか出なかったけど。
「聖女様。お待ちしておりました」
一人のシスターさんが、走って来る。
「怪我をしたり、病気の方を集めております。お願いいたします」
「はい。では、さっそく始めましょう」
顔を上げて、真剣な顔をしているカラさんがかっこよく見える。
村にある小さい教会に、シスターと一緒に入り礼拝堂の中で待っていた村人へと声をかけ始める。
切り傷とか、少し重めのやけどとかそんな人が多くいる。
病気の人は、、、回復魔法をかけて体力を回復させて帰す感じかな。
護衛という事もあって、僕はカラさんが回復魔法をかけている姿をじっと見ていた。
すると、列の方が騒がしくなる。
「そんなやつらより、ガッシュを、ガッシュを助けてくれ!」
泣きながら、並んでいる人を押しのけて入ってくる冒険者。
ぼろぼろの鎧。体中に深い傷を負っているのか。
血だらけになっている。
周りの村人が、思わず避けてしまうほどに。
「すみません。順番をお守りください。それに、、、、」
カラさんが言い難そうに二人を見る。
うん。冒険者の一人が抱えている一人は、あきらかに重体だ。
「申し訳ありませんが、、私では、その傷は治せません」
「し、首都から来た聖女様なんだろっ!だから頼むよっ!」
言葉にならないくらい、ぐしゃぐしゃの声で、顔で、叫ぶ。
もう少しで、死ぬだろうと思われる傷。
多分、体の中も大分ひどい傷を負っている。
「だから、、わたしには、、、」
カラさんが、目を伏せる。
「報酬を払ってくれるなら、治せるけど?」
カラさんに詰め寄っていく冒険者をおしのけて、僕はカラさんの前に出る。
「払うっ!払うから、頼むっ!ガッシュを。ガッシュを助けてくれ!」
男が叫ぶように声を上げる。
しかし、ガッシュと呼ばれていた男が口を開いた。
「ばか、、が。 かね、、ないだろ。 すてて、、け」
「ふざけるなっ!」
真剣に怒る冒険者の姿を見て、僕は少しだけ笑みを浮かべていた。
この二人、悪い人じゃないみたいだ。
変な二つ名がついてる僕に気が付いていないところをみると、王都周辺では活動していないのだろうけど。
僕はゆっくりと手をかざす。
教会の床一面に緑の魔法陣が生まれる。
ゆっくりと。優しく緑色の光りが教会の中で漂い出す。
何かと思い、列になっていた村人たちがぞろぞろと入って来る。
緑の光りは、ゆっくりとその動きを速めて行く。
「きれーーーーーい!」
怪我をしているはずの女の子が、キラキラした目でその光景を見て感動している。
緑の光りは、ゆっくりと渦を巻くように動き始める。
「
僕の声と同時に、教会にいる全ての人の傷が一瞬で治る。
傷だらけの二人の冒険者の血がとまり。
傷が治って行く。
これは、、本当にひどい傷だ。
僕が使える最上級の回復魔法。
千切れた手くらいくっつけれる回復魔法なのに、すぐに治らない。
良く生きていたと言える傷だった。
ガタッ!と大きな音を立てて、冒険者の二人はその場に倒れ込む。
傷は完全に治ったけど、相当体力が減っていたんだろうと思う。
その場で、二人しておおきないびきをかいて寝ていた。
かなり無理をしていたんだろうなぁと温かい目で見ていると。
後ろから何か、キラキラした目を感じる。
「し、、、司祭さま?」
腰を抜かして座り込んでいるのに、すごく尊敬の目で僕をみるカラさん。
あ。。。
やっちゃったかも。
「奇跡の、天使さま?」
ああ。昔の愛称って、、、まだ生きてたの。。。。
僕は頭を抱えるしかなかったのだった。
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